自律神経指標と末梢循環の計測による統合医療の科学的評価方法の確立

文献情報

文献番号
201215004A
報告書区分
総括
研究課題名
自律神経指標と末梢循環の計測による統合医療の科学的評価方法の確立
課題番号
H22-臨研推-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
関 隆志(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 仁田 新一(東北大学 加齢医学研究所)
  • 高山 真(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 早瀬 敏幸(東北大学 流体科学研究所)
  • 吉澤 誠(東北大学 サイバーサイエンスセンター)
  • 山家 智之(東北大学 加齢医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 漢方や針灸をはじめとする伝統医学、健康食品やアロマセラピー、ホメオパシーなど数限りないといってもよい補完代替医療。これらは、国民のニーズにより大きなマーケットを形成している。しかしながら、客観的、定量的な評価基準を持たないために、利用したものに不利益になる副作用を回避しがたい。こうした問題を解決しなければ、統合医療の実現はおぼつかない。
 当研究班では、これらを解決するために伝統医学や補完代替医療の定量的な評価指標の開発および評価を行ってきている。今年度は図1に示すごとく、大きく5つの手法に関して、評価指標たり得るかを検証した。
研究方法
 今年度は、(1)超音波診断装置のカラードップラー・イメージング法(CDI)、(2)全身動脈系の集中定数モデル、(3)皮膚表面輝度信号解析、(4)心臓内血流構造解析、(5)心拍変動解析を用いて、鍼治療と漢方薬治療の血行動態と自律神経に及ぼす影響を検討した。(1)CDIでは、針刺激と漢方薬刺激が腎動脈、腎臓の葉間動脈、上腸間膜動脈および眼球後動脈の血行動態に与える変化を検討。(2)全身動脈系の集中定数モデルを用いて、鍼治療に対する生体反応に関して流体力学的見地からこれを検討した。(3)皮膚表面輝度信号解析では非接触式で皮膚の動画像から鍼刺激時の皮膚表面の輝度信号を得て自律神経系の各種指標を得る解析法を検討した。(4)エコーダイナモグラフィーをもちいて、正常心機能例および非虚血性拡張型心筋症例の心臓内の血流の構造解析を行った。(5)自律神経活動を非侵襲的に評価しうる心拍変動(HRV)スペクトル解析法を用いて足三里穴に鍼刺激を行った際の反応を検討した。
結果と考察
(1)CDIにより、排尿障害などによく用いられている漢方薬の五苓散、四物湯と温湯を健常者に投与したときに、腎臓の葉間動脈および腎動脈の拍動係数(PI)および抵抗係数(RI)に、投与内容による有意な差は認められなかった。しかしながら、収縮期最大速度(PSV)、拡張末期血流速度(EDV)、平均血流速度(MnV)においてそれぞれで異なる変化を示しており、排尿障害の鍼灸治療によく用いられてきた経穴である太谿穴、太衝穴への鍼刺激と無刺激時に、 腎臓の葉間動脈および腎動脈の拍動係数(PI)および抵抗係数(RI)においてそれぞれで異なる変化を示した。さらに、消化器症状の鍼灸治療によく用いられてきた経穴である足三里穴に鍼刺激を行うと、上腸間膜動脈血流量の有意な増加を認めたものの、眼球後動脈の血管抵抗の有意な変化は見られなかった。CDIは異なる経穴や漢方薬の作用機序や効果の相違の定量的な指標になり得ることが示唆された。(2)数値流体力学的解析により鍼刺激時に認められる左上肢の動脈の血流量の変化が動脈の断面積よりも末梢血管抵抗係数の影響をより大きく受けることが推察された。このモデルを用いることで、鍼治療による血流分布変化を再現できることが示唆された。(3)皮膚表面輝度信号解析では、足の太衝穴に鍼刺激を行ったときに、通常照明環境下フレーム周波数166fpsで撮影した顔面および手掌の映像であっても,鍼刺入に対する過渡的な変化が把握できる可能性があることが確認された。(4)エコーダイナモグラフィーにより心臓の拡張と収縮は、左室内血流動態という新たな評価指標により互いに連関していることが判明し、流軸上速度分布評価と渦流評価が収縮能、拡張能の新たな指標となりえる可能性が示された。(5)心拍変動解析では、足三里穴への鍼刺激が、心拍数や拡張期血圧の減少、VLFパワーの上昇を引き起こすことを示した。心拍変動を解析する際に、既存のHRVスペクトル解析に加えVLFなどの指標を追加することで、より鋭敏に体性刺激により引き起こされる変化を評価できる可能性があると考えられた。
 本年度検討した解析手法をより簡便に行うことができれば、統合医療を安全かつ効果的に推進することが可能になると思われる。さらなる継続的な技術開発および評価が必要である。
結論
 超音波診断装置のカラードップラー・イメージング法、数値流体力学的解析、皮膚表面輝度信号解析、心臓内血流構造解析、心拍変動解析のいずれも、鍼灸治療や漢方薬治療の作用機序および効果を検討するための客観的かつ定量的な指標となり得ることが示された。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201215004B
