肝硬変・肝がん治療への応用を目的としたβ-catenin依存性シグナルによる肝代謝機能制御機構の基礎的研究

文献情報

文献番号
201210008A
報告書区分
総括
研究課題名
肝硬変・肝がん治療への応用を目的としたβ-catenin依存性シグナルによる肝代謝機能制御機構の基礎的研究
課題番号
H22-政策創薬-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
関根 茂樹(独立行政法人国立がん研究センター研究所 分子病理分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウイルス性肝炎の終末像である肝硬変や肝細胞がんの治療については未だ対症療法や外科切除等が治療の重要な部分を占めており、新たな治療標的の同定が望まれる。β-cateninは肝小葉内で領域特異的な遺伝子発現制御に重要な働きを果たしており、この制御を通じて種々の代謝機能の制御に関わっている事が明らかにされつつある。さらに、30-40%の肝細胞がんではβ-cateninの変異の存在が知られている。本研究では肝細胞の代謝機能調節に関わるβ-catenin の役割に注目し、その肝硬変、肝細胞がんにおけるβ-cateninシグナル異常の病態への関わりを明らかにし、このシグナル制御を通じた、肝硬変における肝代謝能の改善や肝細胞がんの診断・個別化治療への応用のための基礎的な知見を得る事を目標とする。
研究方法
 これまでの研究から明らかになってきたβ-cateninの下流遺伝子の肝細胞がんにおける転写誘導機構および機能的意義を明らかにする目的で、ヒト肝細胞がん培養細胞株を用いて、変異型β-cateninの導入による下流遺伝子の誘導などについて検討を行った。さらに、生体内において変異β-cateninおよびその下流遺伝子の肝発がん過程における影響をより詳細に検討する目的で、トランスポゾンを用いたマウス肝細胞への遺伝子導入の試みを行った。
 肝がん臨床検体の解析に関しては国立がん研究センター倫理審査委員会の審査と承認を受けている。実施に当たっては「疫学研究に関する倫理指針」に基づいて行った。 動物実験に関しては既に国立がんセンター動物実験倫理委員会の審査および認可を受けている。実施に当たっては「国立研究がんセンターにおける動物実験に関する指針」ならびに関連規定に従った。
結果と考察
 平成23年度までの研究において、主に肝細胞特異的β-cateninノックアウトマウスの解析からβ-catenin依存性シグナルが肝臓におけるアミノ酸代謝・薬剤代謝や胆汁酸代謝制御に重要な役割を果たしている事が明らかになってきている。これらに関わる多くの下流因子の発現は生理的条件下ではβ-cateninに強く依存しているが、この中で変異β-cateninを有する肝細胞がんで高発現している分子は比較的少数である。このため、肝細胞発がんに重要なβ-catenin下流遺伝子を同定する目的で、ヒト肝細胞がんマイクロアレイデータを用いて、変異β-cateninを有する肝細胞がんにおいて有意に高発現し、かつβ-cateninノックアウトマウスで発現の有意に低下している遺伝子を抽出した。
 これらの遺伝子の機能を検索する目的で、野生型β-cateninを有する肝細胞がん細胞株に変異型β-cateninの導入し、β-catenin下流遺伝子の発現を検討した。この結果、AXIN2をはじめとするcanonicalなβ-catenin下流遺伝子は誘導されたが、代謝関連遺伝子の誘導は全く認められなかった。以上の結果から、in vivoモデルをもちいて、β-catenin下流遺伝子の機能解析を行う必要があると考え、トランスポゾンを用いたマウス肝細胞への安定的な遺伝子導入の系を導入することとした。マウスの尾静脈注入により肝細胞への遺伝子導入を行い、複数のがん関連遺伝子の発現によって発がんを行えることを確認した。
結論
 肝細胞がん臨床例とノックアウトマウスの解析から、肝細胞がんにおいては代謝に関連するβ-catenin下流遺伝子のうち、特定のもののみが高頻度に誘導されていると考えられる。代謝に関連するβ-catenin下流遺伝子の誘導は肝細胞がん培養株では再現が困難であり、in vivoモデルが有用と考えられた。このため、トランスポゾンを利用したマウス肝細胞への遺伝子導入による肝発がんの手法を導入した。今後、この手法を利用し、β-cateninによる代謝制御の発がんにおける役割の解析を進める。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-11-18
更新日
-

