糖脂質抗原による免疫活性化を応用した呼吸器感染症に対するワクチン開発

文献情報

文献番号
201210009A
報告書区分
総括
研究課題名
糖脂質抗原による免疫活性化を応用した呼吸器感染症に対するワクチン開発
課題番号
H22-政策創薬-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
金城 雄樹(国立感染症研究所 生物活性物質部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,210,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 日本人の死因第3位である肺炎を予防する有効なワクチン開発は国民の保健医療向上に重要である。本研究では、肺炎の起炎菌として最も頻度の高い細菌の一つである肺炎球菌に対する新しいワクチン開発を目指して研究を行った。自然リンパ球のNKT細胞が肺炎球菌感染防御に重要な役割を担うという独自の研究成果を基に、NKT細胞活性化を介する新しい手法で肺炎球菌ワクチン開発の基礎的研究を行った。また、現行の成人用肺炎球菌ワクチンの効果を増強する方法を模索するために、ワクチン抗原の認識機序の解析を行った。
研究方法
 新規のワクチン開発の研究では、肺炎球菌蛋白抗原と共にNKT細胞というリンパ球を活性化する糖脂質抗原を用いた新規併用ワクチンを使用して、マウスモデルで検討を行った。マウスに、本併用ワクチンの経鼻接種を行い、血中の蛋白抗原に対する抗体価を測定した。また、併用ワクチンを接種したマウスに肺炎球菌を感染させ、感染後の肺内菌数および生存期間を解析した。
 肺炎球菌多糖抗原ワクチンの認識機構の解明に関する研究では、Dectin-2という糖鎖認識分子に着目し、Dectin-2欠損マウスを用いて解析を行った。Dectin-2欠損マウスと野生型マウスに肺炎球菌多糖ワクチンを接種し、血中の抗体価を測定した。また、Dectin-2欠損マウスに糖脂質抗原を投与して、抗体産生に及ぼす影響を解析した。
 さらに、ヒトにおけるNKT細胞の抗体産生への影響を調べるため、抗μ抗体刺激によるB細胞の抗体産生について、ヒトB細胞の単独培養の場合と、ヒトNKT細胞とヒトB細胞の共培養の場合で比較解析を行った。
結果と考察
 肺炎球菌蛋白抗原と糖脂質抗原の併用ワクチンを接種したマウスでの肺炎球菌感染防御効果を調べたところ、併用接種群では菌の排除が促進され、生存率が高いという結果を得た。併用ワクチン接種群では、血中の蛋白抗原特異的抗体価の上昇を認めたことより、肺炎球菌蛋白抗原と糖脂質抗原の併用により、蛋白抗原特異的抗体の産生誘導が増強され、菌の排除が促進されることが示された。以上の結果より、糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化は、抗体産生の増加および感染防御効果の増強に有用であることが示唆された。
 Dectin-2欠損マウスと野生型マウスに、肺炎球菌多糖ワクチンを接種し、血中の抗体価を測定したところ、Dectin-2欠損マウスでは、肺炎球菌多糖ワクチンによる抗体産生の低下を認めた。Dectin-2欠損マウスに糖脂質抗原を接種し、血中の抗体価を測定したところ、低下していた抗体産生の回復を認めた。そのことより、NKT細胞が抗体産生に影響を与える可能性が示唆された。
 ヒトB細胞を単独培養した場合と、ヒトNKT細胞と共培養した場合で、抗体産生を比較したところ、NKT細胞との共培養でB細胞の抗体産生が増加することが分かった。本研究では、抗μ抗体をB細胞の一次刺激剤として用いたが、これはⅡ型胸腺非依存性抗原による刺激様式を模したものであり、マウスを用いた解析から得られた知見が、ヒトにも当てはまる可能性を強く示唆するものと考えられた。
 以上の結果より、糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化は、肺炎球菌ワクチンの効果を増強するのに極めて有用であることが示唆された。
結論
 本研究により、マウスにおいて、肺炎球菌蛋白抗原と糖脂質抗原の併用ワクチンは、蛋白抗原に対する抗体産生を増強させ、感染防御効果を高めることが明らかになった。糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化により、B細胞が刺激され、抗体産生が増強されることが示唆された。また、肺炎球菌多糖抗原ワクチンによる免疫誘導機序を解析し、Dectin-2という分子が多糖抗原認識及び抗体産生の誘導に重要であることが明らかになった。Dectin-2を欠損したマウスでは、肺炎球菌多糖抗原ワクチンによる抗体産生の障害を認めたが、糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化により抗体産生が回復した。そのことよりNKT細胞が抗体産生に影響を与える可能性が示唆された。さらに、ヒトの細胞を用いて解析を行った結果、ヒトにおいてもNKT細胞は直接B細胞に作用して、胸腺非依存性抗原刺激による抗体産生誘導を増強させる機能があると考えられた。本研究の結果、糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化は、肺炎球菌ワクチンの効果を増強させるのに有用であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-11-18
