腎性インスリン抵抗性症候群に基づく慢性腎臓病新規治療戦略の確立

文献情報

文献番号
201215003A
報告書区分
総括
研究課題名
腎性インスリン抵抗性症候群に基づく慢性腎臓病新規治療戦略の確立
課題番号
H22-臨研推-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 裕(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 脇野 修(慶應義塾大学 医学部 )
  • 細谷 幸司(慶應義塾大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性腎臓病(CKD)の進行による心血管事故の増加と高額医療である維持血液透析患者の増加は我が国国民医療費の増加の一因としてがある。従って近年慢性腎臓病(CKD)の発症に対する早期介入および進展阻止を重視した実地医療の展開が強調されている。その手段として低蛋白食、減塩食、血圧管理、レニン・アンジテンシン系の抑制などの対策が採られているが、新規透析導入は未だ減少していない。いまこそCKDの治療戦略におけるパラダイムシフトが必要とされる。本研究ではCKD患者の増加の背景にはCKDそのものによる腎性インスリン抵抗性症候群、高アルドステロン血症の2つが密接に相互作用し心血管事故や末期腎不全への進展に寄与するという新たなパラダイムを提唱した。平成21年度の厚生科学研究事業(医療技術実用化総合研究事業)でこの仮説検証を進め症例の蓄積は本格化している。さらにアルドステロン拮抗薬であるスピロノラクトンを投与し、RIRsが改善することを明らかにした。また動物実験を平行し、RIRsの発症機序は脂肪組織のIRであることを見出していく。
研究方法
RIRsの病態解明としてすでにRIRsの発生機序に関して、CKD患者ではHOMA-IRが血清アルドステロンと正の相関をみとめ、アルドステロンブロッカ―であるスピロノラクトン投与にてHOMA-IRの改善を認めることを報告している。今回は、横断研究にてCKD患者ではHOMA-IRと尿細管障害の指標である尿中α1ミクログロブリン値との間に正の相関が認められること、また3年間のprospective studyにて、 HOMA-IR高値を認めるCKD患者では、尿中α1ミクログロブリン高値が持続し、CKDの進行も急速であることが示唆された。さらに我々はRIRs を有するCKD患者にエプレレノン(E)を投与し、長期的にPは腎機能障害進行の抑制、Eは腎機能障害進行抑制及びCVDリスク低下が認められるかをPlacebo-control studyで評価する。しかし平成23年ピオグリタゾンによる傍観がんリスクの上昇が報告され臨床試験の困難さが認められた。そこでエプレレノンの投与実験のみ遂行している。

