チタン酸化物を含有するバイオハイブリッドナノ粒子の放射線治療増感による難治性がんの新規治療法開発

文献情報

文献番号
201212003A
報告書区分
総括
研究課題名
チタン酸化物を含有するバイオハイブリッドナノ粒子の放射線治療増感による難治性がんの新規治療法開発
課題番号
H22-低侵襲-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 昭彦(神戸大学 大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 良平(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 荻野 千秋(神戸大学 大学院工学研究科)
  • 田中 勉(神戸大学 大学院工学研究科)
  • 梅津 光央(東北大学 大学院工学研究科)
  • 大原 智(大阪大学 接合科学研究所)
  • 佐藤 和好(群馬大学 大学院工学研究科)
  • 高見 誠一(東北大学 大学院工学研究科)
  • 曽我 公平(東京理科大学 基礎工学部材料工学科)
  • 沼子 千弥(千葉大学 大学院理学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
47,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、現在、既にがん組織への治療の一つとして確立されている「高精度放射線治療」にナノ粒子を併用する事で、これまで難しいとされている、膵臓などの「放射線低感受性組織」における難治性がんの飛躍的な治療向上を目指す。
研究方法
・ラジカルを発生する粒子を用いた細胞障害効果の検討
 昨年度までに過酸化チタンナノ粒子に放射線を照射することでラジカルが発生し、細胞を死滅させることは明らかとなっている。そこで、今年度は以下に効率良く細胞死を誘導させるのか?この点について、細胞取込効率の観点から検討を行った。
・{001}面を有する二酸化チタンナノ粒子の合成
過酸化チタンナノ粒子は、二酸化チタンナノ粒子の酸化により合成できる。これまでの結果により、二酸化チタンナノ粒子の表面数原子層から数十原子層が、過酸化物に変化しているものと予想される。そのため、過酸化チタンナノ粒子のサイズ・形状・結晶面・結晶構造等の制御は、二酸化チタンナノ粒子のサイズ・形状・結晶面・結晶構造等の制御により可能と考えている。そこで本研究では、水熱合成プロセス条件を検討し、二酸化チタンのサイズ・形状・結晶面・結晶構造等の制御を試みた。
・動物実験
 担がんマウスモデルを作成し、TiOxナノ粒子とX線の併用による抗腫瘍効果を評価した。BALB/cヌードマウス(4週令オス)の大腿部皮下にMIAPaCa2細胞株(2×106個)を移植した。移植後7日目に8.7wt%のPAA修飾TiOxナノ粒子150μlを腫瘍局注し、その後X線5Gyを腫瘍に照射した。照射装置はMBR-1505R2を使用し、照射中、腫瘍部以外は鉛ブロックによりシールドされた。照射後一定期間、腫瘍体積を測定した。評価は、ナノ粒子X線併用群、ナノ粒子単独群、X線単独群、そして無処置(コントロール)群の4グループ(3匹/グループ)で行った。
・培養細胞実験
 TiOxナノ粒子の作用により生成されるラジカル種の特定等、動物実験において評価が困難であった項目に関して、in vitroでの評価を行った。
結果と考察
・ラジカルを発生する粒子を用いた細胞障害効果の検討
 モデルナノ粒子を用いる事で、放射線照射時に必要とされるナノ粒子の取り込みに必要な培養時間を決定した。
・{001}面を有する二酸化チタンナノ粒子の合成
 6時間の水熱反応処理したサンプルは、全てサイズが20nm程度のナノ粒子であることが確認できた。また、TEM写真より、2種類の形状の粒子が観察された。一つは四角形状({001}面:図6b)で、もう一つは棒状({101}面:図6c)であるが、この棒状粒子は横方向から見た四角形状粒子である。
・動物実験
 担がんマウスモデルを用いてTiOx粒子とX線の併用による抗腫瘍効果を評価した。TiOxナノ粒子とX線併用群は、X線照射のみ群と比べて有意な差がみられた。全観察期間は43日間であり、処置中および観察期間中に死亡したマウスはいなかった。このことは、TiOxナノ粒子に毒性がないことを示唆する。
・培養細胞実験
 In vitroにおけるTiOxナノ粒子とX線照射の併用による殺細胞効果を評価した。TiOxナノ粒子併用により細胞の生存率に差を認め、動物実験と同様にIn vitroにおいてもTiOxナノ粒子とX線の併用による殺細胞効果が示された。また、TiOxナノ粒子が細胞内に十分に取り込まれていることが観察された。
結論
本年度は、過酸化チタンナノ粒子に放射線を照射するとラジカルを発生することを見出し、これを基としたメカニズムの解明から動物実験にわたり基礎的な知見を得る事に成功した。今後も研究を進めることで、本技術を確立し実用化できると期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201212003B
報告書区分
総合
研究課題名
チタン酸化物を含有するバイオハイブリッドナノ粒子の放射線治療増感による難治性がんの新規治療法開発
課題番号
