文献情報
文献番号
201209011A
報告書区分
総括
研究課題名
MLL-AF4白血病の分子標的薬創製を目指したAF4特異的な分解経路の解明
課題番号
H23-政策探索-若手-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
横山 明彦(京都大学 医学(系)研究科(研究院))
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬探索研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
多くの乳児白血病が現行の治療法でよく治癒する中で、MLL-AF4融合遺伝子を発現する急性リンパ性白血病は生存率が悪く、新規の治療法が求められている。我々は白血病を起こすMLL-AF4タンパク質が多くの細胞で未知の分解経路を介して特異的に分解される事を見いだした。さらに、実際にMLL-AF4はこの分解経路が活性化されている骨髄系の細胞では白血病を引き起こさない事をマウス白血病モデルでも検証した。この事はリンパ性のMLL-AF4白血病細胞中でこの分解経路を活性化する事ができれば、MLL-AF4白血病を根絶できる事を示唆している。本研究は、将来的にMLL-AF4を特異的に分解するような分子標的薬の創製を見据え、AF4特異的な分解経路の全容を明らかにする事を目指す。平成24年度において、我々はAF4の不安定化ドメインに特異的に結合するタンパク質の同定を目指した。
研究方法
我々は平成23年度までに、様々なMLL-AF4の変異体を作成し、そのタンパク質の発現や骨髄前駆細胞を不死化する活性を調べる事で、まずAF4特異的な分解に必要な130残基程の最小ドメイン構造(A4DD)を決定した。この不安定化ドメインにFLAG tagをつけた蛋白質を一過性に発現させ、抗FLAG抗体を用いたaffinity精製にて結合するタンパク質を精製する。その後、精製物を質量分析装置にて解析し、結合タンパク質を同定する。
結果と考察
我々はAF4のC末端部分(AF4-4)とそのA4DD部分を安定なAF5q31の配列で置き換えた安定化変異体(AF4-4Bc)を一過性に発現させ、抗FLAG抗体を用いたaffinity精製を行った。得られた精製物の質量分析を行ったところ、様々な蛋白質が同定された。しかし、同定したAF4特異的結合因子の中で、蛋白質の分解に関わると予想されるものはなかった。一方、AF4-4Bc特異的に結合する蛋白質の一つが脱ユビキチン化活性を持つ事から、AF4-4が分解され易く、AF4-4Bcが分解されにくいのは脱ユビキチン化酵素がAF5q31特異的に結合し、ユビキチンープロテオソーム経路を介した分解を抑制している可能性が考えられた。これらの結果から、A4DDを認識して特異的に分解する蛋白質は存在せず、モチーフの構造そのものが、正常な折りたたみがされにくいものであり、多くの細胞では成熟した蛋白質として産生されずに、分解されているという事が考えられる。その場合、リンパ系の細胞で特異的に発現する分子シャペロンのようなものが、リンパ系特異的に機能的なAF4の産生を可能にしているのかもしれない。
結論
AF4特異的な分解経路を同定する目的で、AF4の不安定化モチーフに特異的に結合する蛋白質を探索した結果、幾つかの蛋白質が同定されたが、それらの多くはDNA repairやDNA metabolismに関するものが多く、蛋白質分解に関与する事がわかっているものは含まれていなかった。一方、不安定化されないAF5q31のA4DD相当部分に結合する蛋白質が同定された。そのうちの一つは脱ユビキチン化酵素であり、この分子は蛋白質分解の目印であるユビキチンを切断する活性を持つ事から、蛋白質分解を抑制する働きがあると考えられる。これらの結果から、AF4の不安定化はA4DD構造の折りたたまれ難さに起因するものであり、AF4以外のAF4 family蛋白質は同様の構造を持つ一方で、特定の蛋白質と相互作用する事で分解から逃れている可能性が示唆された。AF4がリンパ系の細胞で機能するためには、リンパ系においてAF4を安定化する因子が存在するのかもしれない。今後はリンパ系の細胞で特異的にA4DDと作用して安定化する因子の探索を進めるべきである事が明らかになった。
公開日・更新日
公開日
2013-09-01
更新日
-