HIVの宿主因子依存性を逆利用したエイズ発症機構の解明研究

文献情報

文献番号
201210013A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVの宿主因子依存性を逆利用したエイズ発症機構の解明研究
課題番号
H22-政策創薬-一般-017
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
日吉 真照(熊本大学 エイズ学研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 これまでのヒトのコホート研究やサル感染モデルを用いた研究によって、HIV-1 Nefはエイズ発症に重要なタンパク質であることが明らかである。そのためエイズ発症機構の理解や発症防止薬剤の開発などにおいて、Nef機能の解明は重要である。しかし現在もなお、エイズ発症に関与する作用機序の解明重要と宿主因子との関連など根本的な点は未解明である。
 本研究は、Nefが機能を発揮するために複数の宿主因子を利用する性質を逆に利用したユニークなアプローチで、HIV-1研究の新たなツールと視点(Nef機能阻害物質と関連宿主因子)を提供することを目的とする。
研究方法
 我々が独自に同定した化合物2CのU87-CD4-CCR5細胞に対する細胞毒性の有無を確認するため、化合物2Cが12.5μM、25μM、50μM、100μM及び200μMの培養液中でU87-CD4-CCR5細胞を培養した後、細胞数をMTT assayを行って計測した。さらに、化合物2Cのウイルス産生と感染力を予測するために、上記実験と同様の化合物2Cを含む培養液で培養したU87-CD4-CCR5細胞にHIV-1 JRFLを感染させた後、MTT assayを行って生存する細胞数を計測した。
 一方、化合物2Cをプローブとして、Nefの機能発揮に重要な宿主タンパク質(群)の選別を行った。まず、既知のNef結合タンパク質について、化合物2CによってNefとの結合が阻害されるかどうかを確認した。さらに、Nef機能に重要な宿主タンパク質の同定法の改良を試みた。Flag tagとStrep tagの2つのtagに対してアフィニティーゲルを用いた二段階の精製を行い、以前の方法と比較した。
結果と考察
 今回使用したU87-CD4-CCR5細胞でも、Nefによってウイルス産生量と感染力の増強効果が確認できた。以前の研究において、化合物2Cは293細胞に対して細胞毒性を示さないことを我々は明らかにしていたが、その結果と一致して、U87-CD4-CCR5細胞において化合物2Cは細胞毒性を示さなかった。このことから、化合物2Cは細胞に対する毒性は低いと考えられる。これらのことから、化合物2CはNefをターゲットとする機能阻害薬剤の候補として有望である。しかし、Nef機能を阻害するために必要な化合物2Cの濃度は50~200μMと高いため、更なる改良が必要である。
 今回、これまでに報告されているNefと結合するタンパク質について、化合物2CがNefとの結合を阻害するのか解析した。その結果、化合物2Cは非受容体型チロシンキナーゼであるTecタンパク質、及びItkタンパク質のNefとの結合を阻害することを明らかにした。これらのタンパク質はNefと結合することは明らかにされているが、どのようにHIV-1の病原性に関与するのかは未だ明らかになっていない。我々のこれまでの研究で、化合物2CはNef機能であるウイルス産生量増加、MHC-I発現量低下そしてウイルス感染力増強を抑制することを明らかにしてきた。このことから、今回明らかにしたTecタンパク質及びItkタンパク質がNefによってどのように影響を受けるのかを解析することで、上記Nef機能の分子メカニズムを明らかにできる可能性がある。更なる解析を行う必要がある。
 さらに今回、2つのtagを用いてNef機能に重要なタンパク質の同定法の改良を行ったところ、以前の方法より非特異的なタンパク質を除去することができた。今後、精製サンプルに含まれるタンパク質を質量分析を用いて同定する予定である。これらの研究により、Nef機能の分子メカニズムについて、更なる知見が得られることが期待できる。
結論
 今回、化合物2Cについてさらに、細胞毒性の低さとNef機能の阻害効果が高いことを確認することができた。この化合物2Cは、既知の抗HIV-1薬剤と異なる作用点を持つ新たな薬剤の候補として有望であると考えられる。更なる改良を行うことが必要である。また、化合物2Cを用いることによって、Nefの重要な機能であるウイルスの産生能増加と感染力増強、及びMHC-I発現低下に関与する可能性がある複数の宿主タンパク質を見出すことができた。今後、これらのタンパク質の同定やそれらが関与する分子メカニズムを明らかにすることで、HIV-1の病原性発揮、エイズ発症などの分子メカニズムについて、新たな知見を得ることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201210013B
報告書区分
総合
研究課題名
HIVの宿主因子依存性を逆利用したエイズ発症機構の解明研究
課題番号
H22-政策創薬-一般-017
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
日吉 真照(熊本大学 エイズ学研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 HIV-1 Nefはエイズ発症に重要なタンパク質であることが明らかにされているが、現在もなお「Nefのどの機能が重要か、それら機能にどんな宿主因子が必要か」など根本的な点は未解明のままである。本研究は、Nefがその機能を発揮するために複数の宿主因子を利用する性質を逆手に取ったユニークなアプローチで、HIV-1研究の新たなツールと視点を提供することを目的とする。