H22-低侵襲-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 昭彦(神戸大学 大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 良平(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 荻野 千秋(神戸大学 大学院工学研究科)
  • 田中 勉(神戸大学 大学院工学研究科)
  • 梅津 光央(東北大学 大学院工学研究科)
  • 大原 智(大阪大学 接合科学研究所)
  • 佐藤 和好(群馬大学 大学院工学研究科)
  • 高見 誠一(東北大学 大学院工学研究科)
  • 曽我 公平(東京理科大学 基礎工学部材料工学科)
  • 沼子 千弥(千葉大学 大学院理学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膵臓がんは、初期での発見が難しく、多くの場合にステージの進んだがんとして発見される事が多い。このような膵臓がんの治療方法としては、外科的手術、化学治療、放射線治療があるが、上述のように膵臓がんと診断された7~8割は発見時に既に切除手術の対象とならないほど進行しており、その場合は、根治を断念し、症状改善のみを目指した姑息的な手術や処置とともに、抗がん剤による化学治療や放射線治療、またはその両者が行われる事が多い。しかし膵臓は、血流と血流中の溶存酸素濃度が他の臓器と比べると比較的少なく、放射線照射による活性酸素種(フリーラジカル)の産生量が少なく、放射線治療に対して感受性が低い事が明らかとなっている。以上の膵臓がん治療の問題点を背景に、本研究では、QOLが高い放射線治療を膵臓がんに対して効果的に作用する機構を保持し、初期ステージのがんでの発見をも可能にする、スーパーハイブリ・ナノ粒子の構築を目指し、放射線治療への併用を目指した。具体的には、チタン酸化物を含有するバイオハイブリッドナノ粒子の放射線治療増感による難治性がんの新規治療法開発”を提唱して、腫瘍部近傍の正常組織への非照射線量を極力低減し、より低侵襲な非外科的・新規治療法の確立を目指した。
研究方法
チタン酸化物ナノ粒子(過酸化チタン・ナノ粒子)の開発に関しては、水熱反応によるナノ粒子合成手法を適用し、過酸化水素の吸着反応を実施する事で過酸化チタン・ナノ粒子を構築する事に成功した。また、過酸化チタン・ナノ粒子へのポリアクリル酸修飾は、同様に水熱吸着反応を高圧容器内で行う事で達成した。なお、ラジカルの発生方法の評価は、XAFSなどの分光学的手法を駆使して行った。
 培養細胞はすい臓がんモデル細胞であるMIAPaCaIIを用いて行い、X線照射装置と上記で作製したナノ粒子を同時利用する事で、細胞損傷を実施した。担がんマウスの実験に関しても、マウス大腿部へすい臓がん培養細胞を移植し、がん組織を固形化した後に、構築したナノ粒子を当該局部へと注入し、X線照射を行い、その後約2ヶ月間の観察を行い、マウスの固形がんの形状変化を観察した。
 B型肝炎ウィルス由来のエンベロープたんぱく質の改質と生産は酵母を用い、効率的に生産する手法を確立した。
結果と考察
 本研究では「高精度放射線治療」とチタン酸化物ナノ粒子を併用し、有効な治療法の確立されていない膵臓がんなどの難治性がんの飛躍的な治癒率向上を目指した。本研究チームにて開発したチタン酸化物ナノ粒子(過酸化チタン・ナノ粒子)をポリアクリル酸で修飾する事で、血液中でも分散可能な粒子を開発した。そして、培養細胞によるX線照射との併用実験により、細胞損傷を確認する事が出来た。更に、担がんマウスの実験においても、すい臓がん細胞を移植したマスをモデル系として使用して、大腿部へ移植されたがん細胞に対して過酸化チタン・ナノ粒子を直部注入し、X線照射を併用する事で、飛躍的な抗腫瘍効果を確認する事が出来た。このことから、我々が提案した「放射線治療」と「チタン酸化物ナノ粒子」の併用は、がん治療に非常に有効的な手法である事が明らかとなった。この提案技術に関しては、特許を出願し、海外への出願も展開しており、現在までに、日本、中国、欧州、アメリカでの出願申請を完了し、審査請求の対応を行っている段階である。また、その成果に関しても論文作成を進めている。
  過酸化チタン・ナノ粒子の開発に関しては、そのナノスケールにおいてナノ粒子の形状を特徴的に制御する技術を開発した。がん細胞への標的化に関しては、B型肝炎ウィルス由来のエンベロープたんぱく質を利用した標的化と、リポソームと低分子抗体を利用した標的化を行う事にも成功した。以上の成果に関しては、個別の論文として、成果をまとめ、論文発表を進めている。
  以上、本研究の達成度は、当初予定したすべての検討項目において目標値を達成し、難治性がんである「すい臓がん」などへの医療応用が期待できる。
結論
本研究では、上述のように「放射線治療」と「チタン酸化物ナノ粒子」の併用による治療方法をマウスの固形がんを用いて検証する事が出来、効果的な抗腫瘍効果を確認できた。したがってその達成度は、当初の目標をおおよそ達成出来たと判断する。しかしながら、今後は、提案する「過酸化チタン・ナノ粒子」の生体内での挙動解析が重要となってくると考える。そのためには、本ナノ粒子の生体内での資化性や安全性、排出機構の解明など、より臨床応用に必要な検証を行って行く必要があると考える。更には、「過酸化チタン・ナノ粒子」の作成方法の医薬品の製造に従ったGMP基準での生産システムの構築が重要になると判断する。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201212003C

収支報告書

文献番号
201212003Z