文献情報

文献番号
201210008B
報告書区分
総合
研究課題名
肝硬変・肝がん治療への応用を目的としたβ-catenin依存性シグナルによる肝代謝機能制御機構の基礎的研究
課題番号
H22-政策創薬-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
関根 茂樹(独立行政法人国立がん研究センター研究所 分子病理分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ウイルス性肝炎の終末像である肝硬変や肝細胞がんの治療については未だ対症療法や外科切除等が治療の重要な部分を占めており、新たな治療標的の同定が望まれる。β-cateninは肝小葉内で領域特異的な遺伝子発現制御に重要な働きを果たしており、この発現制御が種々の代謝機能の調節に関わっている事が明らかにされつつある。さらに、30-40%の肝細胞がんではβ-cateninの活性化型変異の存在が知られている。本研究では肝細胞の代謝機能調節に関わるβ-catenin の役割に注目し、その肝硬変、肝細胞がんにおけるβ-cateninシグナル異常の病態への関わりを明らかにし、このシグナル制御を通じた、肝硬変における肝代謝能の改善や肝細胞がんの診断・個別化治療のための基礎的な知見を得る事を目標とする。
研究方法
 本研究では、β-catenin ノックアウトマウスの解析によりβ-catenin の生体肝における生理的機能の検索を行うとともに、主にヒト肝細胞がんにおけるβ-catenin シグナル異常の病態への関わりを検索した。ヒト肝硬変および肝がん臨床検体を用いてβ-catenin 下流遺伝子の発現を検索した。また、変異β-cateninおよびその下流遺伝子の肝発がん過程における影響を生体内においてより詳細に検討する目的で、トランスポゾンを用いたマウス肝細胞への遺伝子導入の試みを行った。
結果と考察
 β-cateninノックアウトマウスでは胆汁酸の産生が低下しており、さらに胆汁酸およびビリルビンの血中からの排泄能が低下していることを見いだした。これらの物質の代謝に関わる分子の発現を検索したところ、Cyp7a1, Cyp27a1をはじめとする複数の胆汁産合成に関わる分子、およびSlco1b2等の血中から肝細胞への胆汁酸取り込みに関わるトランスポーターの著明な発現低下が認められた。以上の所見から、β-catenin依存性シグナルは肝臓において胆汁酸の産生と排泄を促進的に制御していることが示唆された。
 この結果に基づいて、胆汁酸代謝に関わる分子の発現をヒト肝細胞がんおよび非腫瘍肝組織で検索した。胆汁酸の産生に関わる分子のうちAMACRの発現がCTNNB1遺伝子変異と強く相関していた。また、SLCO1B3の発現はCTNNB1遺伝子が野生型の腫瘍では著明な発現低下を示すものの、CTNNB1遺伝子変異の存在する肝細胞がんにおいて発現が保たれている事を見いだした。SLCO1B3は近年、画像診断において広く用いられるようになっている肝細胞特異的MRI造影剤であるGd-EOB-DTPAの主要なトランスポーターと考えられている。このため、CTNNB1遺伝子の変異と、この造影剤によるMRI信号増強効果の相関を調べた。この結果、CTNNB1遺伝子変異を有する肝細胞がんは、Gd-EOB-DTPAにより、有意に造影効果が認められることが明らかになった。この所見はβ-catenin依存性シグナルの異常に関する知見が肝空間占拠性病変の画像診断に応用可能であることを示唆するものと考えられる。
 肝細胞発がんに重要なβ-catenin下流遺伝子を同定する目的で、ヒト肝細胞がんマイクロアレイデータを用いて、CTNNB1変異肝細胞がんにおいて有意に高発現し、かつβ-cateninノックアウトマウスで発現の有意に低下している遺伝子を抽出した。この機能解析のため、トランスポゾンを用いたマウス肝細胞への安定的な遺伝子導入の系を導入した。今後、β-cateninを協同して肝発がんに関わるHRAS等の遺伝子との共発現や、個別のβ-catenin下流遺伝子の導入を行い、これらの分子の肝発がんへの寄与について検討を進める。
結論
 β-cateninシグナルは肝臓において胆汁酸の産生と、胆汁酸・ビリルビンの肝細胞への取り込みに促進的に働いている。この制御の一部は肝細胞がんでも認められ、CTNNB1遺伝子変異陽性肝細胞がんはAMACR, SLCO1B3の高発現を示す。CTNNB1遺伝子変異はこれらの分子の誘導を通じて肝細胞がんの代謝特性に影響を与えていると考えられ、SLCO1B3の発現は肝造影剤の取り込みを制御し、肝細胞がんの造影効果に影響している。
 肝細胞がん臨床例とノックアウトマウスの解析から、肝細胞がんにおいては生理的なβ-catenin下流遺伝子のうち、特定のもののみが高頻度に誘導されていると考えられる。この機能解析のためにトランスポゾンを利用したマウス肝細胞への遺伝子導入による肝発がんの手法を導入した。今後、この手法を利用し、β-cateninによる代謝制御の発がんにおける役割の解析を進める。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201210008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
β-catenin依存性シグナルは肝細胞において、複数の下流遺伝子の制御を通じて胆汁酸合成および胆汁酸・ビリルビンの血中からの取り込みを促進的に制御していることを明らかにした。また、この制御機構の一部が肝細胞がんにおいても保たれており、CTNNB1遺伝子変異陽性肝細胞がんの生物学的特性に影響を与えていることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
β-catenin依存性シグナルの胆汁酸代謝における重要性を明らかにした。ヒト肝細胞がんにおいてCTNNB1遺伝子変異陽性肝細胞がんが肝細胞特異的MRI造影剤であるGd-EOB-DTPAの主要なトランスポーターであるSLCO1B3を高発現していることを明らかにした。β-catenin依存性シグナルの異常に関する知見が肝細胞がんをはじめとする肝空間占拠性病変の画像診断に応用可能であることを示唆された。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
該当無し
その他のインパクト
該当無し

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sekine S, Ogawa R, Ojima H et al.
Overexpression of α-methylacyl-CoA racemase is associated with CTNNB1 mutations in hepatocellular carcinomas
Histopathology , 58 (5) , 712-719  (2011)
10.1111/j.1365-2559.2011.03798.x
原著論文2
Sekine S, Ogawa R, Ojima H et al.
Expression of SLCO1B3 is associated with intratumoral cholestasis and CTNNB1 mutations in hepatocellular carcinoma
Cancer Sci , 102 (9) , 1742-1747  (2011)
10.1111/j.1349-7006.2011.01990.x.
原著論文3
Fujiwara H, Sekine S, Onaya H et al.
Ring-like enhancement of focal nodular hyperplasia with hepatobiliary-phase Gd-EOB-DTPA-enhanced magnetic resonance imaging: radiological-pathological correlation.
Jpn J Radiol , 29 (10) , 739-743  (2011)
10.1007/s11604-011-0624-4

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201210008Z