 Nefと強く結合する宿主因子Hckの変異体は、Nefと本来結合する他の宿主因子との結合を阻害し、Nef機能を抑制する。このことを逆手に取れば、以下の2つの点に応用できる。まず、Hck変異体のアミノ酸配列をもとにして、上記2つのNefの機能を阻害するぺプチドの同定が可能である。さらに、Hck変異体をプローブとして利用することで、上記2つのNef機能を担う宿主因子を明らかにすることができる。一方、近年我々のグループは独自にNef結合化合物2Cを同定したが、この化合物2CのNef機能阻害効果についても解析する。
 これらの研究を通じて本研究では、Nefをターゲットとした新たな抗HIV-1剤の候補となる分子の同定を試みる。さらに、それらの分子を用いてNefに結合する宿主因子(群)を同定し、エイズ発症機序について新たな知見と視点を提供することを目指す。
研究方法
(1)Nef機能阻害Hckペプチドの同定とその機能解析
 Hck変異体のアミノ酸配列からNef機能の阻害効果を持つ最小のペプチドの作製を行った。さらに、そのアミノ酸配列の重要な領域を調べるために、変異を導入して解析した。
(2)Nef機能阻害低分子化合物2CとNefの結合様式の同定
 独自に同定した化合物2CについてNef機能阻害効果の解析を行った。さらに、化合物2CとNefの結合様式を予測するために、化合物2C-Nefドッキングモデルを作製した。
(3)化合物2Cのウイルス感染力に対する効果の解析
 HIV-1を産生する培養細胞293細胞を用いて化合物2Cのウイルス感染力に対する効果を解析した。さらに、その分子メカニズムを解析した。
(4)化合物2Cのウイルス複製に対す効果の解析
 293細胞で作製した組み替えHIVウイルスをJurkat細胞、マクロファージもしくはU87-CD4-CCR5細胞を用いて、化合物2Cのウイルス複製に対する効果を解析した。
(5)化合物2CのNefが誘導するゴルジ体機能異常に対する効果の解析
 化合物2CはNefによるゴルジ体機能異常を抑制できるか検討した。具体的には、Nefによって生じるリン酸化GRASP65タンパク質について検証した。
(6)Nef機能発現に関与する新規宿主因子(群)の同定
 Nefと結合する宿主タンパク質の中で化合物2CもしくはHck由来ペプチドの存在下で結合が阻害される宿主タンパク質の抽出を行なった。
結果と考察
 Hck変異体のアミノ酸配列から、Nefと結合する54アミノ酸からなるペプチドを同定することができた。このHckペプチドは分子量が小さいく、より実用的な分子である。今後、分子の最小化などの改良を行うベース分子として期待される。
 独自に同定した化合物2Cは、細胞毒性を示さず、Nefの機能を阻害することを見出した。さらに、分子機序を調べたところ、化合物2Cは産生細胞内でNef機能を特異的に阻害することで、感染初期に作用してウイルス感染力をさせることが予想された。 また、化合物2CはNefによるゴルジ体機能阻害を抑制することがわかった。化合物2Cは、多くのNef機能を抑制する可能性を示唆している。
 さらに、化合物2Cを用いてNef結合宿主タンパク質の候補を3種類見出した。今後、それらのタンパク質を同定することで、Nefの新たな分子機構の解明が期待される。
 これまでに世界中で報告されたNef機能阻害分子は、化合物2Cを含めて2例だけである。この化合物をさらに改良することは全く新しい抗HIV-1薬剤の開発に貢献すると考えれる。
結論
 本研究で、Nef機能阻害Hckペプチドを作製することができた。これは分子の最小化などの最適化を行なうベースペプチドとなり得る。また、我々が独自に同定した化合物2Cもまた、Nefと直接結合してNef機能を抑制することを見出した。このように、Nefをターゲットとした新たな作用機序を持つ抗HIV-1分子を同定することができた。また化合物2Cを用いてNefに結合する可能性がある3種類の宿主タンパク質を見出すことができた。これらのタンパク質を同定することで、Nefの機能発現メカニズムについて新たな知見を得ることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201210013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 本研究は、AIDS発症に重要なNefタンパク質をターゲットにした新たな作用機序を持つ分子の同定と、それを用いたNefタンパク質機能に必須の宿主因子の同定を目的として研究を行った。その結果、2種類のNef機能阻害分子、Hckペプチドと化合物2Cを同定した。これらの分子はNefタンパク質の機能であるウイルスの粒子感染力増強と複製増加、およびMHC-1分子発現低下を抑制することを明らかにした。さらに、これらの分子を用いてNef機能発現に重要な宿主因子の3種類の候補を見出すことに成功した。
臨床的観点からの成果
 これまでの研究で、Nefタンパク質はAIDS発症に重要であることは明らかであったが、Nefをターゲットにした薬剤はまだ作られていない。本研究では、Nefに直接結合しその機能を抑制するHckペプチドと化合物2Cを同定することに成功した。今後、これらの分子をさらに改良することで、新たな作用機序を持つ薬剤開発への貢献が期待できる。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201210013Z