文献情報
文献番号
201209001A
報告書区分
総括
研究課題名
肺がんの分子診断法および分子標的治療法の開発
課題番号
H23-政策探索-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
間野 博行(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 杉山 幸比古(自治医科大学 医学部)
- 崔 永林(東京大学 医学部)
- 中田 昌男(川崎医科大学 医学部)
- 池田 徳彦(東京医科大学 医学部)
- 鯉沼 代造(東京大学 医学部)
- 竹内 賢吾(がん研究会 がん研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬探索研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
肺がんは欧米先進諸国のがん死の最大の原因である。我々は肺がんの新規がん遺伝子EML4-ALKを発見することに成功したが、本研究計画ではEML4-ALKの肺がん原因遺伝子としての役割を証明すると共に、EML4-ALKを標的とした分子診断法および分子標的治療法の開発を目指す。
研究方法
EML4-ALKおよびKIF5B-ALKの全ての融合バリアントを検出可能なマルチプレックスRT-PCR診断システムを用いて、前向き収集した約916例の肺がん検体を解析した。さらにEML4-ALKによってチロシンリン酸化される細胞内基質を同定する目的で、細胞可溶画分から鉄イオンを用いたアフィニティカラムおよびリン酸化チロシンを特異的に認識するマウスモノクローナル抗体によるアフィニティカラムを用いて細胞内チロシンリン酸化タンパクを純化した。これらを質量分析装置で解析することにより、各細胞においてチロシンリン酸化されるタンパク群を高感度に同定した。
結果と考察
実際に収集した検体は851例の症例から得られた916種類の臨床試料であり、内部コントロール遺伝子であるRNasePの発現を検討した結果、計808種類の検体(754例)が十分な質のcDNAであることが確認された。これら検体のうち過半数を気管支洗浄液、気管支擦過液などが占め、また喀痰、胸水、心嚢液など様々な種類の試料が解析された。これらについてEML4-ALKマルチプレックスRT-PCR法解析を行ったところ、34検体(32症例)がEML4-ALK陽性である事が確認され、その内訳はvariant 1が19例、variant 2が1例、variant 3が10例、および新規バリアントが各1例ずつであった。EML4-ALK陽性例は全て肺腺がんであり、腺がん全体の約6%に陽性であった。平均発症年齢は48.3才であり、EML4-ALK陰性例の65.5才に比べて有意に若年発症であった(P <0.001)。EML4-ALKは女性に好発し(P <0.001)、非喫煙者あるいは軽度喫煙者に多いことも示された(P <0.001)。また陽性例14例が海外のALK阻害剤臨床試験に参加したところ奏功率は100%であった。免疫組織染色法とRT-PCR法の両者で解析可能であった検体は15例であり、そのうち2例では免疫組織染色では陰性であった。少なくともその1例はゲノムの融合点が確認できたため、真のEML4-ALK陽性症例であったと考えられる。さらにEML4-ALKによってチロシンリン酸化される細胞内基質を同定する目的で、正常ALK、EML4-ALK variant 1、EML4-ALK variant 3およびEML4-ALK variant 1の酵素活性欠失変異体(EML4-ALKKM)を作成し、これを安定に発現するマウス3T3細胞を樹立した。これら細胞を可溶化した後、鉄イオンを用いたアフィニティカラムで細胞内タンパクを純化し、さらにリン酸化チロシンを特異的に認識するマウスモノクローナル抗体によるアフィニティカラムを用いて細胞内チロシンリン酸化タンパクを純化した。これらを質量分析装置で解析することにより、各細胞においてチロシンリン酸化されるタンパク群を高感度に同定した。
結論
我々の解析により喀痰・胸水・気管支洗浄液・凍結生標本などRNAを抽出可能な試料からmultiplexRT-PCR法によりEML4-ALKを検出可能なことが大規模な前向きコホートで検証され、免疫組織染色で陰性例においても真の陽性例を検出できた。EML4-ALKは肺腺がんの4-5%に存在し、若年者、非喫煙者、軽度喫煙者に多く見られることが確認された。これらの症例はALK阻害剤による分子標的治療の対象となると期待される。また今回の解析によりEML4遺伝子からALK遺伝子への融合ポイントは複数存在することが判った。以上よりパラフィン包埋標本が存在しない症例においてはRT-PCR法が優れた診断法であると言え、臨床応用の基盤データを得た。またNPM1-ALK融合キナーゼはSTAT3/STAT5をリン酸化することで細胞増殖を誘導することが知られていが、意外にもEML4-ALKは、主たる経路としてSTATを利用していないことが明らかになった。我々の今回のプロテオミクス解析で検出された新たな基質群は、臨床の場における薬剤耐性機構に対する重要な知見となり、実際のALK阻害剤耐性症例でこれら下流分子の配列異常が存在するか否かを検証する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2013-07-11
更新日
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