結果と考察
平成23年度臨床研究の患者登録が開始となり我々はRIRs を有するCKD患者にアルドステロンブロッカー、エプレレノンを投与し、長期的に腎機能障害進行の抑制及びCVDリスク低下が認められるかをPlacebo-control studyで評価する研究を開始している。現在まで登録患者は37名で登録を終了とした。プラセボ群とエプレレノン群との薬剤投与前の各種パラメーターを比較したが、有意差のあるものは認めなかった。エプレレノン投与により、6ヶ月後のデータでは、有意なHOMA-IRの改善、ARCおよびAldの上昇が認められた。また血清K値は軽度の上昇を認めるのみであり、エプレレノン内服群で血清K値上昇のために、研究より離脱した症例は認められなかった。我々はRIRsの血糖の終日プロフィールをcontinuous glucose monitoring systemを用い検討し、CKD患者は糖尿病でなくとも食後の血糖上昇が高く、グルコーススパイクが認められることを昨年明らかにしたが、症例を増やしたうえでの解析で、グルコーススパイクの指標である朝食後2時間後の血糖値の決定因子が重回帰分析により遊離脂肪酸およびグリコアルブミンであることを明らかとした。CKDモデルラットを用いた検討でCKDでは脂肪組織の成熟障害が認められリポディストロフィーeGFRとγGPTの値に相関があることを見出している。また我々はアルドステロンブロッカーによる脂肪細胞成熟異常の改善と糖代謝異常の改善をCKDラットを用いた検討で明らかとしている。最後にインスリンを用いる糖尿病CKD患者において低血糖のエピソードが多いことを明らかとしている。そして低血糖のエピソードを有する患者では動脈硬化の指数が高いことも明らかとしている。
結論
国民医療費の増加の一因として慢性腎臓病(CKD)の進行による心血管事故の増加と高額医療である維持血液透析患者の増加がある。従って近年慢性腎臓病(CKD)の発症に対する早期介入および進展阻止を重視した実地医療の展開が強調されている。その手段としてさまざまな対策が採られているが、新規透析導入は未だ減少していない。本研究ではCKD患者の増加の背景にはIRIsと高アルドステロン血症の2つが密接に相互作用し心血管事故や末期腎不全への進展に寄与するという新たなパラダイムを提唱した。RIRsの病態解明のため終日の血糖モニタリング(CGMS)のデータ集積も開始している。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201215003B
報告書区分
総合
研究課題名
腎性インスリン抵抗性症候群に基づく慢性腎臓病新規治療戦略の確立
課題番号
H22-臨研推-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 裕(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 脇野 修(慶應義塾大学 医学部 )
  • 細谷 幸司(慶應義塾大学 医学部 )
  • 水口 斉(慶應義塾大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性腎臓病(CKD)の進行による心血管事故の増加と高額医療である維持血液透析患者の増加は我が国国民医療費の増加の一因としてある。本研究ではCKD患者の増加の背景にはCKDそのものによる腎性インスリン抵抗性症候群、高アルドステロン血症の2つが密接に相互作用し心血管事故や末期腎不全への進展に寄与するという新たなパラダイムを提唱した。この病態は腎性IR症候群(RIRs)と命名される。平成21年度の厚生科学研究事業(医療技術実用化総合研究事業)でこの仮説検証を進め症例の蓄積は本格化している。腎性インスリン抵抗性症候群の臨床的意義に関する研究について検討した。腎不全進行への影響を当院腎臓内科外来CKD患者について統計学的に、RIRsの発症機序及び臓器障害作用を検討した。また末期腎不全患者における血糖の日内変動の影響についてCGMSを用いて検討した。腎性インスリン抵抗性症候群の発症機序に関する研究を行った。アルドステロンを介するCKDにおけるインスリン抵抗性の分子メカニズムを検討した。また脂肪成熟障害を背景にCKDの状態はリポディストロフィーの状況であると考えられる。これを明らかにすることも本研究の目的である。

