アジア人種型2型糖尿病の治療法及び治療薬の開発を可能にするマウス及びヒト膵β細胞由来のモデル 細胞系の構築

文献情報

文献番号
201208038A
報告書区分
総括
研究課題名
アジア人種型2型糖尿病の治療法及び治療薬の開発を可能にするマウス及びヒト膵β細胞由来のモデル 細胞系の構築
課題番号
H24-創薬総合-若手-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
魏 范研(国立大学法人熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アジア型2型糖尿病は、非肥満及び低インスリン分泌という特徴を持ち、欧米型2型糖尿病と異なる病態を示す。また、既存の糖尿病治療薬は特にアジア人種において高頻度の副作用が報告されている。しかし、アジア型2型糖尿病の発症原因が不明であったため、アジア人種に適した新規治療薬及び治療法の開発及び評価が不可能であった。Cdkal1遺伝子の一塩基多型変異(SNPs)は、アジア人種において約四人に一人という高い頻度で保有されており、アジア型2型糖尿病の原因遺伝子の一つである。我々は世界に先駆けてCdkal1の分子機能を明らかにし、アジア2型糖尿病発症の分子機構の一端を明らかにした。そこで、我々独自の研究成果に基づき、本研究においてアジア型2型糖尿病に対する治療法及び治療薬の開発を可能にするマウス及びヒト膵β細胞由来のモデル細胞系の構築を目的とし、研究を行った。
研究方法
項目1 誤翻訳を検出するCdkal1 KO マウス膵β細胞由来の細胞スクリーニング系の構築
 Cdkal1によるリジン残基の翻訳精度制御は、ルシフェラーゼ活性に重要であるため、本研究では、ルシフェラーゼを利用したレポーターを含むレンチウィルスを作製する。その後、同レポーターを含むウィルスをCdkal1 KOβ細胞株に導入する。
項目2 Cdkal1 SNPsを有する膵β細胞スクリーニング系の作製
 健常人FibroblastにおけるCdkal1遺伝子型をPCRにより同定した後、危険型Cdkal1 SNPs並びに非危険型Cdkal1 SNPsを有するFibroblastに、SOX2、Klf4、Oct3/4、c-Mycを導入し、iPS細胞を作製した。iPS細胞からβ細胞への誘導は、特殊なコーティング剤(特願2011-071530)をPDX-1、NeuroD、MafAタンパクをiPS細胞に導入することにより膵β細胞を作製する。
項目3 低分子化合物によるライブラリースクリーニングの実施
上記スクリーニング系に低分子化合物を加え、ルシフェラーゼ活性を測定し、誤翻訳を改善できるかを検討した。さらに、翻訳改善効果が見られた化合物を再度同細胞系に加え、インスリン分泌促進効果を検討した。

結果と考察
1. 誤翻訳を検出するルシフェラーゼを用いたレポーターをレンチウィルスに組み込み、HEK293細胞にて大量にウィルスを作製した。次に、Cdkal1を欠損した不死化膵β細胞に、レポーターを含むウィルスを導入した。細胞の生着率は90%以上に達したことを確認した後、ルシフェラーゼの発光強度を測定し、測定範囲内であることを確認した。
2. PCR法により遺伝子型を確かめられた危険型Cdkal1 SNPsを有するヒトFibroblastにSOX2、Klf4、Oct3/4、c-Mycを有するセンダイウィルスを導入し、iPS細胞を作製した。その後、iPS細胞を804G細胞の分泌液をコーティングしたプレートに生着させ、細胞透過ドメインを有するPDX-1、NeuroD、MafAタンパクを直接iPS細胞に加えた。誘導後17日目に、定量PCR法により内在性pdx1やインスリン遺伝子の発現を検出した。
3. 1において構築したスクリーニング系に低分子化合物を加え、翻訳精度によるスクリーニングを行った。その結果17種類の化合物において翻訳精度の向上効果が見られた。さらにこれらの化合物を細胞内カルシウムまたは培養上清中のインスリン分泌量で二次スクリーニングを行った結果、8種類の化合物が陽性反応を示した。
 以上の結果から、本研究の申請時における研究目的の一つであるマウス由来のスクリーニング系の構築を達成したと考える。また、今年度において危険型SNPを有するヒト繊維芽細胞から膵β細胞の分化誘導にすでに成功している。翻訳異常を検出するレポーターウィルスを感染させれば、ヒト膵β細胞由来のスクリーニング系を完成させることができる。一方、前倒して実施したスクリーニングにより、翻訳精度及びインスリン分泌を向上させる低分子化合物が発見された。これらの化合物の抗糖尿病効果を動物個体においても確かめることができれば、アジア2型糖尿病に対する治療薬の開発という本研究の当初の目的を達成できると考える。
結論
 平成24年度の研究においてアジア型糖尿病の原因遺伝子及びその表現型を持つCdkal1 欠損マウス由来のスクリーニング系を構築した。また、同スクリーニング系を用いて小規模のスクリーニングを行った結果、翻訳精度を向上させながら、インスリン分泌を促進する低分子化合物の発見に至った。一方、2型糖尿病発症リスクが高いCdkal1遺伝子変異を有するヒト繊維芽細胞からiPS細胞を作製し、さらにβ細胞へと分化誘導を行い、インスリン遺伝子を発現するβ細胞を得た。

公開日・更新日

公開日
2013-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201208038Z