アパタイトセメントの骨置換速度に影響を及ぼす因子の検討

文献情報

文献番号
199800049A
報告書区分
総括
研究課題名
アパタイトセメントの骨置換速度に影響を及ぼす因子の検討
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
石川 邦夫(岡山大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢化社会の到来に伴い、骨再建術式が急増している。骨欠損部の再建にお
いては自家骨移植が第一選択であるが、移植骨の採取に伴う新たな侵襲、採取できる骨の
量や形態の制限、移植骨の吸収など、幾つかの問題が指摘されている。最近、欧米で骨欠
損部に充填すると硬化し、硬化体が生体骨の無機主成分であるアパタイトになるアパタイ
トセメントの臨床応用が認可された。アパタイトセメントは硬化特性のみでも極めて有用
な生体活性セメントとなりうるが、さらに骨との置換例が報告され、その有用性は極めて
大きいと考えられる。骨には力学的機能以外にも骨髄機能など生物学的機能があり、骨欠
損部の理想的な再建は骨による再建である。したがってアパタイトセメントが骨と迅速に
置換すればその福音は計り知れない。しかしアパタイトセメントが骨と置換するという報
告は限定的であり、しかも長期的なものである。そこで本研究においてはアパタイトセメ
ントの高機能化研究の一環であり、硬化体が迅速に骨と置換される性質を持つ新規アパタ
イトセメントを開発する研究の第一段階としてアパタイトセメントの骨置換速度に影響を
及ぼす因子を検討するために、1)破骨細胞を用いた吸収活性の検討、2)アパタイトセ
メント硬化体を炭酸アパタイト(骨アパタイトのアパタイト組成)への誘導した場合にお
けるセメント特性へ影響、およびセメント硬化体の骨置換性に及ぼす影響の検討、3)セ
メント硬化体の多孔体化が骨伝導性に及ぼす影響、を検討することを研究目的とした。
研究方法
アパタイトセメントの破骨細胞による吸収活性については当該試料および対照
としての焼結体アパタイトおよび骨ディスク上に破骨細胞を播種、培養し、破骨細胞によ
る吸収窩面積を測定した。アパタイトセメント硬化体を骨アパタイトの組成である炭酸ア
パタイトに誘導するためにはセメントの粉末部および練和液に炭酸水素ナトリウムを添加
した。炭酸水素ナトリウムの添加がアパタイトセメント硬化体の組成に及ぼす影響を炭酸
基定量、粉末X線回折、フーリエ変換赤光スペクトル測定で検討するともに、硬化時間(ビ
カー針)、機械的強さ(間接引張強さ)などからセメント特性への影響を検討した。さらに、
破骨細胞が形成する弱酸水溶液における溶解速度をpHスタットを用いて検討した。また
実験動物に骨欠損を形成し、試作アパタイトセメントで再建、経時的に試料を周囲組織と
一塊に摘出し、脱灰、非脱灰組織切片を作成、組織学的に試作アパタイトセメントの組織
親和性、骨伝導性、骨との置換速度を検討した。アパタイトセメントの多孔体化も同様に
検討した。
結果と考察
各種アパタイトセメント硬化体、焼結体アパタイト、骨片上に破骨細胞を播種、
MEM中で48時間培養すると、破骨細胞であると思われるTRAP染色陽性の細胞が各
種試料表面に付着することが明らかになった。アパタイトセメントおよび骨片の場合には
破骨細胞による吸収と考えられる吸収窩が多数認められたが、焼結体アパタイトの場合に
は吸収窩が認められなかった。破骨細胞による吸収窩の面積をNIHイメージを用いて測
定すると、骨片の場合は直径10mmの円形試験片上あたり5mm2の吸収が認められた。
一方、アパタイトセメントの吸収窩面積は0.05mm2~0.1mm2であり、アパタイト
セメント硬化体は焼結体アパタイトと比較すると著しく大きな吸収活性を示すが、骨片と
比較すると小さな吸収活性しか示さないことがわかった。したがって、アパタイトセメン
トは骨と置換する可能性があると考えられるが、置換には相当の期間が必要であることが
