文献情報
文献番号
199800050A
報告書区分
総括
研究課題名
光感受性物質ATX-S10を用いた光化学治療による診断および治療機の開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
尾花 明(大阪市立大学医学部眼科学教室)
研究分担者(所属機関)
- 郷渡有子(大阪市立大学医学部眼科学教室)
- 金井正和(大阪市立大学医学部眼科学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、高齢者に失明をもたらす疾患として、加齢性黄斑変性症が重要視されている。加齢性黄斑変性症は眼底に脈絡膜新生血管とよばれる異常血管が発生する疾患で、原因は不明である。以前は欧米に多く、わが国には少ないとされたが、食生活の欧米化や様々な環境汚染物質、VDT労働などの光暴露の増加によりわが国でも急激に増加している。加齢性黄斑変性症では新生血管が破綻して眼底出血を来す。従って診断は、新生血管の位置と形を正確に捉えることで、治療は新生血管を閉塞させることである。しかし、現在はインドシアニングリーン螢光造影検査により診断率は向上したが、いまだに診断の不可能な症例も多数例存在し、また、治療に至ってはレーザー光凝固治療、手術治療が行われるが、いづれも術後に視力低下を来たし、多くの例で失明を免れない状況である。
そこで、本研究では従来のレーザー光凝固などとはまったく異なる光化学反応を応用した加齢性黄斑変性症の診断および治療をめざし、それをより効果的に行うための診断、治療装置を開発することを目的とする。
そこで、本研究では従来のレーザー光凝固などとはまったく異なる光化学反応を応用した加齢性黄斑変性症の診断および治療をめざし、それをより効果的に行うための診断、治療装置を開発することを目的とする。
研究方法
1実験動物および脈絡膜新生血管作成
体重2~2.5kgのカニクイザル6匹12眼を使用した。実験は実験動物の飼育及び保管等に関する基準(総理府告示第6号)、米国The Association for Research in Vision and Ophthalmology Resolution on the Use of Animals in Researchに基づいて施行した。塩酸ケタミン50~60mg/kg体重とジアゼパム5~10mgの筋注による全身麻酔下で、0.5%トロピカミド、0.5%塩酸フェニレフリンにて散瞳した。倒像鏡で眼底に異常が無いことを確認後、0.4%塩酸オキシブプロカインで表面麻酔し、眼底レンズ(IF-210R、メニコン)を使用して中心窩を除く眼底後極部にクリプトン赤レーザー(波長647nm)で、強凝固を行った。照射径は角膜面上75μm、照射時間0.1秒、出力500~600mWで、1眼に3~9発施行した。光凝固の10~24日後に眼底カメラ(TRC-50IA、Image NetH-1024、トプコン)で眼底写真、フルオレセイン螢光造影(FA)、インドシアニングリーン螢光造影(IA)を行った。凝固部に漿液性網膜剥離や網膜下出血を伴う網膜下増殖組織がみられ、FA早期にその部に輪状の過螢光を呈し、造影後期に螢光色素漏出が認められ、さらに、IA開始直後から5分後の間に輪状の過螢光が認められた場合を脈絡膜新生血管の発生として同定した。FAには5%フルオレセイン液1mlを、IAにはインドシアニングリーン5mg/ml溶液0.5mlを使用した。
2光感受性物質
ATX-S10Na(II)[13,17-bis (1-carboxypropionyl) carbamoylethyl-8-ethenyl-2-hydroxy-3-hydroxyiminoethylidene-2,7,12,18-tetramethyl porphyrin sodium、日本レダリー/東洋薄荷工業]を使用した。薬剤は暗所に保存し、使用直前に注射用蒸留水で溶解して10mg/mlの濃度で使用した。
3ATX-S10Na(II)螢光造影