報告書区分
総合
研究課題名
自律神経指標と末梢循環の計測による統合医療の科学的評価方法の確立
課題番号
H22-臨研推-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
関 隆志(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 仁田 新一(東北大学 加齢医学研究所)
  • 高山 真(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 早瀬 敏幸(東北大学 流体科学研究所)
  • 吉澤 誠(東北大学 サイバーサイエンスセンター)
  • 山家 智之(東北大学 加齢医学研究所)
  • 金野 敏(東北大学 医工学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 伝統医学や補完代替医療に対する国民のニーズは欧米に限らず、我が国でも大きい。しかしそれらを定量的に評価する指標がないために、医療の中に伝統医学や補完代替医療をくみこむことは困難である。現状は、非侵襲的で定量的な評価方法がないために、一人ひとりに最も適した治療手段を選択することができない。さらに、評価方法がないためにエビデンスがいつまでも蓄積されない。
 国民のニーズに応えつつ、医療費を有効に活用した未来型の医療を実現するためには、伝統医学や補完代替医療の非侵襲的かつ定量的な評価手法の開発が急務である。
 鍼灸治療は経穴には特異的な作用があるとの理論に基づいて施術されている。また、漢方薬は、同じ症状に対しても、異なるタイプのモノが伝統医学理論に基づいて使い分けられている。こうしたことは、エビデンスが存在するわけではなく現状では「言い伝え」のレベルを出ない。当研究事業では、各種評価指標を用いながら、こうした伝統医学の基礎理論の検証を試みる。その試みを通して、伝統医学や補完代替医療の作用機序や効果の定量的な評価指標の確率をめざす。
研究方法
 当研究事業では、鍼治療や漢方薬内服による体内の血行動態をひとつの評価対象の柱とし、さらに下記のごとくより精細に、より非侵襲的に、さらに幅広く伝統医学や補完代替医療を評価する手法を検討する。検討する評価手法は以下の8つある。(1)超音波診断装置のカラードップラーイメージング法(CDI)、(2)心臓内血流構造解析(エコーダイナモグラフィー)(3)超音波計測融合シミュレーション、(4)全身動脈系の集中定数モデル、(5)心電図のパワースペクトル解析、(6)血圧反射機能推定、(7)皮膚表面輝度信号解析、(8)Quantitative Sensory Testing (QST)
 また、評価のために開発・利用した補助的ツールとして、(1)脈診機、(2)電子診療鞄、(3)超音波診断装置画像データキャプチャソフトウエア、(4)再現性のある単純化鍼治療、(5)インピーダンス心拍出量計がある。
結果と考察
 消化器症状に効果があると知られている足三里穴への単純化鍼治療により、上腸間膜の血流量が増加すると同時に上肢の血流量は減少し、眼球後の動脈の血管抵抗は変化しなかった。手足の冷え性や眼の症状に効果があると知られている太衝穴への鍼治療では、上腕の血流量が増加すると同時に上腸間膜動脈の血流量は減少する。また、同時に、眼球後動脈の血管抵抗が減少した。排尿障害の治療に用いられる太谿穴と太衝穴への鍼治療では、腎臓の葉間動脈と腎動脈の血行動態の変化が異なることが示された。このように、経穴の違いにより同じ刺激をしても、体内の血行動態は、異なる反応を示すことが明らかとなった。
 緑内障への鍼治療では、眼球後動脈の血管抵抗の減少が認められ、重症筋無力症への鍼治療では、上肢への血流量増加を示した。
 排尿障害に用いられる五苓散と四物湯は、腎臓の葉間動脈と腎動脈の血行動態の変化が異なることが示された。また、腹部の冷えを伴う排便障害などの消化器症状に用いられる大建中湯と腹部の熱感を伴う胃潰瘍などに用いられる黄連解毒湯は、心拍変動パワースペクトル解析により異なる副交感神経の変化パターンを示すことが認められた。
 既存の超音波診断装置では、指や皮膚表面の微細な血行動態の変化を捉えるのは困難であるが、超音波計測融合シミュレーションや皮膚表面輝度信号解析法により、その定量化が可能であることが示された。また、全身動脈系の集中定数モデルが全身の血行動態を総合してとらえる方法として有望であることも示した。
 動脈系と心収縮力の血圧反射機能の感受性を定量的に評価する血圧反射機構の推定法により、自律神経機能障害を幅広くフォローアップできることが示された。また、エコーダイナモグラフィーを用いて、統合医療が自律神経に与える影響を解析するために必要な心臓と血管の機能の独立した精密な解析が可能であることが示唆された。
 QSTは一般的感覚に関連した域値などを網羅的に評価する手法で、検査に持ち越し効果があることが示唆され、今後の実用化にとって重要な知見を得ることができた。
