rasがん遺伝子産物の新規立体構造情報に基づくがん分子標的治療薬の開発

文献情報

文献番号
201209006A
報告書区分
総括
研究課題名
rasがん遺伝子産物の新規立体構造情報に基づくがん分子標的治療薬の開発
課題番号
H23-政策探索-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
片岡 徹(神戸大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 島 扶美(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 閨 正博(神戸天然物化学株式会社)
  • 熊坂 崇(公益財団法人高輝度光科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬探索研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、背景となる研究で獲得・保有するリード化合物から医薬品開発候補獲得のための構造最適化を重点的に行う(先行開発)。また、最近決定した新規ポケット構造情報を用いた新たなインシリコスクリーニングと一連の検証試験も行い、本格的前臨床試験に入る候補品を創出する(後行開発)。
研究方法
先行開発:1.保有するリード化合物に関する物質特許(特願2011-105613)の強化を図るとともに、国際出願を完了する。2.リード化合物の導出先となる国内大手製薬企業との特許実施権許諾契約を締結する。3.同社との共同研究契約下で、フラグメントリンク法を活用したリード化合物の効率的な構造最適化研究を行う。4.種々のがん腫に対して薬効評価を行える担がんモデル動物システムを構築する。後行開発:1.出願済み特許(WO2011/007773号)に記載の新規ポケット構造情報を利用した新たなシミュレーション(シミュレーション1)で選抜した化合物の作用メカニズムをNMRにて解析する。2.出願済み特許(WO2011/007773号ならびにPCT/JP2012/052078号)に記載の1.とは異なる新規ポケット構造情報を利用した新たなシミュレーション(シミュレーション2)で選抜した化合物から、生化学・細胞学的にRas機能阻害活性を有するヒット化合物を同定する。さらに、得られたヒットの効率的な構造展開のためのシステム構築を行う。3.保有するヒット化合物Kobe0065ならびにその誘導体に関する研究成果を発表するとともに、フラグメントリンク法による初期構造展開を実施する。4特殊試料マウント法を利用したX線結晶解析により、Rasの新規ポケット構造を決定する。
結果と考察
先行開発:特許出願を完了した保有リード化合物(特願2011-105613)について、本年度、構造安定性の観点から新たに見出された化合物を実施例化合物として追加することで特許強化を行い、国際出願(PTC/JP2012/061908)を完了した。また、国内大手製薬企業1社と本特許の実施権許諾契約を締結するとともに、同社との共同研究契約下で、リード化合物の本格的な構造最適化研究が開始された。この共同研究において、フラグメントリンク法を活用した構造展開を通じて、出発リード化合物の活性を細胞試験において顕著に上回る複数の新規誘導体の創出に成功した。一方で、溶解度の改善のための構造デザインならびにインハウスでの薬物動態の評価システムが、効率的な構造最適化研究に必須であることも確認された。また、ヒト大腸がん細胞株を用いた担がんモデル動物システムに加え、膵臓がん、膀胱がん細胞株を用いたモデル動物による新たな薬効評価システムが構築され、複数のがん腫にたいする薬効評価が可能になった。後行開発:バックアップリードを創出するために行ったインシリコスクリーニングにより選抜した候補化合物のNMR解析を通じて、Rasの分子表面には低分子化合物が特異的に結合しうるポケットが既存のポケット(保有のリード化合物の結合部位)以外に計4か所存在することが明らかになった(シミュレーション1)。この薬剤結合領域に関する新たな構造情報は、リード化合物の構造最適化研究を進める上で極めて有用な情報と考えられた。また、保有リード化合物の活性を細胞レベルで上回る複数の新規ヒット化合物の同定にも成功しており(シミュレーション2)、今後は、シミュレーション技術を活用した初期構造展開を通じて効率的な新規リード創出を目指す。さらに、KMR084以外の保有ヒット化合物(Kobe0065ならびにその誘導体)についても、フラグメントリンク法の著効が確認され、構造最適化研究におけるこの手法の有効性が実験的に証明された。特殊試料マウント法を利用したH-RasのX線結晶解析では、Rasの新たなポケット構造を発見するとともに、Rasの内因性GTP加水分解メカニズムに関する新たな知見が得られた。
結論
異なる母核構造を有する2種類の化合物の構造展開・最適化において、フラグメントリンク法が極めて有効であることが実験的に証明された。現状ではまだ成功例が少なく、担がんモデル動物での薬効評価も未実施であることから、今後は誘導体数を増やして、さらに高い活性を示す誘導体を多数同定するとともに、担がんモデル動物を用いたより高次の評価系での薬効評価を通じて、この手法の有効性を最終的な形で証明する必要がある。誘導体によっては、生化学試験において活性改善が認められるにも関わらず,吸収・代謝・安定性等の問題で細胞活性の改善が認められなかったことが予測されるものも複数確認されたことから、化合物の細胞内への吸収をはじめとする薬物動態を評価できるシステムを早急に構築し、吸収・代謝安定性も考慮した構造展開を検討する必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201209006Z