新生血管発生を確認後、4または8mg/kg体重のATX-S10Na(II)を前腕静脈から急速静脈内注射した。撮影装置はまず、トプコン社TRC-50IA眼底カメラを改造して、波長670nmの浜松ホトニクス社製半導体レーザーを励起光としたものを使用した(眼底カメラ型装置)。バリアフィルターには波長670nm以下の光をカットするシャープカットフィルター(富士SC70)を使用した。CCDカメラで撮像し、記録にはS-VHSまたはデジタルビデオを使用した。次に、走査レーザー検眼鏡(興和)を改良して半導体レーザーを励起光とした装置(走査型装置)で、同様の螢光造影を行った。得られた画像の螢光強度は NIH imaging software (ver 1.58)にて計測し、背景輝度に対する新生血管の輝度および網膜動脈の輝度の比をそれぞれ算出した。
4ATX-S10Na(II)螢光造影後の網脈絡膜障害の検討
ATX-S10Na(II)は光励起によって細胞障害を来すので、今回の螢光造影によりどの程度の網脈絡膜障害が生じたかを検討した。ATX-S10Na(II)螢光造影の翌日ないし1週後に検眼鏡による眼底観察、眼底カラー撮影、FA、IA撮影を施行した。また、新生血管作成後でATX-S10Na(II)螢光造影前と螢光造影2日後ないし1週間後にそれぞれ網膜電位図(ERG)測定を行った。ERGにはプリムス(ラーチェ社)を使用した。
体重2~2.5kgのカニクイザル6匹12眼を使用した。実験は実験動物の飼育及び保管等に関する基準(総理府告示第6号)、米国The Association for Research in Vision and Ophthalmology Resolution on the Use of Animals in Researchに基づいて施行した。塩酸ケタミン50~60mg/kg体重とジアゼパム5~10mgの筋注による全身麻酔下で、0.5%トロピカミド、0.5%塩酸フェニレフリンにて散瞳した。倒像鏡で眼底に異常が無いことを確認後、0.4%塩酸オキシブプロカインで表面麻酔し、眼底レンズ(IF-210R、メニコン)を使用して中心窩を除く眼底後極部にクリプトン赤レーザー(波長647nm)で、強凝固を行った。照射径は角膜面上75μm、照射時間0.1秒、出力500~600mWで、1眼に3~9発施行した。光凝固の10~24日後に眼底カメラ(TRC-50IA、Image NetH-1024、トプコン)で眼底写真、フルオレセイン螢光造影(FA)、インドシアニングリーン螢光造影(IA)を行った。凝固部に漿液性網膜剥離や網膜下出血を伴う網膜下増殖組織がみられ、FA早期にその部に輪状の過螢光を呈し、造影後期に螢光色素漏出が認められ、さらに、IA開始直後から5分後の間に輪状の過螢光が認められた場合を脈絡膜新生血管の発生として同定した。FAには5%フルオレセイン液1mlを、IAにはインドシアニングリーン5mg/ml溶液0.5mlを使用した。
2光感受性物質
ATX-S10Na(II)[13,17-bis (1-carboxypropionyl) carbamoylethyl-8-ethenyl-2-hydroxy-3-hydroxyiminoethylidene-2,7,12,18-tetramethyl porphyrin sodium、日本レダリー/東洋薄荷工業]を使用した。薬剤は暗所に保存し、使用直前に注射用蒸留水で溶解して10mg/mlの濃度で使用した。
3ATX-S10Na(II)螢光造影
新生血管発生を確認後、4または8mg/kg体重のATX-S10Na(II)を前腕静脈から急速静脈内注射した。撮影装置はまず、トプコン社TRC-50IA眼底カメラを改造して、波長670nmの浜松ホトニクス社製半導体レーザーを励起光としたものを使用した(眼底カメラ型装置)。バリアフィルターには波長670nm以下の光をカットするシャープカットフィルター(富士SC70)を使用した。CCDカメラで撮像し、記録にはS-VHSまたはデジタルビデオを使用した。次に、走査レーザー検眼鏡(興和)を改良して半導体レーザーを励起光とした装置(走査型装置)で、同様の螢光造影を行った。得られた画像の螢光強度は NIH imaging software (ver 1.58)にて計測し、背景輝度に対する新生血管の輝度および網膜動脈の輝度の比をそれぞれ算出した。
4ATX-S10Na(II)螢光造影後の網脈絡膜障害の検討
