ハイリスク大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル的大動脈弁植込み術の有用性の評価-日本における大動脈弁狭窄症に対する総括的治療戦略の構築-

文献情報

文献番号
201215014A
報告書区分
総括
研究課題名
ハイリスク大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル的大動脈弁植込み術の有用性の評価-日本における大動脈弁狭窄症に対する総括的治療戦略の構築-
課題番号
H23-臨研推-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
澤 芳樹(大阪大学 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 南都 伸介(大阪大学 医学系研究科)
  • 中谷 敏(大阪大学 医学系研究科)
  • 倉谷 徹(大阪大学 医学系研究科)
  • 鳥飼 慶(大阪大学 医学系研究科)
  • 島村 和男(大阪大学 医学系研究科)
  • 溝手 勇(大阪大学 医学系研究科)
  • 大門 貴志(兵庫医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高度医療評価制度を通じ、未だ不明な本邦での経カテーテル的大動脈弁植込み術 (TAVI あるいはTAVR) 手技の安全性及び有効性を検討し、本治療の妥当性を評価する。また、主要TAVRデバイス間での比較検討も行う。さらに治験対象外となる透析や重度心不全合併などの超ハイリスク患者、大動脈弁置換術後の生体弁機能不全患者に対する本手技の臨床成績を蓄積し、TAVR適応範囲の拡大をめざす。
研究方法
1.TAVRの実施
 適応: 弁尖の硬化変性に起因する重度大動脈弁狭窄を有する患者 (弁置換術後の生体弁機能不全患者を含む)。
 1.) Edwards SAPIEN  2.) Medtronic CoreValve
2. 術後早期及び中期成績の検討
3. TAVRナビゲーションソフトの開発及び手技の実践
結果と考察
ハイリスク大動脈弁狭窄症患者25例に対しTAVRが施行された。昨年度の施行症例12症例と合わせ、累計で37症例となっている。本年度施行の25症例における平均年齢は82.2歳で、昨年度に引き続き、超高齢の患者が大半であった (最高齢は91歳)。男性11 例 (44.0%)、平均の体表面積は1.42 ±0.15 cm2であった。
術前合併症としては、冠動脈疾患 (60%)、呼吸機能障害 (52%)、慢性腎疾患 (100%) など主要臓器の合併症を高率に認めた。治験では対象外となった維持透析患者4症例に対し本年度はTAVRを施行した。手術死亡及び在院死亡はなく、開心術と比しても概ね良好な経過であった。また低心機能症例に関しても、本年度も術前より強心剤投与を要した症例を2症例経験し、昨年度からの累計は5例となった。同症例に対し積極的にPCPS補助下でのTAVR施行を選択。PCPSのサポートにて手技中最低限の血圧や冠血流を確保し得る本方法は、低心機能症例に対し安全に同手技を行うための有用な治療オプションと考えられた。
本年度の手術成績は、手術死亡、在院死亡とも弁輪部破裂による1例のみで、その率は4.0% (累計で2.7%) であった。通常の開心術による大動脈弁置換を行った場合の手術リスクはLogistic EuroSCOREで32%, STS risk scoreで12%であったことから、ハイリスクな患者を対象にTAVRは良好な術後早期成績を示した。
本年度の新しい試みとして、Cervical pull-through法を発案、実行した。経心尖部アプローチによるガイドワイヤーの先端を頚部分枝から導出し、pull-through guide wireを作成しTAVR手技を行うもので、高度粥状硬化性病変を有する大動脈合併症例において全身性の塞栓症のリスクを軽減させる目的で4症例に施行し、術後脳梗塞を含む塞栓イベントの発生を認めず、良好な成績を得た。
本年度の症例の中にはvalveのcuspの長さが、冠動脈入口部の弁輪部からの高さより長い症例が2例あり、いずれも人工弁植込み前に、閉塞の可能性のある冠動脈にワイヤーを留置して対応した。1例は人工弁植込み後に左冠動脈入口部の高度狭窄をきたしPCIを追加施行した。もう1例は冠動脈のトラブルなく経過した。本邦においては人種的な差異から大動脈基部も独特な解剖を有しているため、大動脈弁尖が場合により冠血流を妨げる可能性があり、欧米に比し、本邦では冠動脈閉塞のリスクが有意に高いことが予想される。
本年度も自宅退院率は96%で、累計にして92%であった。また、ほとんどの患者が術後自覚症状の改善をみとめており、当該手術において術後QOLが確保される可能性はきわめて高いことが示唆された。
術後中期成績 (昨年度施行の症例を合わせた全37症例で検討) においては、手術死亡例1例の他に、2013年5月の時点で退院後の遠隔期死亡を2例で認めた。累積生存率は6ヶ月で97%、12ヶ月で、87%であった。手術死亡の症例を除き、心血管関連死亡はなく、その回避率はいずれの期間においても97%であった。また、観察期間中弁周囲逆流が増悪した症例は1例のみであった。
結論
高度医療評価制度を通じ、平成24年度内までに治験では適応外となる6症例を含む計25例 (総計37例) にTAVRを施行し、良好な術後早期成績を得た。中期成績では海外のデータと比して同等以上の良好な成績が示されている。術中の冠動脈閉塞など本邦特有の合併症には注意が必要であるが、本術式はハイリスク大動脈弁狭窄症患者に対して、術後QOLを維持可能なきわめて有用な治療法であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201215014Z