肺癌における抗癌剤抵抗性を誘発する因子の阻害剤探索のためのバイオ計測系の開発

文献情報

文献番号
201210001A
報告書区分
総括
研究課題名
肺癌における抗癌剤抵抗性を誘発する因子の阻害剤探索のためのバイオ計測系の開発
課題番号
H22-政策創薬-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
太田 力(独立行政法人国立がん研究センター研究所 多層オミックス・バイオインフォーマティクス分野)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 美徳(独立行政法人国立がん研究センター研究所・免疫学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺癌の約8割を占める非小細胞肺癌に対する既存の抗癌剤の効果は未だ不十分であり、その原因に関してはよくわかっていなかった。我々は転写因子Nrf2の異常活性化によって薬剤解毒酵素や薬剤排出ポンプ蛋白質の遺伝子が過剰発現され、抗癌剤抵抗性を示すことを見出した。従って、肺癌の抗癌剤抵抗性に関与する蛋白質の過剰発現を直接誘導している転写因子を分子標的とした阻害物質が開発出来れば、この阻害剤を補助薬として使用することで効果的な化学療法の実現と肺癌の予後延長および死亡率減少が期待される。そこで、本研究では肺癌の抗癌剤抵抗性に直接関与する転写因子Nrf2を分子標的とした阻害物質探索を製薬会社との共同開発を可能にするバイオ計測系の構築を目的とした。
研究方法
昨年度、転写因子Nrf2の活性抑制効果を示す2種類の低分子化合物を得た。今年度は、上記低分子化合物のがん細胞株への効果を検証した。また、転写因子Nrf2異常活性化肺癌細胞株をマウスの皮下に導入し、移植可能か検証した。さらに、転写因子Nrf2の機能領域の構造を解析する目的でリコンビナントNrf2蛋白質の精製および結晶化を試みた。
結果と考察
転写因子Nrf2の転写活性化能を抑制する効果は100uMの濃度の化合物を24時間作用させて検証することが出来た。そこで、100 uM、10 uM、1 uMの濃度で、細胞増殖能に与える影響を検証したところ、1 uMの濃度でも細胞生存率が数%となり、かなり細胞毒性の高いことがわかった。そこで、化合物の濃度をnMオーダーで細胞に作用させたところ、Nrf2が正常な肺癌細胞株と同程度の細胞増殖抑制効果が出てしまうことがわかった。そこで、nMオーダーでのNrf2転写抑制能を測定したところ、転写抑制能は全く検出することが出来なかった。以上の解析結果より、見出した低分子化合物はNrf2転写抑制能を持つが、細胞毒性を示す活性が高いため、Nrf2転写抑制能を示す濃度での細胞増殖抑制効果が検出できないことがわかった。また、転写因子Nrf2異常活性化肺癌細胞株をマウスの皮下に導入し、3種類の細胞株が移植可能であることがわかった。さらに、大腸菌を用いて作成したリコンビナントNrf2蛋白質およびMafG 蛋白質(Nrf2とヘテロダイマーを形成する因子)を大量に得た。これら蛋白質を用いて、結晶化を進めている。
結論
転写因子Nrf2の阻害効果を示す低分子化合物は毒性が高いため、癌細胞株への効果を検証することは出来なかった。今後、見出している低分子化合物の類縁体を収集・解析し、Nrf2の阻害効果を保持するが、細胞毒性は低い化合物を探索する。また、将来、阻害効果をマウスで検証可能なNrf2異常活性化肺癌細胞株を見出したので、今後、利用していきたい。さらに、Nrf2-MafG 蛋白質の結晶化を成功させ、構造解析を進めて行きたい。