ATX-S10Na(II)は光励起によって細胞障害を来すので、今回の螢光造影によりどの程度の網脈絡膜障害が生じたかを検討した。ATX-S10Na(II)螢光造影の翌日ないし1週後に検眼鏡による眼底観察、眼底カラー撮影、FA、IA撮影を施行した。また、新生血管作成後でATX-S10Na(II)螢光造影前と螢光造影2日後ないし1週間後にそれぞれ網膜電位図(ERG)測定を行った。ERGにはプリムス(ラーチェ社)を使用した。
結果と考察
1眼底カメラ型装置によるATX-S10Na(II)螢光造影
ATX-S10Na(II)静注前に眼底を撮影したが、組織の自発螢光は認められなかった。ATX-S10Na(II)静注6秒後にFAの脈絡膜造影相(choroidal flash)類似の脈絡膜全体の明るい螢光がみられ、7秒後に乳頭上の網膜中心動脈が造影され始め、10秒で網膜静脈の潅流がみられた。IAのごく早期にみられるような毛様動脈に流入する色素を明瞭に認めることはできなかったが、脈絡膜大血管像はFAより明瞭に観察できた。10秒後頃から輪状の明瞭な脈絡膜新生血管像がみられ始めた。4分後頃から新生血管周囲に滲むような螢光がみられ、新生血管から漏出したATX-S10Na(II)による螢光と考えられた。その後新生血管の螢光は次第に明るくなり、10分から20分後頃は、新生血管、網膜動静脈、脈絡膜血管のすべてが観察された。約30分以降は、網膜主幹動静脈の螢光はみられるが、網膜毛細血管や脈絡膜の螢光はみられず、新生血管は明瞭に描出された。40分から90分頃が網膜血管の螢光が減弱し、脈絡膜血管の螢光はみられず、かつ新生血管に明るい螢光が残存する時期であった。2時間後でも新生血管の螢光はみられたが、やや暗くなり、3時間後にはかなり減弱した。24時間後には螢光はみられなかった。投与量4mg/kgでは、新生血管の螢光輝度は静注20分後に最高に達し、その後次第に減弱したが、網膜動脈の輝度は静注1分後に最高となりその後急速に減弱した。新生血管輝度と網膜動脈輝度には静注20~180分の間に有意(p<0.05)な差がみられた。投与量8mg/kgでは、新生血管の螢光輝度は静注40分後に最高に達した後減弱したが、網膜動脈の輝度は静注10分後に最高となりその後急速に減弱した。新生血管輝度と網膜動脈輝度には静注60~180分の間に有意(p<0.05)な差がみられた。以上より、ATX-S10Na(II)は静注直後には既存の網膜血管、脈絡膜血管内を流れるが、血中からは比較的急速に消失するが、新生血管からの消退は遅いために、静注後時間経過に伴い正常血管と新生血管の薬剤量の差を生じた。従って、正常血管の障害を抑制して、新生血管のみを選択的に閉塞させるには、新生血管と正常血管の薬剤量の差が大きな時期がレーザー照射に適した時期と考えられた。
2走査型装置によるATX-S10Na(II)螢光造影
ATX-S10Na(II)静注直後から眼底カメラ型装置の場合と同様の網膜血管、脈絡膜血管の造影が観察されたが、検出された螢光は弱く、眼底カメラ型装置の場合に比して不鮮明であった。脈絡膜新生血管の造影も観察されたが、輪郭は不明瞭であった。 この理由として、当初の予想以上に装置内部での導光率が不良なこと、半導体レーザーの出射角が広いために照射径が大きくなることなどが判明し、 眼底に照射された際のレーザー照射径の縮小、走査レーザー装置内で導光効率を上げるための装置内部の光学系の改良とレーザーの高出力化、撮像時間を短縮するための走査範囲の限定などの改良が必要と考えられた。
3網脈絡膜障害の検討
ATX-S10Na(II)静注直後から連続的に撮影を行った眼ではFAで色素上皮細胞の障害を示す顆粒状過螢光と一部に脈絡膜毛細血管閉塞を示す造影早期低螢光がみられた。IAでは造影後期に脈絡膜毛細血管閉塞を示す造影早期低螢光がみられた。これらの眼ではERGでa波の振幅低下がみられ、網膜外節の障害が示唆された。これに対して、 ATX-S10Na(II)静注20分以降に撮影を行った眼では、FA、IAで以上は認められず、ERG波形も正常であった。従って、 ATX-S10Na(II)造影は造影剤流入による循環動態の観察には不向きであるが、光化学治療開始前の新生血管の位置の診断は可能であると考えられた。
