認知症早期解析型マウスモデルの開発研究

文献情報

文献番号
201208029A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症早期解析型マウスモデルの開発研究
課題番号
H24-創薬総合-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
森 啓(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 富山 貴美(大阪市立大学 大学院医学研究科 )
  • 梅田 知宙(大阪市立大学 大学院医学研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病を含む認知症患者数は、400万人を超えることが予想されており、医療、介護による支援体制、医療経済の上から大きな負担となると考えられている。厚生労働省による今後5ヶ年計画のオレンジプランでも、患者の在宅化を促進する計画であるが、具体的な方法論については、結論されていない段階である。
 本研究では、未だに結論されていないアルツハイマー病の詳細な病態解明を推進させる事を目的として、とりわけ早期診断、治療対応が可能なモデルを作製、検討することである。
研究方法
(1)モデルマウス作製:遺伝子コンストラクトは、ヒト最長アイソフォーム(tau441)cDNAを基盤として、イントロン9上流の18塩基、下流3kb、エクソン10およびイントロン10上流3kb、下流38塩基をもつように設計し、海馬での高発現をする事が知られているカルシウム・カルモデュリンキナーゼIIプロモーター下流に連結させた。遺伝子注入の手法は既存の方法に拠った。
(2)ウェスタンブロット、免疫組織化学および免疫電顕観察:ヒトタウ特異抗体を使用して実施した。
(3)電気生理学:既存の方法により実施した。脳海馬を含む脳切片を350ミクロン厚にて縦切断し、酸素気泡下に組織培養した。CA3電気刺激によるfEPSP反応記録によりLTP解析をした。
(4)行動試験:Morris水迷路学習行動試験を実施した。
(5)統計解析:ANOVA解析は、Fisher’s PLSDテストにより有意差検定を実施した。電気生理におけるI/O curve分析には、ANCOVA解析により実施し、いずれも有意差は、p<0.05による統計有意差を確認した。
結果と考察
(1)モデルマウスの脳神経病変:ヒトタウ遺伝子は、もっとも重要な機能に関連したエクソン10および前後の6kb塩基長のイントロンを含む。塩基置換のない野生型配列とイントロン10上流の+16塩基をシトシンからチミジンに変更したFTDP-17モデルも同時に作製した。遺伝子発現は、ヒト脳発達と同じく3R型からアイソフォーム混合型に変化した。
(2)モデルマウスの脳神経機能障害:ヒト野生型タウ遺伝子を導入したマウスはMorris水迷路で正常の記憶をしめしたが、イントロン内変異を持つ遺伝子を導入したモデルマウスは、学習能力が4ヶ月齢まで正常であったが、加齢と共に低下し野生型ヒト野生型タウ遺伝子を導入したマウス(各々p=0.0011、p=0.0027)と比較して各々優位な障害を示した。また、学習後のプラットフォーム記憶も同様に低下していた(各々p=0.0098 、p= 0.0352)。
(3)神経脱落:認知症脳萎縮の主因であるニューロン細胞数の顕著な脱落は、イントロン変異マウス脳の海馬領域でのみ明らかであった。炎症性のミクログリア細胞の活性化が12ヶ月齢より始まることを考えると、この神経脱落が18ヶ月齢ではなく24ヶ月齢で検出されることから、他の脳病態と平行して出現すると言うよりも最終末脳病変として検出されると考えた。
 病態モデルとしての変化を時系列順に併記すると、4ヶ月齢で4R型アイソフォームの発現高進、6ヶ月齢で異常リン酸化タウ出現とシナプスLTP機能障害、記憶学習能力障害、12ヶ月齢で炎症性ミクログリア増加、24ヶ月齢でpretangle形成、アストログリア増生および神経脱落となる。
 とくに本研究により異常リン酸化からpretangle形成まで長期のブランクがあることが観察された点は、異常リン酸化の早期検出による治療意義が明らかになったといえる。
 平成25,26年度は、平成24年度成果で確立したモデルマウスと、従来モデルとの交配をすることによって、よりヒト病態に近い認知症早期解析型マウスモデルを作製、解析する計画である。
結論
タウに注目した早期診断解析マウスを樹立した。タウのアイソフォーム分子発現は、ヒトでの生理的な遺伝子発現を再現できた。観察されたモデルマウス脳病態変化は、ヒトでの脳神経病理像と矛盾しない脳変化を観察できたばかりか、各病変の時系列を明らかにするモデル動物として検証することができた。

公開日・更新日

公開日
2013-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201208029Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,500,000円
(2)補助金確定額
11,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,862,639円
人件費・謝金 1,866,533円
旅費 105,980円
その他 3,164,848円
間接経費 1,500,000円
合計 11,500,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
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