宿主ゲノム多様性に対応する抗原発現ベクターを用いた治療エイズワクチン開発

文献情報

文献番号
201210003A
報告書区分
総括
研究課題名
宿主ゲノム多様性に対応する抗原発現ベクターを用いた治療エイズワクチン開発
課題番号
H22-政策創薬-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
俣野 哲朗(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 彰方(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 朱 亜峰(ディナベック株式会社 ディナベック研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗HIV薬併用療法(ART)によるエイズ発症阻止にはほぼ一生涯にわたる長期間の服薬継続が必要となるため、副作用や薬剤耐性株出現等に加え医療費高騰が大きな問題となる。したがって、HIV増殖抑制に重要な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)をART中に誘導する治療エイズワクチンの開発は、日本を含む先進国でのHIV感染者治療の長期有効性を確立するための重要戦略である。我々はこれまで、優れたCTL誘導能を有するセンダイウイルス(SeV)ベクターを用いた予防エイズワクチンを開発し、その国際共同臨床試験計画を進展中である。本研究は、このSeVベクターを治療エイズワクチンのデリバリー法として応用するもので、有効なCTL誘導に結びつく抗原選択のための科学的根拠を獲得することを目的とした。エイズモデルにおいて感染後のART治療中にGag発現SeVおよびVif発現SeVベクターを治療ワクチンとして2回経鼻接種して、その効果を検討した。平成24年度は前年度研究を継続・発展させ、実験を完了した。
研究方法
治療ワクチンの有効性検証を目的として、MHC-IハプロタイプE共有群およびW/S共有群を用い、ウイルス感染後、経時的に血漿中ウイルス量および抗原特異的CTL反応を解析した。12週目より32週目までARTを行い、治療ワクチン接種群には26週目と32週目に治療ワクチンとして非複製型SeV-GagベクターとSeV-Vifベクターを経鼻接種し、2回目には中和抗体静注を加えた。遺伝子多様性の解析においては、まずMHC-I遺伝子群のcDNAをクローニングし、塩基配列を決定した。また、ULBP2遺伝子群の第2・第3エクソンを増幅し塩基配列を決定した。さらにヒトULBP3とNKG2Dとの結晶解析結果を参考にしてULBP2分子の3Dモデルを構築し、多型部位のマッピングを行った。
結果と考察
感染初期ART開始前まで、E共有群ではGag・Vif以外の主にNef抗原を標的とするCTL反応が優位で、Gag・Vif特異的CTL反応は優位ではなかった。一方、W/S共有群ではGagあるいはVif特異的CTL反応が優位となる傾向にあった。ART開始後、全頭でSIV抗原特異的CTL反応の減弱がみられたが、26週目の1回目の治療ワクチン接種後、E共有群・W/S共有群のいずれにおいても、Gag・Vif特異的CTL反応の誘導が認められた。治療ワクチン接種群では、W/S共有群だけでなくE共有群においても、ART終了後にわたってGag・Vif抗原特異的CTL反応がより優位となっていた。治療ワクチン接種群の血漿ウイルス量は、ART中止後、対照群と比較して有意に低値を示した。この結果は、ART下の本治療ワクチンによって、より強固なウイルス複製制御状態に至ったことを示唆するものである。本研究結果は、優位なGag・Vif抗原特異的CTL反応と相関するMHC-Iを有する個体であっても有しない個体であっても、治療エイズワクチンでGag・Vif抗原を標的とするCTL反応を誘導することの合理性を支持するものとして重要な成果である。一方、我々の実験系動物の主なMHC-I遺伝子型の情報整備が完了した。MHC関連遺伝子群の多様性解析では、特に、活性化NKレセプターNKG2DのリガンドULBP2の遺伝子多型解析を進展させ、多型の一部は分子表面に存在し、推定されたNKG2Dレセプターとの結合面にも分布していることを見出した。これらの多様性解析の進展は、治療ワクチンの有効性に関与する宿主因子の解明に貢献しうることに加え、ワクチン効果の評価の正確性向上に結びつくことが期待される。
結論
エイズモデルにおいて、ART下のSeV-GagおよびSeV-Vifベクターを用いた治療エイズワクチン接種効果を解析し、Gag・Vif特異的CTL反応を優位に誘導できることを示した。さらに、治療ワクチン接種群では対照群と比べ有意に強くウイルス増殖が抑制されていることを示す結果を得た。本研究結果は、本治療エイズワクチンの有効性を示すものであり、治療エイズワクチンでGag・Vif抗原特異的CTL反応を誘導することの合理性を支持するものとして重要な成果である。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201210003B
