メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性に関与する因子の遺伝的解析

文献情報

文献番号
199800054A
報告書区分
総括
研究課題名
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性に関与する因子の遺伝的解析
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小松澤 均(広島大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤原環(広島大学歯学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のβーラクタム系抗生物質の耐性度に影響を及す因子を遺伝的に解明することを目的とする。
それら因子を解明することは細胞壁合成系に関わる因子についても検討することであり、現在までに報告されている因子とあわせて黄色ブドウ球菌の細胞壁合成系を総括的に明らかにしていくことができると考える。
また、近年問題視されてきたバンコマイシン耐性MRSA のバンコマイシン耐性機序とこれら因子との関連性についても検討する。
研究方法
高度メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)よりメチシリンの耐性度が減少する変異株をトランスポゾン(Tn551)挿入により分離する。分離した変異株について以下の実験を行った。
(1)変異株のトランスポゾン挿入領域の遺伝子のクローニング・シーケンス変異株の染色体DNAを分離後、適当な制限酵素で切断し大腸菌のプラスミド(pUC19)にクローニングしライブラリーを作製する。トランスポゾンのDNA配列より作成したプローブを用いて、コロニーハイブリダイゼーション法により変異株のトランスポゾン及びその近傍領域の遺伝子をクローニングする。その後、トランスポゾンの近傍付近のシークエンスより得られた配列より再度プローブを作成する。そのプローブを用いて親株のDNAよりその領域をクローニングする。クローニングした断片が変異株をコンプリメントするかどうかを検討し、トランスポゾン挿入部位の遺伝子の領域を決定する。得られたDNA断片のシークエンスを行い遺伝子の本態を明らかにする。決定したDNA配列を基にDNAデータベースを用いて他の蛋白質等との相同性の検討、モチーフの検索を行う。
(2)得られた遺伝子の機能解析
得られた変異株およびその親株より細胞壁ペプチドグリカンを精製する。細胞壁分解酵素によりペプチドグリカンのグリカン鎖の部分を特異的に切断後、高速液体クロマトグラフィーにより分取したピークを親株と変異株で比較することでその構造を解析する。
また、各リコンビナントタンパクを作製、精製後、ウサギに免疫し抗血清を得る。その抗血清を用いて各因子の菌体での局在性について検討を行う。
(3)バンコマイシン耐性菌へのトランスポゾンの導入
得られた変異株のトランスポゾンを形質導入法によりバンコマイシン耐性株の同じ遺伝子領域に挿入し、バンコマイシンの感受性について検討しバンコマイシン耐性と本実験で得た遺伝子との関連性について明らかにする。
結果と考察
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)における細胞壁合成阻害剤であるβーラクタム剤の耐性度に影響を与える因子を解明するため、メチシリンの耐性度が減少するトランスポゾン挿入変異株を4株分離した。
そのうちの1株についてはトランスポゾン挿入遺伝子領域について既に明らかにし、その遺伝子をfmtAと名付けている。
本研究において残りの3株について、トランスポゾン挿入領域の遺伝子を明らかにし、その機能について一部検討を試みた。
3株の変異株の染色体DNAからトランスポゾン挿入周辺領域をクローニングした結果、3株のうち2株は挿入部位は異なるが同じ遺伝子領域に挿入することがわかったので、最終的に2株の遺伝子領域を親株からクローニングした。
それらトランスポゾン挿入領域の塩基配列を決定し、2つの遺伝子をfmtBおよびfmtCと名付けた。
fmtBは2478のアミノ酸からなる推定分子量263 kDaのタンパクをコードしていた。
FmtBタンパクはその中央部分に75個のアミノ酸からなる17回の繰返し構造が認められ、この繰返し構造において病原性因子として報告されているStreptococcus suisのEFタンパクやMycoplasma hominisのLymp1と相同性を認めたが、その機能を示唆するタンパクは認められなかった。
fmtCはまだ完全なorfとして決定していないが得られた遺伝子から推測されるタンパクからは、その機能を示唆するような相同性のあるタンパクは認められなかった。
fmtAおよびfmtB変異株の細胞壁ペプチドグリカンの構造解析を行った結果、fmtA変異株では架橋度の減少が認められ、ペプチドグリカンのグルタミン酸のグルタミンへのアミド化が抑制されていることが認められた。fmtB変異株では親株と顕著な違いが認められなかった。
抗FmtAおよび抗FmtB血清を用いたImmunoblottingの結果、FmtAは細胞膜にまたFmtBは細胞壁に局在していた。
fmtAおよびfmtB遺伝子に挿入しているトランスポゾンをバンコマイシン耐性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に形質導入しそれぞれの変異株を作製した。
これら変異株はいずれの株においてもメチシリンおよびバンコマイシンの耐性度は減少した。したがって、今回明らかにした因子はβーラクタム剤のみならずバンコマイシン耐性にも影響を及す因子であることが明らかになった。
結論
本研究において明らかになった新たな2つのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌におけるβーラクタム剤に影響を及す因子(fmtB、fmtC)は、以前に明らかにした因子(fmtA)とともにこれら遺伝子を不活化することでβーラクタム剤の耐性度を減少させた。
また、fmtAおよびfmtB遺伝子の不活化はバンコマイシン耐性をも減少させた。
細胞壁の構造解析の結果からfmtAの不活化は細胞壁の構造に影響を及していることが認められた。以上の結果から、FmtBおよびFmtCタンパクにおいてはその機能を示唆するタンパクとの相同性が認められなかったものの、これら3つの遺伝子は細胞壁合成系に直接的あるいは間接的に関与していると考えられる。
今後、さらにこれら3つの遺伝子の機能について検討し、細胞壁合成系にどのように関与しているのかを調べていく。
また、現在既に明らかにされているいくつかの耐性に関与する因子との相互関連についても検討していくことで、黄色ブドウ球菌の細胞壁合成系のカスケードについて遺伝子、タンパクレベルで明らかにできると考えられ、今後の新たな細胞壁合成阻害剤に対する耐性菌の耐性メカニズムの解明に大きく寄与すると思われる。 

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-