更新日
-

文献情報

文献番号
201210009B
報告書区分
総合
研究課題名
糖脂質抗原による免疫活性化を応用した呼吸器感染症に対するワクチン開発
課題番号
H22-政策創薬-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
金城 雄樹(国立感染症研究所 生物活性物質部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 肺炎は日本人の死因の第3位であり、高齢化社会を迎えたわが国ではその予防が重要な対策となる。肺炎球菌は成人肺炎の最も頻度の高い起炎菌であり、感染を予防する有効なワクチン開発は国民の保健医療向上に重要である。本研究では、肺炎球菌に対する新しいワクチン開発を目指して研究を行った。自然免疫応答に関与するリンパ球のNKT細胞が肺炎球菌感染防御に重要な役割を担うという独自の研究成果を基に、NKT細胞の活性化を介する新しい手法で肺炎球菌ワクチン開発の基礎的研究を行った。また、現行の成人用肺炎球菌多糖ワクチンの効果を増強する方法を模索する目的で、多糖ワクチン抗原の認識機序の解析を行った。
研究方法
 肺炎球菌感染マウスモデルを用いて、新規併用ワクチンの感染防御効果の解析および肺炎球菌多糖抗原ワクチンの認識機構の解析を行った。併用ワクチンとして、肺炎球菌蛋白抗原とNKT細胞を活性化する糖脂質抗原を用いた。マウスに本併用ワクチンの経鼻接種を行い、血中の蛋白抗原特異的抗体価を測定した。また、肺炎球菌感染後の肺内菌数および生存期間を解析した。肺炎球菌多糖抗原の認識機構の解明に関する研究では、Dectin-2という糖鎖認識分子に着目し、Dectin-2欠損マウスを用いて解析を行った。Dectin-2欠損マウスと野生型マウスに肺炎球菌多糖ワクチンを接種して血中の抗体価を測定すると共に、糖脂質抗原投与による抗体産生への影響を解析した。また両マウスの樹状細胞を肺炎球菌多糖抗原で刺激し、IL-12産生を測定した。
 さらに、ヒトにおけるNKT細胞の抗体産生への影響を調べるため、抗μ抗体刺激によるB細胞の抗体産生について、ヒトB細胞単独培養と、ヒトNKT細胞とヒトB細胞の共培養で比較解析を行った。
結果と考察
 肺炎球菌蛋白抗原と糖脂質抗原の併用ワクチンを接種したマウスでは、肺炎球菌感染後の菌の排除が促進され、高い生存率を示した。併用ワクチン接種群では、血中の蛋白抗原特異的抗体価の上昇を認めたことより、肺炎球菌蛋白抗原と糖脂質抗原の併用で、抗体産生誘導が増強され、菌の排除が促進されることが示された。以上の結果より、糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化は、抗体産生および感染防御効果の増強に有用であることが示唆された。
 肺炎球菌多糖ワクチンの認識と抗体産生に関するDectin-2の役割の解析では、Dectin-2欠損マウスにおいて肺炎球菌多糖ワクチンによる抗体産生の低下を認めた。また、マウス骨髄由来樹状細胞を多糖ワクチンで刺激したところ、Dectin-2欠損マウスではIL-12の産生低下を認めた。その結果と一致して、Dectin-2欠損マウスでは肺炎球菌ワクチン接種後の血中IL-12濃度の低下を認めた。これらの結果より、肺炎球菌多糖ワクチンの認識と抗体産生において、Dectin-2が重要な役割を担うことが示唆された。さらに、Dectin-2欠損マウスに糖脂質抗原を接種してNKT細胞を活性化したところ、低下していた抗体価の回復を認めたことより、NKT細胞の抗体産生への関与が示唆された。
 ヒトB細胞を単独培養した場合と、ヒトNKT細胞と共培養した場合で、抗体産生を比較したところ、NKT細胞との共培養でB細胞の抗体産生が増加することが分かった。本研究では、抗μ抗体をB細胞の一次刺激剤として用いたが、これはⅡ型胸腺非依存性抗原による刺激様式を模したものであり、マウスを用いた解析から得られた知見が、ヒトにも当てはまる可能性を強く示唆するものと考えられた。以上の結果より、糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化は、肺炎球菌ワクチンの効果を増強するのに極めて有用であることが示唆された。
結論