報告書区分
総合
研究課題名
宿主ゲノム多様性に対応する抗原発現ベクターを用いた治療エイズワクチン開発
課題番号
H22-政策創薬-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
俣野 哲朗(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 彰方(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 朱 亜峰(ディナベック株式会社 ディナベック研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗HIV薬併用療法(ART)によるエイズ発症阻止にはほぼ一生涯にわたる長期間の服薬継続が必要となるため、副作用や薬剤耐性株出現等に加え医療費高騰が大きな問題となる。したがってHIV増殖抑制に重要な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)をART中に誘導する治療エイズワクチンの開発は、日本を含む先進国でのHIV感染者治療の長期有効性を確立するための重要戦略である。我々はこれまで、優れたCTL誘導能を有するセンダイウイルス(SeV)ベクターワクチンシステムを開発し、予防エイズワクチン国際共同臨床試験計画を進展中である。本研究は、このSeVベクターを治療エイズワクチンのデリバリー法として応用するものである。ウイルス増殖抑制のためには有効なCTL反応をより優位に誘導することが重要であることから、有効なCTL誘導に結びつく抗原選択のための科学的根拠獲得を目的として、有効なCTLの標的抗原候補であるGag・Vif抗原特異的CTL反応を優位に誘導する治療エイズワクチンの効果をエイズモデルにおいて解析することとした。MHC-I遺伝子型はHIV感染病態進行に最も大きく影響する宿主因子であることをふまえ、本研究では、我々が確立を進めてきた独自のMHC-Iハプロタイプ共有動物群を用い、Gag抗原・Vif抗原を各々発現するSeVベクター(SeV-Gag、SeV-Vif)を治療エイズワクチンとしてART下で接種し、その効果を解析した。
研究方法
まず、エイズモデル評価系の最適化に向け、MHC-I遺伝子型情報の整備を進めるとともにMHC関連遺伝子の多様性解析を展開した。また、治療ワクチン評価系として、エイズモデルにおけるARTプロトコールを樹立・確認した。治療ワクチン実験にはMHC-IハプロタイプW/S共有群とE共有群を用いることとし、基本的に前者では感染後Gag・Vif特異的CTL反応が優位となり、後者では優位にならないことを確認した。SeV-GagベクターおよびSeV-Vifベクターを作製し、W/S共有群およびE共有群において感染後ART下で治療エイズワクチンとして接種して、その効果を検討した。
結果と考察
我々の実験系動物の主なMHC-I遺伝子型の情報整備が完了した。MHC関連遺伝子群も含めた多様性解析の進展は、治療ワクチンの有効性に関与する宿主因子の解明に貢献しうることに加え、ワクチン効果の評価の正確性向上に結びつくことが期待される。また、本研究で樹立・確認に成功したエイズモデルでのARTプロトコールは今後の評価系として価値がある。治療ワクチン接種実験において、W/S共有群では、元来感染で優位となるGag・Vif特異的CTL反応が増強される結果が得られた。E共有群では、元来感染で優位とならないGag・Vif特異的CTL反応が治療ワクチン接種により誘導された。特にART終了後各ウイルス抗原特異的CTL反応が誘導される状況においてもGag・Vif特異的CTL反応が優位となったことは、有効性に乏しいCTLより、高い有効性が期待されるGag・Vif特異的CTL反応を優位とすることが可能であることを示すものであり、重要な結果である。治療ワクチン接種群の血漿ウイルス量は、ART中止後、対照群と比較して有意に低値を示した。この結果は、本治療ワクチンによって、ART終了が可能となるような機能的治癒には至らないものの、より強固なウイルス複製制御状態に至ったことを示唆するものである。本研究結果は、治療エイズワクチンでGag・Vif抗原を標的とするCTL反応を誘導することの合理性を支持するものとして重要な成果である。
結論
エイズモデルにおいて、GagおよびVifを発現するSeVベクターを用いた治療エイズワクチンのART下での接種効果を解析し、優位なGag・Vif特異的CTL反応と関連するMHC-Iを有する個体であっても有しない個体であっても、Gag・Vif特異的CTL反応を優位に誘導できることを示した。さらに治療ワクチン接種群では対照群と比べ有意に強くウイルス増殖が抑制されていることを示す結果を得た。本研究は、Gag・Vif抗原を標的とするCTL反応を誘導する治療エイズワクチンの有効性を示すものとして重要である。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201210003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