ATX-S10Na(II)静注前に眼底を撮影したが、組織の自発螢光は認められなかった。ATX-S10Na(II)静注6秒後にFAの脈絡膜造影相(choroidal flash)類似の脈絡膜全体の明るい螢光がみられ、7秒後に乳頭上の網膜中心動脈が造影され始め、10秒で網膜静脈の潅流がみられた。IAのごく早期にみられるような毛様動脈に流入する色素を明瞭に認めることはできなかったが、脈絡膜大血管像はFAより明瞭に観察できた。10秒後頃から輪状の明瞭な脈絡膜新生血管像がみられ始めた。4分後頃から新生血管周囲に滲むような螢光がみられ、新生血管から漏出したATX-S10Na(II)による螢光と考えられた。その後新生血管の螢光は次第に明るくなり、10分から20分後頃は、新生血管、網膜動静脈、脈絡膜血管のすべてが観察された。約30分以降は、網膜主幹動静脈の螢光はみられるが、網膜毛細血管や脈絡膜の螢光はみられず、新生血管は明瞭に描出された。40分から90分頃が網膜血管の螢光が減弱し、脈絡膜血管の螢光はみられず、かつ新生血管に明るい螢光が残存する時期であった。2時間後でも新生血管の螢光はみられたが、やや暗くなり、3時間後にはかなり減弱した。24時間後には螢光はみられなかった。投与量4mg/kgでは、新生血管の螢光輝度は静注20分後に最高に達し、その後次第に減弱したが、網膜動脈の輝度は静注1分後に最高となりその後急速に減弱した。新生血管輝度と網膜動脈輝度には静注20~180分の間に有意(p<0.05)な差がみられた。投与量8mg/kgでは、新生血管の螢光輝度は静注40分後に最高に達した後減弱したが、網膜動脈の輝度は静注10分後に最高となりその後急速に減弱した。新生血管輝度と網膜動脈輝度には静注60~180分の間に有意(p<0.05)な差がみられた。以上より、ATX-S10Na(II)は静注直後には既存の網膜血管、脈絡膜血管内を流れるが、血中からは比較的急速に消失するが、新生血管からの消退は遅いために、静注後時間経過に伴い正常血管と新生血管の薬剤量の差を生じた。従って、正常血管の障害を抑制して、新生血管のみを選択的に閉塞させるには、新生血管と正常血管の薬剤量の差が大きな時期がレーザー照射に適した時期と考えられた。
2走査型装置によるATX-S10Na(II)螢光造影
ATX-S10Na(II)静注直後から眼底カメラ型装置の場合と同様の網膜血管、脈絡膜血管の造影が観察されたが、検出された螢光は弱く、眼底カメラ型装置の場合に比して不鮮明であった。脈絡膜新生血管の造影も観察されたが、輪郭は不明瞭であった。 この理由として、当初の予想以上に装置内部での導光率が不良なこと、半導体レーザーの出射角が広いために照射径が大きくなることなどが判明し、 眼底に照射された際のレーザー照射径の縮小、走査レーザー装置内で導光効率を上げるための装置内部の光学系の改良とレーザーの高出力化、撮像時間を短縮するための走査範囲の限定などの改良が必要と考えられた。
3網脈絡膜障害の検討
ATX-S10Na(II)静注直後から連続的に撮影を行った眼ではFAで色素上皮細胞の障害を示す顆粒状過螢光と一部に脈絡膜毛細血管閉塞を示す造影早期低螢光がみられた。IAでは造影後期に脈絡膜毛細血管閉塞を示す造影早期低螢光がみられた。これらの眼ではERGでa波の振幅低下がみられ、網膜外節の障害が示唆された。これに対して、 ATX-S10Na(II)静注20分以降に撮影を行った眼では、FA、IAで以上は認められず、ERG波形も正常であった。従って、 ATX-S10Na(II)造影は造影剤流入による循環動態の観察には不向きであるが、光化学治療開始前の新生血管の位置の診断は可能であると考えられた。
結論
眼底カメラ型装置によるATX-S10Na(II)螢光造影により脈絡膜新生血管の位置の診断は可能である。新生血管の撮影可能な走査型装置が開発できたが、臨床応用までには画像の質的向上のためのさらなる改良が必要である。 ATX-S10Na(II)による光化学治療は加齢性黄斑変性の診断と治療成績向上に有用であると考えられる。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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