 本研究の結果、肺炎球菌蛋白抗原と糖脂質抗原の併用ワクチンは、マウスにおいて蛋白抗原に対する抗体産生を増強させ、感染防御効果を増強することが明らかになった。糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化により、B細胞が刺激され、抗体産生が増強されることが示唆された。また、肺炎球菌多糖ワクチン抗原の認識機序を解析し、Dectin-2という分子が多糖抗原認識及び抗体産生の誘導に重要であることが明らかになった。Dectin-2を欠損したマウスでは、肺炎球菌多糖抗原ワクチンによる抗体産生の障害を認めたが、糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化により抗体産生が回復した。そのことよりNKT細胞が抗体産生に影響を与える可能性が示唆された。さらに、ヒトにおいてもNKT細胞は直接B細胞に作用して、胸腺非依存性抗原刺激による抗体産生誘導を増強させる機能があると考えられた。以上の結果より、糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化は、肺炎球菌ワクチンの効果を増強させるのに有用であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201210009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、新規の肺炎球菌ワクチン開発および現行の肺炎球菌多糖ワクチンの認識機構の解明を目指した基礎的検討を行った。NKT細胞というリンパ球を活性化する糖脂質を含む新規の肺炎球菌ワクチンの効果をマウスモデルで解析し、有効性を示唆する結果を得た。また、肺炎球菌多糖ワクチンによる抗体産生機序を解析し、肺炎球菌多糖抗原の認識に重要な役割を担う分子を明らかにした。本研究により、糖脂質抗原によるNKT細胞の活性化は、肺炎球菌ワクチンの効果を増強させるのに有用であることが示唆された。
臨床的観点からの成果
肺炎球菌ワクチンによる抗体産生におけるNKT細胞の関与がヒトでも認められかどうか明らかにする目的で解析を行った。現行の成人用肺炎球菌多糖ワクチン接種症例において、肺炎球菌ワクチンによる血清抗体濃度の上昇と特定のタイプのNKT細胞数の増加が正の相関を示した。この結果、ヒトにおいて肺炎球菌ワクチンの効果発現にNKT細胞が関与する可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
現時点では特記事項なし。
その他行政的観点からの成果
現時点では特記事項なし。
その他のインパクト
現時点では特記事項なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kinjo Y, Illarionov PA, Vela JL, et al.
Invariant natural killer T cells recognize glycolipids from pathogenic Gram-positive bacteria
Nature Immunology , 12 , 966-974  (2011)
原著論文2
Girardi E, Yu ED, Li Y, et al.
Unique Interplay between Sugar and Lipid in Determining the Antigenic Potency of Bacterial Antigens for NKT Cells
PLoS Biology , 9 , e1001189-  (2011)
原著論文3
Miyasaka T, Aoyagi T, Uchiyama B, et al.
A possible relationship of natural killer T cells with humoral immune response to 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine in clinical settings
Vaccine , 30 , 3304-3310  (2012)
原著論文4
Miyasaka T, Akahori Y, Toyama M, et al.
Dectin-2-dependent NKT cell activation and serotype-specific antibody production in mice immunized with pneumococcal polysaccharide vaccine.
PLoS One , 8 (10) , e78611-  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201210009Z