抗体プロテオミクス技術を駆使した悪性中皮腫関連バイオマーカーの探索と創薬への展開

文献情報

文献番号
201210007A
報告書区分
総括
研究課題名
抗体プロテオミクス技術を駆使した悪性中皮腫関連バイオマーカーの探索と創薬への展開
課題番号
H22-政策創薬-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
長野 一也(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
悪性中皮腫は、1970年頃に頻用されたアスベストの曝露を主要因とする疾患で、5年生存率は4%と予後不良である。また本疾患は、曝露から約40年遅れて発症するため、患者数は急増している。本観点から、悪性中皮腫に対する有用な診断・治療法の開発は緊急課題であるが、有用なマーカーはみつかっていない。そこで本研究では、創薬マーカーを迅速に探索可能な抗体プロテオミクス技術により、悪性中皮腫関連マーカー(腫瘍組織特異的マーカーや抗がん剤感受性マーカー)を探索し、分子病態の解明や診断・治療法の確立に資する知見を収集する。
研究方法
●細胞傷害性試験:各悪性中皮腫細胞株を、5 x 103 cells播種し、一晩培養した。翌日、各濃度のシスプラチン(CDDP)を添加し、24時間後にWST-8法にて評価した。

●ANXA4の遺伝子発現制御:ANXA4に対するsiRNAを、Hyperfect regentにて、ANXA4が高発現でCDDP抵抗性のH28細胞に導入し、ANXA4の発現をノックダウンさせた。また、ANXA4-pcDNA3.1を、FuGENE HD transfection reagentにて、ANXA4が低発現でCDDP感受性のH2052細胞に導入し、ANXA4遺伝子を強制発現させた。各細胞のCDDPに対する感受性変化は、上記に従って評価した。
結果と考察
前年度までに、ANXA4は、①悪性中皮腫組織特異性が高く、②各細胞株における発現量とCDDP抵抗性が相関する傾向が観察されたことを報告した。そこで本年度は、ANXA4のCDDP抵抗性への関与を分子レベルで明らかにするため、遺伝子工学的にANXA4の発現量を変化させて、細胞傷害性試験を実施した。その結果、ANXA4のノックダウンによりCDDPの感受性は有意に亢進し、逆に強制発現させることで、その感受性は有意に低下した。
結論
以上より、ANXA4の発現は、悪性中皮腫細胞におけるCDDP抵抗性を制御していることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201210007B
報告書区分
総合
研究課題名
抗体プロテオミクス技術を駆使した悪性中皮腫関連バイオマーカーの探索と創薬への展開
課題番号
H22-政策創薬-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
長野 一也(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
悪性中皮腫は、1970年頃に頻用されたアスベストの曝露を主要因とする疾患で、5年生存率は4%と予後不良である。また本疾患は、曝露から約40年遅れて発症するため、患者数は急増している。本観点から、悪性中皮腫に対する有用な診断・治療法の開発は緊急課題であるが、有用なマーカーはみつかっていない。そこで本研究では、創薬マーカーを迅速に探索可能な抗体プロテオミクス技術により、悪性中皮腫関連マーカー(腫瘍組織特異的マーカーや抗がん剤感受性マーカー)を探索し、分子病態の解明や診断・治療法の確立に資する知見を収集することを目的とする。
研究方法
各種悪性中皮腫細胞株と正常中皮初代細胞は常法にて培養した。各細胞の発現変動解析には、2次元ディファレンシャル電気泳動法を用いた。見いだされた発現変動スポットは、ゲル内消化し、質量分析により同定した。各候補に対するモノクローナル抗体(mAb)は、ファージ抗体ライブラリの中から、メンブランパンニング法にて単離した。実際の臨床検体での発現は、得られた抗体を用い、組織マイクロアレイ(TMA)にて評価した。シスプラチン(CDDP)に対する感受性への関与は、siRNAを用いたノックダウン法と、ANXA4発現プラスミドを用いた強制発現法にてANXA4の発現量を変化させ、各濃度のCDDPを添加した24時間後に、WST8法にて各群の細胞傷害性を比較評価した。
結果と考察
悪性中皮腫に対する治療薬として、CDDPが繁用されているものの、その奏功率は低く、予め感受性を予測し、効果のある症例に対してのみ適用する方法論の開発や、CDDPの感受性性を自在に制御する方法論の開発が望まれている。そこで研究代表者は、上記を目指し、組織特異性が高く、CDDPの感受性に関与するバイオマーカー蛋白質を探索した。悪性中皮腫細胞と正常中皮初代細胞、CDDP高感受性細胞と低感受性細胞で発現する蛋白質の変動を解析した結果、数多くの候補蛋白質を同定した。その中には共通して発現変動していた3種類の蛋白質をみいだしたため、これらの有用性を評価すべく、ファージ抗体ライブラリによりmAbを創出した。まず、がん細胞で最も発現変動率の高かったAnnexinA4(ANXA4)の腫瘍組織特異性をTMAにて評価した結果、ANXA4は、実際の臨床検体でも発現が認められ、正常組織に比較して発現割合が高いことが明らかとなった。そこで、CDDPに対する感受性との関連を評価するため、まず、各悪性中皮腫細胞株におけるANXA4の発現量とCDDP感受性との関連を解析した。その結果、ANXA4の発現量が高い細胞ほど、CDDPに対する抵抗性も高い傾向が観察された。そこで、CDDP抵抗性におけるANXA4の関与を分子レベルで解析するため、遺伝子工学的にANXA4の発現量を変化させて、細胞傷害性試験を実施した。その結果、ANXA4のノックダウンによりCDDPの感受性は有意に亢進し、逆に強制発現させることで、その感受性は有意に低下した。今後、実際の悪性中皮腫患者におけるCDDPに対する治療効果とANXA4の発現量との相関や、抵抗性制御のメカニズムについて解析する必要があるものの、本知見は、悪性中皮腫におけるCDDPのコンパニオン診断薬の標的としてや、ANXA4のノックダウンによるCDDP感受性亢進療法の可能性を示すものであり、厚生労働行政に貢献しうる知見を得た。
結論
抗体プロテオミクス技術などを活用し、本研究課題において、悪性中皮腫組織特異性が高く、本疾患の主要な治療薬であるCDDPの抵抗性を制御するANXA4を世界に先駆けて同定することに成功した。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201210007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
独自の抗体プロテオミクス技術などを活用し、悪性中皮腫組織特異性が高く、本疾患の主要な治療薬であるCDDPの抵抗性を制御するAnnexinA4(ANXA4)を世界に先駆けて同定することに成功し、論文で公表した。
臨床的観点からの成果
ANXA4が細胞株のみならず、実際の悪性中皮腫患者由来のがん組織においても発現し、その割合は、正常中皮組織に比較して高いことを明らかにした。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
第28回日本DDS学会学術集会において、本研究成果を口頭発表し、優秀発表者賞を受賞した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takuya Yamashita, Kazuya Nagano, So-ichiro Kanasaki et al.
Annexin A4 is a possible biomarker for cisplatin susceptibility of malignant mesothelioma cells.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 421 (1) , 140-144  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-01

収支報告書

文献番号
201210007Z