アポC3をターゲットとした高中性脂肪血症、動脈硬化症に対する革新的核酸医薬の開発

文献情報

文献番号
201209004A
報告書区分
総括
研究課題名
アポC3をターゲットとした高中性脂肪血症、動脈硬化症に対する革新的核酸医薬の開発
課題番号
H23-政策探索-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
斯波 真理子(独立行政法人国立循環器病研究センター 病態代謝部)
研究分担者(所属機関)
  • 小比賀 聡(大阪大学 薬学部)
  • 柴田 雅朗(大阪保健医療大学 保健医療学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬探索研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の死因の4分の1は心および脳血管疾患で占められており、これらの疾患の予防法や治療法を開発することは超高齢化社会における喫緊の課題である。強力なLDL-C低下作用を有するスタチンが臨床の場で使用される現在、心血管疾患の残りのリスクである食後高TG血症などのリスクに対して、分子を標的とした特異的な治療法の開発が待望されている。アポC3は、RLPの代謝に関わり血清TG値上昇作用を有すること、さらに最近では血管壁において慢性炎症を引き起こし、動脈硬化の発症や進展に直接関わっていることが明らかにされてきた。アポC3欠損患者において低TG血症、冠動脈硬化の頻度が低いことが明らかにされ、アポC3が標的遺伝子として安全で適切であることは既に示されている。本研究で用いる架橋型人工核酸(BNA)は、分担研究者の小比賀らのオリジナルな創薬基盤技術である。核酸の糖部分に架橋を導入することにより、RNAとの結合が天然のものの十万倍以上に向上することから治療への応用が期待されている。アポC3の発現抑制により、動脈硬化症の予防や治療が可能であると考えられるが、現在のところそのような薬剤はない。そこで本研究では、高TG血症および動脈硬化発症のキーとなるアポC3分子を標的として、動脈硬化症の予防および治療を目的とした新しいアンチセンス医薬(AS)を開発することを狙いとする。
研究方法
本年度は、新たな架橋型人工核酸AmNAを合成し、高脂肪食負荷マウスに腹腔内投与して、肝臓でのアポC3 mRNA発現量、蛋白量の定量、血中リポ蛋白分析にてスクリーニングを行い、血清AST、ALT、クレアチニン、BUNを測定して、毒性を生化学的および病理学的に評価するとともに、肝臓へのASの蓄積量を定量した。さらに、新たに120種類のオリゴヌクレオチドを作製し、in vitroスクリーニング、in vivo機能評価を行った。動脈硬化モデル動物としてApoE-KOマウスを用い、高脂肪食負荷しながら、ASを週1回×5回、続いて2週1回、計6回の頻度で皮下投与を行ないアディポネクチン濃度、血清TG値の測定を行った。
結果と考察
 初年度はASの配列設計をしてBNA搭載ASを作製し、マウス初代培養肝細胞を用いてin vitro機能評価、マウスに対して腹腔内投与を行い肝臓での遺伝子発現量を定量するin vivo評価を行った。in vivoでの治療効果が高く、毒性の低いASの開発には、配列の選択が極めて重要であることが明らかになった。そのため、第2年度である本年度は、配列決定のための大規模スクリーニングを行った。ApoC3 mRNA遺伝子の配列15塩基毎にAS配列を選択し、BNAを搭載したASを120種類作製し、マウス初代培養肝細胞を用いて1st in vitroスクリーニングを行い、13個の候補配列を選択後、2nd in vitroスクリーニングにて6配列を選択、さらにin vivoスクリーニングとしてマウス尾静脈内に投与し、4日後の肝臓でのPCSK9 mRNA発現量を定量した。毒性検査としては、血清AST、ALT値を測定した。最終的に、高いin vivo遺伝子発現抑制効果を持ち、毒性の低い配列を見つけることができた。また、本年度は、当初の計画に沿ってAmNAの合成を行った。AmNAとしては、アミド窒素原子上の置換基が異なるN-Me、N-Bn、N-iPr体の3種類を合成し、それぞれをマウスの尾静脈より1回投与、3日後に採血、肝臓を採取してASの定量、ApoCⅢmRNAの定量を行った。効果および安全性の高いAmNAの合成に成功したこと、AmnAのアミド窒素原子上の置換基の種類によって、薬効や肝臓への蓄積量が異なることがわかった。さらに本年度は、第3年度に予定していたApoE-KOマウスに対する効果について前倒しで行い、投与3ヶ月後の肝臓におけるApoC3 mRNA発現量の著減、血清TG値の減少、アディポネクチン値の3倍程度の増加を認めた。
結論
 ApoC-III mRNAの全領域をカバーするようなアンチセンスを設計し、網羅的なin vitroおよびin vivoスクリーニングを行った。この結果、非常に効果の高いアンチセンス分子を同定することに成功した。次世代型AmNAとその誘導体の合成に成功し、望み通りの化学的性質をアンチセンス分子に付与することにより、体内動態の制御ができることが示された。さらに、動脈硬化モデル動物を用いて高活性アンチセンスを投与することにより、抗動脈硬化への作用を有することを示すことに成功した。抗apoC3アンチセンス医薬の開発を進めてきており、臨床応用に向けてさらに有効で安全なものへと改良を加えていく所存である。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201209004Z