卵巣明細胞腺癌に対するmTOR阻害剤の有効性に関する研究のプロトコル作成と研究体制整備

文献情報

文献番号
201215024A
報告書区分
総括
研究課題名
卵巣明細胞腺癌に対するmTOR阻害剤の有効性に関する研究のプロトコル作成と研究体制整備
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-臨研推-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 恵一(埼玉医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 道前 洋史(北里大学 薬学部)
  • 杉山 徹(岩手医科大学 医学部)
  • 平澤 猛(東海大学 医学部)
  • 馬淵 誠士(大阪大学 医学系研究科)
  • 青谷 恵利子(北里大学 臨床薬理研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本邦にて年間約8000人が罹患する卵巣がんのうち、明細胞腺癌は希な疾患である。明細胞腺癌は他の組織型と比較して化学療法に抵抗性であり、進行例の予後は不良な難病であるため、分子標的薬を用いた新たな治療戦略開発が急務である。
基礎的研究により、明細病腺癌に対する分子標的として現在有望視されているのはPI3K-Akt-mTOR経路である。明細胞腺癌では、他の組織型と比べてこの経路の活性が高く、mTOR阻害剤が明細胞腺癌の予後改善をもたらす可能性が示唆されている。mTOR阻害剤であるeverolimusは、遺伝子発現パターンが類似している腎細胞癌(明細胞腺癌がその大部分を占める)に有効性が示され保険承認されていることから、本剤の卵巣明細胞腺癌に対する有効性が期待される。
 本研究の目的は、再発・再燃明細胞腺癌に対するeverolimusの臨床的有効性を検証する第Ⅱ相試験を計画立案し、有効性、安全性が証明できた場合には健康保険承認を目指す医師主導治験として行うための研究体制整備の確立である。
研究方法
 本研究に不可欠なeverolimusの無償提供はノバルティス社から確約をとっている。
本計画研究は、第3項先進医療(高度医療評価制度)または医師主導治験として行う予定である。
 本研究の採択後、JGOG内にプロトコル委員会(別表)を組織し、平成24年 5月14日、6月25日、7月23日の3回プロトコル委員会を開催し、原案を作成し、11月8日にPMDAに医師主導治験事前相談を行い、プロトコル内容を修正した上で、平成25年2月7日対面助言を行った結果、本研究を医師主導治験として行うことの妥当性を確認した。
プロトコル最終版を確定し、医師会からの研究資金が獲得できれば、医師主導治験として、本試験を開始することが可能となった。
結果と考察
研究結果 本研究の成果物、プロトコルは、再発・再燃卵巣明細胞腺癌に対するmTOR阻害剤(Everolimus)の第Ⅱ相臨床試験 (EVEROCC試験、JGOG3021)と命名され、以下の概要で行う予定である。主要評価項目は、病勢コントロール割合disease control rate(DCR)【CR+PR+(SD:8週以上))とし、副次評価項目は、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、奏効割合(Overall Response Rate:ORR)、有害事象発現割合、 腫瘍における下記バイオマーカーと抗腫瘍効果の関連性を探索的に検討することとした。検討項目は(1)卵巣明細胞腺癌組織、(2)血液検体を用いた遺伝子検索、そして(3)PET検査によるSUV値がバイオマーカーとして用いられるかどうかを健闘することとした。
 患者選択基準で特徴的なものは、登録後にPIK3CA/KRAS変異探索を行うため、初回手術時の摘出標本スライドの提出が可能な患者に限定することとした。前治療歴は、本試験での治療を2nd lineまたは3rd line治療として使用する患者とした。除外基準の中に肺臓炎を有する患者を加えた。また、空腹時の血糖値が施設基準値の1.5倍を超えるようなコントロール不良の糖尿病患者。インスリンによる治療をうけている患者、コントロール不良の高脂血症を有する患者は除外することとした。
 治療は、エベロリムス 10mg/body/dayを28日1サイクルとして連日経口投与する。病状の進行や許容できない有害事象の発現があるまで継続する。死亡またはプロトコルに規定する中止規準に該当する場合には速やかに中止することとした。目標症例数は52症例、登録期間:2年、追跡期間:登録終了後1年、総研究期間:3年と設定した。
 本試験の研究実施体制としては、医師主導治験調整事務局を 北里大学臨床薬理研究所 臨床試験コーディネーティング部におき、治験調整医師を東海大学医学部附属病院 産婦人科 平澤猛、TRプロトコル実施責任者を大阪大学医学部附属病院産婦人科 馬淵誠士とした。

考察 卵巣明細胞癌に対する新たな治療戦略として分子標的薬剤の導入は不可欠であり世界各国で健闘されている。本研究は、mTOR阻害剤everolimusの有効性を単剤で評価するという、世界初の臨床試験である。特にトランスレーショナルリサーチとして詳細な検討を行う計画であり、本剤の有効性を予測するバイオマーカーが決定されることが期待される。
結論
 本研究は、難治性の再発卵巣明細胞腺癌に対するmTOR阻害剤単剤での有効性を評価する、世界初の第Ⅱ相試験を、医師主導治験として行うための、研究計画書作成と、研究実施体制を構築した。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201215024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は再発卵巣明細胞癌に対する、分子標的薬として期待されているエベロリムスの有効性安全性を評価するための第Ⅱ相試験のプロトコル作成、研究体制の確立を目指したものである。特に、本試験ではトランスレーショナルリサーチのエンドポイントを設定するなど、今後の婦人科癌分子標的治療薬開発のモデルとなり得る成果を上げられたと考えている。
すでに、プロトコルは完成しており、医師主導治験として開始するための公的資金支援を待つのみである。
臨床的観点からの成果
難治性かつ希少な再発卵巣明細胞腺癌は、通常の化学療法剤がほとんど効かないため、分子標的薬にかけられている期待は大きい。中でもmTOR阻害剤は、その特徴から最も注目されている薬剤である。2種類あるmTOR阻害剤のうち内服薬であるエベロリムスは、再発癌患者にとって病院への通院回数が最小限にとどめられるなど、メリットが大きく、本研究によって作成されたプロトコルにかけられる期待は大きい。
ガイドライン等の開発
前述したように、本研究再発卵巣明細胞癌に対する、分子標的薬として期待されているエベロリムスの有効性安全性を評価するための第Ⅱ相試験のプロトコル作成、研究体制の確立を目指したものであるため、現時点でガイドラインなどに掲載できる内容は創出できない。しかし、本研究に基づく臨床試験結果でエベロリムスの有効性が証明された場合は、ガイドラインに収載されることになる。
その他行政的観点からの成果
希少癌では、商業利益を追求する製薬会社にとって新薬開発メリットがないため、アカデミア主導で臨床試験を遂行しなければならない。本研究はこのような社会環境におかれた、再発明細胞腺癌に対する最も期待されている薬剤、エベロリムスの有効性と安全性を評価するための実施計画書の作成、臨床試験遂行体制の整備を行ったもので、目的を完遂した。PMDAへの事前相談、開発戦略相談もすんでおり、公的資金支援を待つのみとなっている。
その他のインパクト
本試験の内容は、2012年10月Vancouverで開催された、International Gynecologic Cancer Societyの年次総会において発表し、国際的に高い評価を得ている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
1件
13th International Gynecologic Cancer Society Biennial Meeting 10/14,2012
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2017-05-29

収支報告書

文献番号
201215024Z