癌に対する新たなコンドロイチン硫酸ポリマー修飾腫瘍溶解性麻疹ウイルス療法開発のための前臨床研究

文献情報

文献番号
201209005A
報告書区分
総括
研究課題名
癌に対する新たなコンドロイチン硫酸ポリマー修飾腫瘍溶解性麻疹ウイルス療法開発のための前臨床研究
課題番号
H23-政策探索-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
谷 憲三朗(九州大学 生体防御医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 濱田 雄行(愛媛大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬探索研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
再発・進行がん患者に対する新たな治療法の開発は急務であり、新規腫瘍溶解ウイルス療法はその候補の1つである。 しかし現行のウイルス療法では接種後に抗体産生等によるウイルス排除免疫が誘導され、長期的な抗腫瘍効果は期待しにくく、全身投与も困難であることから、これら問題点の克服が急務である。我々はこれまでに麻疹ウイルスを用いた研究を進めてきた。 現在Edmonston株(MV-Edm)については米国で臨床試験が実施されている。しかしMV-Edmはインターフェロンαによりその増殖が抑えられ、in vivoでの抗腫瘍効果は得にくい。一方、我々が開発したMV-NPL株(以後、NPLと略)は、その点を克復しており担腎癌免疫不全マウスに対する著明な抗腫瘍効果を認め(Mol Ther,2010)、新規腫瘍溶解ウイルス療法剤としての可能性が期待できる。一方、コンドロイチン硫酸ポリマー法は研究分担者の濱田らが開発した、アデノウイルスに対する中和抗体による感染抑制を解除する新規人工エンベロープ加工技術(ウイルスにPEI (ポリエチレンイミン:カチオンポリマー)及びCS(コンドロイチン硫酸:アニオンポリマー)を交互に付加し多重ポリマー層化する)であり、抗アデノウイルスCTL誘導により担卵巣癌マウスにおいて顕著な抗腫瘍効果を示した(特許出願中、Biomaterials,2010)。本研究ではこれら2新規技術を組み合わせ、長期的抗腫瘍効果がさらに期待でき、全身投与も可能なコンドロイチン硫酸ポリマー修飾腫瘍溶解性麻疹ウイルス(CS-MV)療法を開発し、その第I相臨床研究実施を目指す。
研究方法
①NPL大量産生条件として、培養温度、回収時間、回収方法の検討を行った。②NPL精製条件として、各種カラム、緩衝液の検討を行い、回収率、純度を用いて比較検討した。③NPL、PEI、CSによる多元複合体の作成条件の検討を行い、殺細胞効果、粒子サイズの変化、電子顕微鏡像の変化をもって比較検討し、④得られた多元複合体の担癌マウスモデルにおけるin vivo抗腫瘍効果は、従来のウイルス単独投与との比較の他、投与量/投与回数による影響、抗麻疹ウイルス中和抗体による影響を検討した。⑤CS-MVの製剤化を効率的に進めることを目的に、陽性コントロールとして腫瘍溶解性アデノウイルスに対するPEIおよびCSによるポリマ-加工法を抗アデノウイルス抗体存在下において検討した。
結果と考察
①無血清培養液使用、培養温度32℃、上清中NPL回収の各条件を決定し、大量かつ安定的にNPLを得ることが概ね可能となった。②当初、既報内容を参考に、限外濾過によるNPL精製法を採用し、準備を進めたが、高純度NPLを得ることが困難であった。そこで液体クロマトグラフィーによるNPL精製法を検討した。検討したカラムのうち、陰イオン交換カラムを用いたNPL精製法により、30%前後のNPL回収率と高純度産物(99.8%以上の夾雑タンパクを除去可能)を得ることができた。③NPL、PEI、CSによる多元複合体の作成を作成し、ポリマー加工前後の表面電荷の変化、サイズ分布の変化、透過型電子顕微鏡によるNPL粒子周囲の不染域の発生を確認した。In vitroにおいて作成した多元複合体のうち、3 layer(NPL/PEI/CS:CS−MV)がヒト肺癌細胞株(A549細胞)に対して、抗麻疹ウイルス中和抗体存在の有無に関わらず、最も高い殺細胞効果を持つことを確認した。④マウス実験においても抗麻疹ウイルス中和抗体の有無によらず、3 layer投与が、対照群となるウイルス単独投与に対して、より高い抗腫瘍効果をもつことが確認できた。⑤陽性コントロールとして腫瘍溶解性アデノウイルスに対するポリエチレンイミンおよびコンドロイチン硫酸によるポリマ-加工法を抗アデノウイルス抗体存在下において検討し、室温条件下、ミキシング操作を追加することで、ウイルス凝集が抑制でき、感染性も高まることを明らかにした。
結論
NPL大量産生ならびに精製方法について詳細な条件検討実験を行い、液体クロマトグラフィーを用いた精製法により安定かつ高純度のNPL産生系を確立することができた。あわせてKU-MCPC内においてGMPレベルでCS-MV(3 layer : NPL/PEI/CS)を大量生産できる環境を整備することができた。さらに、in vitroならびにin vivoマウス実験系にて、NPL/PEI/CSの高い抗腫瘍効果及び同麻疹ウイルス中和抗体回避能を明らかにすることができた。アデノウイルスを用いた検討で、感染力向上には室温、ミキシング処理でのポリマー加工が適していることが確認できた。今後、マウスおよび適切な大型動物種に対する用量漸増試験および毒性評価をGLPレベルで行う予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201209005Z