 本研究は緒に就いたばかりである。伝統医学の理論の検証にとどまらず、難治性疾患に対する伝統医学の作用機序と効果の検討を進めなることが可能である。統合医療で取り上げられるであろう、さまざまな補完代替医療の作用機序と効果をこの手法で客観的、定量的に評価することがある程度可能になると期待できる。
結論
 上記の評価方法のいずれも、伝統医学および補完代替医療の作用機序および効果を検討するための客観的かつ定量的な指標となり得ることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201215004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)一般の医院・病院に普及している超音波診断装置や心電図を用いて、鍼灸・漢方の効果や機序を血行動態と自律神経の状態から定量的に評価することができた。さらに、エコーダイナモグラフィー、コンピュータシミュレーション、血圧反射機能推定、皮膚表面輝度信号解析、Quantitative Sensory Testingをもちいて、より広い対象を評価できた。
2)これらの手法を実現するツールとして、脈診機、電子診療鞄、超音波診断装置画像データキャプチャソフトウエア、再現性のある単純化鍼治療を開発し実用化した。
臨床的観点からの成果
1)消化器に効くといわれる足三里への鍼治療で、上腸間膜の血流量が増加し、上肢血流量は減少、眼球後動脈の血管抵抗は変化しなかった。手足の冷え性や眼の症状に効くといわれる太衝への鍼治療で、上腕血流量が増加し、上腸間膜の血流量は減少、眼球後動脈の血管抵抗が減少した。経穴や漢方薬は血行動態に特異的効果を示した。2)排尿障害に効くといわれる異なる経穴への鍼治療や異なる漢方薬では、それぞれ腎臓の葉間動脈と腎動脈の血行動態の反応が異なった。3)鍼治療が緑内障患者の眼球と重症筋無力症患者の四肢の血行を改善した。
ガイドライン等の開発
現在は開発していないが、本研究をさらにすすめ、血行動態と自律神経の状態を用いた定量的評価手法のガイドラインをまとめたい。
その他行政的観点からの成果
わが国は超高齢社会をむかえ、平成20年度の生活習慣病関連の医療費は約8.4兆円で一般診療医療費の約3分の1に相当するにもかかわらず、有効な方策は十分ではない。
一方、伝統医学や補完代替医療に対しては、健康産業の大きなマーケットがあり諸外国同様に大きな国民のニーズがあり事故なども起こっている。
当研究事業の方法論を用いることで、国民のニーズが大きい伝統医学や補完代替医療を定量的に評価することが出来、これらをわが国の医療の中で安全・有効に利活用した「統合医療」を実現できると期待できる。
その他のインパクト
1)難治性疾患、循環器疾患、腎疾患、消化器疾患などの患者を対象に伝統医学や補完代替医療を施術したときの治療効果、血行動態と自律神経機能の検討をおこなうことで新規治療法の開発につながる可能性がある。
2)まだ検討していない多くの経穴を評価して特異的な働きが明らかになると、特異的にある臓器の血流を増やしたり減らしたりすることで、内臓機能を制御する全く新しい物理療法の開発につながる可能性がある。
3)伝統医学や補完代替医療をより安全で効果的に活用ができるよう定量的評価が可能になる。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Seki T, Watanabe M, Takayama S.
Blood Flow Volume as an Indicator of the Effectiveness of Traditional Medicine.
Acupuncture - Concepts and Physiology  (2011)
10.5772/24527
原著論文2
Takayama S, Seki T, Nakazawa T, et al.
Short-term effects of acupuncture on open-angle glaucoma in retrobulbar circulation: additional therapy to standard medication.
vidence-based complementary and alternative medicine  (2011)
10.1155/2011/157090
原著論文3
Takayama S, Watanabe M,Seki T, et al.
Evaluation of the effects of acupuncture on blood flow in humans with ultrasound color Doppler imaging.
Evidence-based complementary and alternative medicine  (2012)
10.1155/2012/513638
原著論文4
Shirai A, Suzuki T, Seki T
in submission
in submission  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201215004Z