有効性に乏しいCTLより、高い有効性が期待されるGag・Vif特異的CTL反応を、治療ワクチンにより優位とすることが可能であることを示す結果が得られたことは、専門的・学術的観点にて重要な成果である。
臨床的観点からの成果
本研究結果は、本治療エイズワクチンの有効性を示すものであり、治療エイズワクチンでGag・Vif抗原特異的CTL反応を誘導することの合理性を支持するものとして臨床的観点にて重要な成果である。
ガイドライン等の開発
特に無し。
その他行政的観点からの成果
日本を含む先進国でのHIV感染者治療の長期有効性確立に貢献しうる成果である。
その他のインパクト
研究内容等について、Medical Tribune誌(平成24年6月7日)に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
24件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
37件
学会発表(国際学会等)
27件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Naruse TK, Chen Z, Yanagida R, et al.
Diversity of MHC class I genes in Burmese-origin rhesus macaques.
Immunogenetics , 62 (9) , 601-611  (2010)
10.1007/s00251-010-0462-z
原著論文2
Iwamoto N, Tsukamoto T, Kawada M, et al.
Broadening of CD8+ cell responses in vaccine-based simian immunodeficiency virus controllers.
AIDS , 24 (18) , 2777-2787  (2010)
10.1097/QAD.0b013e3283402206
原著論文3
Inagaki N, Takeuchi H, Yokoyama M, et al.
A structural constraint for functional interaction between N-terminal and C-terminal domains in simian immunodeficiency virus capsid proteins.
Retrovirology , 7 , 90-  (2010)
10.1186/1742-4690-7-90
原著論文4
Saito A, Nomaguchi M, Iijima S, et al.
Improved capacity of a monkey-tropic HIV-1 derivative to replicate in cynomolgus monkeys with minimal modifications.
Microbes Infect , 13 (1) , 58-64  (2011)
10.1016/j.micinf.2010.10.001
原著論文5
Wichukchinda N, Nakajima T, Saipradit N, et al.
TIM1 haplotype may control the disease progression to AIDS in a HIV-1-infected female cohort in Thailand.
AIDS , 24 (11) , 1625-1631  (2010)
10.1097/QAD.0b013e32833a8e6d
原著論文6
Itaya S, Nakajima T, Kaur G, et al.
No evidence of an association between the APOBEC3B deletion polymorphism and susceptibility to HIV infection and AIDS in Japanese and Indian populations.
J Infect Dis , 202 (5) , 815-816  (2010)
10.1086/655227
原著論文7
Sugimoto C, Watanabe S, Naruse T, et al.
Protection of macaques with diverse MHC genotypes against a heterologous SIV by vaccination with a deglycosylated live-attenuated SIV.