公開日・更新日

公開日
2013-12-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-11-18
更新日
-

文献情報

文献番号
201210001B
報告書区分
総合
研究課題名
肺癌における抗癌剤抵抗性を誘発する因子の阻害剤探索のためのバイオ計測系の開発
課題番号
H22-政策創薬-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
太田 力(独立行政法人国立がん研究センター研究所 多層オミックス・バイオインフォーマティクス分野)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 美徳(独立行政法人国立がん研究センター研究所・免疫学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺癌の約8割を占める非小細胞癌は手術による治療が中心であるが、進行癌、術後再発あるいは転移に対する集学的治療の中でも化学療法に対する期待は高い。しかし、非小細胞肺癌に対する既存の抗癌剤の効果は未だ不十分であり、その原因に関してはよくわかっていなかった。我々は転写因子Nrf2の異常活性化によって薬剤解毒酵素や薬剤排出ポンプ蛋白質の遺伝子が過剰発現され、抗癌剤抵抗性を示すことを見出した。従って、肺癌の抗癌剤抵抗性に関与する蛋白質の過剰発現を直接誘導している転写因子を分子標的とした阻害物質が開発出来れば、この阻害剤を補助薬として使用することで効果的な化学療法の実現と肺癌の予後延長および死亡率減少が期待される。そこで、本研究では肺癌の抗癌剤抵抗性に直接関与する転写因子Nrf2を分子標的とした阻害物質探索を製薬会社との共同開発を可能にするバイオ計測系の構築を目的とした。
研究方法
1.転写因子Nrf2の異常活性化癌細胞株を用いたバイオ計測系の開発:転写因子Nrf2の異常活性化癌細胞株に、転写因子Nrf2の転写活性化能を計測できる遺伝子を導入し、短期間で転写因子Nrf2を分子標的とした阻害物質探索を行うことが可能な細胞株の作成を試みた。まず、転写因子Nrf2の結合配列をプロモーター領域に挿入した細胞外分泌型ルシフェラーゼ遺伝子を作成し、この遺伝子を転写因子Nrf2異常活性化肺癌細胞株に導入した。また、CMVのプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を繋いだ恒常的発現ルシフェラーゼ遺伝子を構築し、この遺伝子を転写因子Nrf2異常活性化肺癌細胞株に導入した。
2. 転写因子Nrf2の機能領域の構造解析: 転写因子Nrf2の機能領域の構造を解析する目的で、大腸菌を用いてリコンビナントNrf2蛋白質の発現および精製を行った。
結果と考察
1.転写因子Nrf2の異常活性化癌細胞株を用いたバイオ計測系の開発:転写因子Nrf2の転写活性化能を計測できる複数の細胞株を樹立することに成功した。次に、これら細胞にNrf2特異的なsiRNAを作用させ、その阻害効果がどの位の時間で計測できるか調べたところ、siRNAを作用させてから48時間後にはルシフェラーゼ活性が30%に減少することを見出した。また、細胞数を発光量で計測できる転写因子Nrf2異常活性化肺癌細胞株も樹立することに成功した。
2. 転写因子Nrf2の機能領域の構造解析:Nrf2とMafGを同時に大腸菌内で発現させることによって、Nrf2-MafGヘテロダイマーを形成する蛋白質複合体の大量精製に成功した。現在、これらの精製票品を用いて蛋白質複合体の結晶化を試みている。今後、Nrf2-MafG 蛋白質の結晶化を成功させ、構造解析を進めて行きたい。
結論
作成した転写因子Nrf2の結合配列をプロモーター領域に挿入した細胞外分泌型ルシフェラーゼ遺伝子を発現する転写因子Nrf2異常活性化肺癌細胞株では、ルシフェラーゼ蛋白質が細胞培養液中に分泌されるため、細胞を破壊すること無く転写因子Nrf2の転写活性化能を短期間で測定できることがわかった。これらの細胞株を用いることで、転写因子Nrf2の阻害物質のスクリーニングに応用可能と思われた。そこで、1万種類の低分子化合物ライブラリーから、作成した転写因子Nrf2の結合配列をプロモーター領域に挿入した細胞外分泌型ルシフェラーゼ遺伝子を発現する転写因子Nrf2異常活性化肺癌細胞株を用いて、Nrf2の活性阻害物質を探索したとところ、2種類の化合物を得ることが出来た。従って、これら細胞株が転写因子Nrf2の阻害物質のスクリーニングに応用可能であることが判明した。今後、これら細胞株を用いた転写因子Nrf2の阻害物質のスクリーニングを製薬会社を含め、共同研究を進めて行きたいと思っている。

公開日・更新日

公開日
2013-12-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201210001C

収支報告書

文献番号
201210001Z