低侵襲で多剤動態制御可能な薬物徐放デバイスの開発と網膜疾患治療への応用

文献情報

文献番号
201212018A
報告書区分
総括
研究課題名
低侵襲で多剤動態制御可能な薬物徐放デバイスの開発と網膜疾患治療への応用
課題番号
H23-医療機器-若手-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
永井 展裕(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、失明疾患の上位を占める網膜疾患の治療デバイスとして、強膜上に置くだけの低侵襲な方法で移植できる経強膜ドラッグデリバリーシステム(DDS)を作製し、さらに多剤併用療法に対応するために複数の薬物を任意の速度で徐放できるマルチDDSデバイスを開発することである。H24年度は緑内障治療薬レスキュラ(ウノプロストン:UNO)のシングルDDS化を検討した。また、昨年度に網膜保護効果を報告したEdaravone(EDV; 抗酸化剤)とUNOのマルチDDS化を検討した。またウサギ眼にデバイスを移植し毒性評価および薬剤網膜移行性の評価を行った。
研究方法
UNOおよびEDVをPEGDM/TEGDMでペレット化し、TEGDMリザーバーへ充填し、PEGDM/TEGDMでカバーした。PEGDM/TEGDM組成の異なるデバイスを作製し、リン酸バッファーに浸漬後、定期的にバッファーを回収し高速液体クロマトグラフィーで薬剤放出量を測定した。UNO、EDV、EDV/UNOデバイスをラット眼強膜上に移植し、1週間後に光障害を行い、4日後に網膜電図を評価した。その7日後に網膜を回収し、ウェスタンブロットを行った。網膜神経節細胞株RGC5をEDV、UNO、EDV/UNOを添加した培地で培養し、低酸素低栄養負荷後に細胞数測定、Reactive oxygen-species (ROS) assayを行った。ウサギ用デバイスを作製し、強膜上に移植し、定期的に網膜電図を評価した。網膜を回収し、LC/MS/MSでUNO代謝産物の定量を行った。
結果と考察
デバイスの薬剤ペレットおよびカバーのPEGDM/TEGDM組成に応じて、UNOとEDVの放出速度を独立に制御できることがわかった。また網膜光障害モデルに移植し、網膜電図で網膜機能を評価した結果、シングル徐放デバイス(EDVもしくはUNO)と比較してEDV/UNOマルチ徐放デバイスは相乗効果的に網膜機能を保護することが示唆された。このメカニズムとして薬剤によるROS産生の抑制およびアポトーシス関連シグナルp38のリン酸化の抑制が示唆された。また、このEDV/UNOの同時投与による保護効果はIn vitro細胞培養でも確認できた。ウサギ眼の実験ではデバイス自体の眼局所毒性は認められず、UNOが網膜へ移行していることが示唆された。
結論
EDVとUNOをマルチ徐放するデバイスを作製し、網膜光障害モデルラットで網膜保護効果を確認した。また、ウサギへの移植で、デバイスの局所毒性は認められず、網膜への局所的薬物移行が確認できた。本デバイスは反復投与の必要がない、複数薬剤持続投与デバイスとしての応用が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201212018B
報告書区分
総合
研究課題名
低侵襲で多剤動態制御可能な薬物徐放デバイスの開発と網膜疾患治療への応用
課題番号
H23-医療機器-若手-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
永井 展裕(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、失明疾患の上位を占める網膜疾患の治療デバイスとして、強膜上に置くだけの低侵襲な方法で移植できる経強膜ドラッグデリバリーシステム(DDS)を作製し、さらに多剤併用療法に対応するために複数の薬物を任意の速度で徐放できるマルチDDSデバイスを開発することである。H23年度は網膜保護が期待される臨床薬物のgeranylgeranylaceton(GGA)とedaravone(EDV)をシングルDDS化し、網膜障害モデルラットに移植して薬効を評価した。また3種類の蛍光色素を充填したDDSをラット眼に移植し薬物眼内移行性を評価した。H24年度はウノプロストン(UNO)のシングルDDS化、およびEDVとUNOのマルチDDS化を検討した。ウサギ眼用デバイスを作製し、眼局所毒性の評価と薬物網膜移行性の評価を行った。
研究方法
蛍光色素、GGA、EDV、UNOをPEGDM/TEGDMでペレット化し、TEGDMリザーバーへ充填し、PEGDM/TEGDMでカバーした。PEGDM/TEGDM組成の異なるデバイスを作製し、リン酸バッファーに浸漬後、定期的にバッファーを回収し、蛍光プレートリーダー、高速液体クロマトグラフィーで薬剤放出量を測定した。蛍光色素マルチデバイスをラット眼強膜上に移植し、1、4週後に眼球を摘出し、網膜組織中の蛍光強度を測定した。GGA、EDV、UNO、EDV/UNOデバイスをラット眼強膜上に移植し、1週間後に光障害を行い、4日後に網膜電図を評価した。その7日後に網膜を回収し、ウェスタンブロットを行った。網膜神経節細胞株RGC5をEDV、UNO、EDV/UNOを添加した培地で培養し、低酸素低栄養負荷後に細胞数測定、Reactive oxygen-species (ROS) assayを行った。ウサギ用デバイスを作製し、強膜上に移植し、定期的に網膜電図を評価した。網膜を回収し、LC/MS/MSでUNO代謝産物の定量を行った。
結果と考察
デバイスの薬剤ペレットおよびカバーのPEGDM/TEGDM組成に応じて、薬剤のの放出速度を独立に制御できることがわかった。蛍光色素マルチデバイスの移植では、各色素の徐放量に応じて、網膜に蛍光色素が移行していた。また網膜光障害モデルの実験では、シングル徐放デバイス(GGA、EDV、UNO)は徐放量に応じて網膜保護効果を認め、さらにEDV/UNOマルチ徐放デバイスはシングル徐放デバイスと比較して相乗効果的に網膜機能を保護することが示唆された。このメカニズムとして薬剤によるROS産生の抑制およびアポトーシス関連シグナルp38のリン酸化の抑制が示唆された。また、EDV/UNOの同時投与による保護効果はIn vitro細胞培養でも確認できた。ウサギ眼の実験ではデバイス自体の眼局所毒性は認められず、UNOが網膜へ移行していることが示唆された。
結論
GGA、EDV、UNOの徐放条件を確立し、さらにEDVとUNOをマルチ徐放するデバイスはシングル徐放デバイスと比較して、網膜光障害モデルラットに対して相乗効果的に網膜保護効果を認めた。また、ウサギへの移植ではデバイスの眼局所毒性は認められず、網膜への局所的薬物移行が確認できた。本デバイスは反復投与の必要がない、安全な複数薬剤の持続投与デバイスとして有用であると期待できる。