わかった。
アパタイトセメント硬化体を破骨細胞により吸収されやすい炭酸アパタイト(骨のアパ
タイト)に誘導する目的でアパタイトセメントに炭酸水素ナトリウムを添加するとBタイ
プの炭酸アパタイトが形成された。導入された炭酸基量に関しては10%の炭酸基を添加
した場合において約7%の炭酸基がアパタイトセメント硬化体に導入された。未反応炭酸
水素ナトリウムおよび炭酸カルシウム等が検出されないことから、一部の炭酸基は二酸化
炭素として消失したと考えられた。炭酸水素ナトリウムの添加がアパタイトセメントの硬
化特性に及ぼす影響に関しては、硬化時間の遅延、機械的強さの著しい低減が認められた。
硬化時間の遅延に関しては迅速硬化型アパタイトセメントをベースセメントとして用いる
ことにより解決できると考えられるが、機械的強さの低減は炭酸アパタイト形成に本質的
な問題であると考えられた。炭酸アパタイトの形成が破骨細胞による吸収活性を増大させ
るかをインビトロで検討する目的でpHスタットを用いて弱酸水溶液に対する溶解速度を
検討したことろ炭酸基の導入量に応じて弱酸水溶液に対する溶解活性が増大することがわ
かった。
炭酸アパタイトを形成する試作アパタイトセメントを実験動物に形成した骨欠損に埋入
して組織学的検討を行った。試作セメントは対照として用いた従来型アパタイトセメント
と同様に優れた組織親和性を示し、著名な炎症性所見は認められなかった。2、4、8週
後の試料においてはいずれのアパタイトセメントも同様の所見を示し、両者に顕著な差異
は認められなかった。対照の従来型アパタイトセメントは16週後の試料においても8週
目と同様にアパタイトセメント硬化体の表面に新生骨が認められアパタイトセメントが良
好な骨伝導性を示すことがわかるものの、セメントの内部には骨侵入が認められず、また
セメント表面から骨に置換している所見も認められなかった。一方、試作炭酸アパタイト
セメントの場合には新生骨がアパタイトセメント硬化体内部に侵入している所見が認めら
れた。したがって、炭酸アパタイトセメントは従来型アパタイトセメントと比較して骨置
換が促進されると考えられる。ただ、この原因が炭酸アパタイト形成によるものか、セメ
ント硬化体の強度低下に基づく気孔形成によるものかは現時点では断言できない。
セメント硬化体の多孔性が骨置換速度に及ぼす影響を検討する目的で、連続気孔を有す
るアパタイトセメント硬化体と連続気孔を形成していないアパタイトセメント硬化体を実
験動物に形成した骨欠損に埋入したところ、連続気孔を形成していないアパタイトセメン
トはセメント表面に骨伝導を認める所見が得られるのみであったが、多孔性アパタイトセ
メント硬化体インプラントした場合には8週目においてアパタイトセメントに形成された
連続気孔に沿って新生骨がセメント内部に侵入していることがわかった。連続気孔の孔径
が0.4mmであったためか、連続気孔の内部には骨組織だけでなく、結合性組織の侵入
も認められた。したがって、アパタイトセメントの多孔体化はアパタイトセメントの骨置
換速度増大に有効であると考えられた。
結論
アパタイトセメントは焼結体アパタイトと比較して破骨細胞による吸収活性が高く、
骨と置換される可能性はあるが、骨と比較した吸収活性は著しく低く、現在のアパタイト
セメントが短期間で骨と置換するとは考えにくい。アパタイトセメントの硬化体を炭酸ア
パタイトに誘導することは骨置換速度を増大する効果があると考えられるが、硬化体の機
械的強さを著しく低減させる。一方、アパタイトセメントに連続気孔を形成させることは
セメント表面と細胞との接触面積を増大させるという観点から極めて有用である。骨と迅
速に置換するアパタイトセメントの開発は臨床医学、臨床歯学における貢献が極めて大き
く、本研究結果を礎にさらに当該研究を発展させる必要がある。

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