PLoS ONE , 5 (7) , 11678-  (2010)
10.1371/journal.pone.0011678
原著論文8
Takahara Y, Matsuoka S, Kuwano T, et al.
Dominant induction of vaccine antigen-specific cytotoxic T lymphocyte responses after simian immunodeficiency virus challenge.
Biochem Biophys Res Commun , 408 (4) , 615-619  (2011)
10.1016/j.bbrc.2011.04.071
原著論文9
Nakamura M, Takahara Y, Ishii H, et al.
Major histocompatibility complex class I-restricted cytotoxic T lymphocyte responses during primary simian immunodeficiency virus infection in Burmese rhesus macaques.
Microbiol Immunol , 55 (11) , 768-773  (2011)
10.1111/j.1348-0421.2011.00384.x
原著論文10
Moriya C, Horiba S, Kurihara K, et al.
Intranasal Sendai viral vector vaccination is more immunogenic than intramuscular under pre-existing anti-vector antibodies.
Vaccine , 29 (47) , 8557-8563  (2011)
10.1016/j.vaccine.2011.09.028
原著論文11
Ishii H, Kawada M, Tsukamoto T, et al.
Impact of vaccination on cytotoxic T lymphocyte immunodominance and cooperation against simian immunodeficiency virus replication in rhesus macaques.
J Virol , 86 (2) , 738-745  (2012)
10.1128/JVI.06226-11
原著論文12
Takeuchi H, Ishii H, Kuwano T, et al.
Host cell species-specific effect of cyclosporine A on simian immunodeficiency virus replication.
Retrovirology , 9 , 3-  (2012)
10.1186/1742-4690-9-3
原著論文13
Ohtani H, Nakajima T, Akari H, et al.
Molecular evolution of immunoglobulin superfamily genes in primates.
Immunogenetics , 63 (7) , 417-428  (2011)
10.1007/s00251-011-0519-7
原著論文14
Naruse TK, Okuda Y, Mori K, et al.
ULBP4/RAET1E is highly polymorphic in the Old World monkey.
Immunogenetics , 63 (8) , 501-509  (2011)
10.1007/s00251-011-0531-y
原著論文15
Saito Y, Naruse TK, Akari H, et al.
Diversity of MHC class I haplotypes in cynomolgus macaques.
Immunogenetics , 64 (2) , 131-141  (2012)
10.1007/s00251-011-0568-y
原著論文16
Nomura T, Yamamoto H, Shiino T, et al.
Association of major histocompatibility complex class I haplotypes with disease progression after simian immunodeficiency virus challenge in Burmese rhesus macaques.
J Virol , 86 (12) , 6481-6490  (2012)
10.1128/JVI.07077-11
原著論文17
Kurihara K, Takahara Y, Nomura T, et al.
Immunogenicity of repeated Sendai viral vector vaccination in macaques.
Microbes Infect , 14 (13) , 1169-1176  (2012)
10.1016/j.micinf.2012.07.016
原著論文18
Takahashi N, Nomura T, Takahara Y, et al.
A novel protective MHC-I haplotype not associated with dominant Gag-specific CD8+ T-cell responses in SIVmac239 infection of Burmese rhesus macaques.
PLoS ONE , 8 (1) , 54300-  (2013)
10.1371/journal.pone.0054300
原著論文19
Ohtani H, Naruse TK, Iwasaki Y, et al.
Lineage-specific evolution of T-cell immunoglobulin and mucin domain 1 gene in the primates.
Immunogenetics , 64 (9) , 669-678  (2012)
10.1007/s00251-012-0628-y
原著論文20
Sharma G, Ohtani H, Kaur G, et al.
Status of TIM-1 exon 4 haplotypes and CD4+T cell counts in HIV-1 seroprevalent North Indians.
Hum Immunol , 74 (2) , 163-165  (2013)
10.1016/j.humimm.2012.11.013

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201210003Z