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201212018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1か月以上の長期にわたって複数の薬剤を独立に徐放制御できるデバイスはこれまで報告がなく、さらにこのデバイスを用いて網膜変性動物モデルに対する治療エビデンスを得たことも初めてであり、学術的価値は高い。今後は大型動物への治療効果を確かめる必要がある。
臨床的観点からの成果
臨床的には網膜疾患に対する薬剤投与法として、点眼、硝子体注射、硝子体内インプラントがある。点眼は網膜へ薬剤が移行しにくい点と点眼の煩わしさが治療の妨げとなっている。また、硝子体内への投与は眼内副作用の危険がある。我々の経強膜投与デバイスは、網膜へ持続的に必要な量だけ投与でき、かつ眼内への侵襲がないため、これまでの課題をすべて解決できる可能性がある。
ガイドライン等の開発
複数の薬剤を徐放するデバイスはこれまで上市された例がないため、デバイスの有効性および安全性を証明するデータの取得方法および、申請区分(医療機器もしくは薬剤)を治験申請前に十分議論する必要があると思われる。
その他行政的観点からの成果
徐放デバイス化によって薬効が的確になり投与量が減量されるため、副作用を低減して安全性を高め、さらに効率投与によって社会医療費を削減できる可能性がある。また副作用や製剤上の理由で開発を断念した化合物を徐放デバイスとして復活させたり、新薬開発リスク、とくにタンパク製剤等の新しいバイオ製剤の実用化リスクを低減できる可能性がある。
その他のインパクト
眼科関連製剤メーカーからの問い合わせは多く、既存臨床薬の徐放デバイス化や新規薬剤の徐放化による付加価値化等の研究に発展する可能性がある。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
持続性ドラッグデリバリーシステム
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2011-527664
発明者名: 阿部俊明、永井展裕、梶弘和、川島丈明、西澤松彦、西田幸二
権利者名: 東北大学
国内外の別: 国内、米国、欧州

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nobuhiro Nagai, Hirokazu Kaji, Hideyuki Onami, et al.
A polymeric device for controlled transscleral multi-drug delivery to the posterior segment of the eye
Acta Biomaterialia , 10 , 680-687  (2014)
原著論文2
Nobuhiro Nagai, Hirokazu Kaji, Hideyuki Onami, et al.
A Platform for Controlled Dual-Drug Delivery to the Retina: Protective Effects against Light-Induced Retinal Damage in Rats
Advanced Healthcare Materials , 3 (10) , 1555-1560  (2014)
10.1002/adhm.201400114.
原著論文3
Hideyuki Onami, Nobuhiro Nagai, Hirokazu Kaji, et al.
Transscleral sustained vasohibin-1 delivery by a novel device suppressed experimentally induced choroidal neovascularization
PLoS ONE , 8 (3) , e58580-  (2013)
原著論文4
Zhaleh Kashkouli Nezhad, Nobuhiro Nagai, Kotaro Yamamoto, Hirokazu Kaji, et al.
Application of clotrimazole via a novel controlled release device provides potent retinal neuroprotection
Journal of Materials Science: Materials in Medicine , 26 (230) , 5561-  (2015)
原著論文5
Nobuhiro Nagai, Satoru Iwata, Kaori Sampei, Hideyuki Onami, et al.
Protective effects of transscleral sustained unoprostone delivery against retinal degeneration in S334ter rhodopsin mutant rats
Journal of Biomedical Materials Research Part B: Applied Biomaterials  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2016-01-28

収支報告書

文献番号
201212018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,940,962円
人件費・謝金 1,353,127円
旅費 401,087円
その他 304,824円
間接経費 1,500,000円
合計 6,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-