研究方法
RIRs を有するCKD患者にアルドステロンブロッカー、エプレレノンを投与し、長期的に腎機能障害進行の抑制及びCVDリスク低下が認められるかをPlacebo-control studyで評価する研究を行った。腎性インスリン抵抗性症候群の臨床的意義に関する研究では腎不全進行への影響を対象は当院腎臓病外来患者185名を用いて検討した。各ステージごとに様々なパラメータの分布を分散分析にて比較、相関が疑われるパラメーターにつき単回帰分析及び重回帰分析にて解析した。さらには3年間のコホート研究にて、HOMA-IRと腎機能障害進行の関連を検討した。末期腎不全患者における血糖の日内変動の影響に関してはコントロール群として正常者10名の血糖をCGMsを用いて36~48時間連続測定した。腎性インスリン抵抗性症候群の発症機序に関する研究ではSDラットのコントロール群、5/6腎摘群、 5/6腎摘スピロノラクトン投与群の全3群を作成し比較検討し、また3T3L1fibroblastを脂肪細胞に分化させアルドステロン投与後のDDAH1及びDDAH2の発現を検討した。
結果と考察
今回当院の倫理審査委員会に承認され、臨床試験のプロトコールおよび患者説明聖書、同意書を作成し患者のリクルートを開始した。当院外来患者の中からE投与群18名、対照群19名を確保している。プラセボ群とエプレレノン群との薬剤投与前の各種パラメーターを比較したが、有意差のあるものは認めなかった。(添付資料3)エプレレノン投与により、6ヶ月後のデータでは、有意なHOMA-IRの改善、ARCおよびAldの上昇が認められた。また血清K値は軽度の上昇を認めるのみであり、エプレレノン内服群で血清K値上昇のために、研究より離脱した症例は認められなかった。腎性インスリン抵抗性症候群の臨床的意義に関する研究では3年間の追跡調査で、HOMA-IRが高値である症例ほど、腎機能障害が進行していることがあきらかとなった。またCKD患者においては食後高血糖になりやすい傾向があり、その規定因子としてFFAの脂質系物質が強い関連を示した。腎性インスリン抵抗性症候群の発症機序に関する研究では腎不全においては脂肪組織内アルドステロンの上昇からミネラロコルチコイドレセプター活性化し、DDAH1、DDAH2低下を認め、ADMA上昇し、脂肪組織内インスリンシグナル低下から全身のインスリン抵抗性の上昇を示し、耐糖能異常を示すと考え、スピロノラクトン投与により逆の反応が起こる。小型脂肪細胞が全身のインスリン抵抗性や全身の脂質代謝にどのような影響を及ぼすかをさらに検討したところ肝臓組織における脂肪沈着の亢進を認めた。
結論
エプレネロンを用いた臨床治験でCKDによる加齢健康障害を阻止する新治療を提示できる可能性が高く、心血管事故や末期腎不全の発症の予防につながると思われる。さらにCKDにおける高インスリン血症は、尿細管障害を引き起こし、CKDの進行に関与している可能性が示唆された。末期腎不全では血糖日内変動が大きい傾向を示された。CKDのインスリン抵抗性には、脂肪組織におけるミネラロコルチコイドレセプター(MR)の活性化およびADMAの上昇が関与することが示唆された。CKDにおいてはその初期よりインスリン抵抗性が存在し、発生機序に脂肪組織でのIRの関与が示唆された。また、CKDにおけるインスリン抵抗性には ADMAの影響と思われる脂肪細胞の成熟異常が関与する可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201215003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新たな心血管事故および腎障害進展の危険因子として慢性腎臓病(CKD)が注目されている。CKDの病態解明は臨床上、医療経済上急務である。CKDの新たな基盤病態の意義を検証し、治療法のエビデンスを確立する臨床に直結した研究である。本研究で得られる新知見は学術的にも有意義であるのみならず、CKDによる加齢健康障害を阻止し、医療経済上もその社会的貢献は極めて高い。
臨床的観点からの成果
基礎的検討ではRIRsでは脂肪組織における酸化ストレスが増加しており、CKDでは脂肪組織の分化障害(lipodystrophy)が生じ、異所性の脂肪の沈着が亢進する可能性を示した。平成24年度では臨床研究では対象患者を増やしCKDの新たな治療法のエビデンスを確立する。またRIRsの発症機序、病態生理に関する基盤研究を続ける。本研究はこれまで着実に遂行されており、得られる新知見は学術的にも有意義である。
ガイドライン等の開発
現在のところガイドライン作成を目標とした審議会等で審議されたことはない。
その他行政的観点からの成果
現在のところ行政施策のための審議会等で審議されたことはない。
その他のインパクト
マスコミや公開シンポジウムのテーマとして取り上げられていないが、医学雑誌へ腎性インスリン抵抗性症候群やアルドステロンのインスリン抵抗性に対する影響についての記事が取り上げられている。 海外の雑誌でもこの分野の注目は高く、多くの総説が発表されている。

発表件数

原著論文(和文)
2件
カレントテラピー, 日本内科学会雑誌
原著論文(英文等)
1件
Int J Obes (Lond)
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
日本腎臓学会, 日本高血圧学会, 日本内分泌学会
学会発表(国際学会等)
1件
Anual meeting ofamerican society nephrology
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tokuyama H, Wakino S, Hara Y et al.
Role of mineralocorticoid receptor/Rho/Rho-kinase pathway in obesity-related renal injury.
Int J Obes (Lond) , 36 (8) , 1062-1071  (2012)
原著論文2
脇野 修, 伊藤 裕
【心腎連関の病態と治療の進歩-心臓と腎臓からみた循環器疾患】 メタボリックシンドロームに伴う心腎連関の治療
カレントテラピー , 30 (8) , 804-810  (2012)
原著論文3
脇野 修, 伊藤 裕
【慢性腎臓病:最近の進歩】 慢性腎臓病と各種疾患 肥満・メタボリックシンドローム
日本内科学会雑誌 , 101 (5) , 1310-1317  (2012)

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201215003Z