ヒトの血管性認知症の病態を的確に再現し治療法開発に直結する新規ラットおよび霊長類モデルの開発研究

文献情報

文献番号
201208027A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトの血管性認知症の病態を的確に再現し治療法開発に直結する新規ラットおよび霊長類モデルの開発研究
課題番号
H24-創薬総合-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
猪原 匡史(公益財団法人先端医療振興財団 先端医療センター再生医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 冨本 秀和(三重大学 大学院 医学系研究科 神経病態内科学)
  • 福山 秀直(京都大学 大学院 医学研究科 附属脳機能総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高血圧などの血管性危険因子に起因する脳小血管病変を再現する高血圧自然発症ラット(SHR)にアメロイドコンストリクター(AC)を適応することにより、ヒト血管性認知症の病態をさらに忠実に反映する画期的モデルラットの開発を試みる。最新の画像解析を用いて非侵襲的かつ経時的に脳循環代謝を評価し、行動解析や3次元組織解析などの重層的評価を行い、個体ごとの機能‐解剖‐表現型の連関解析に取り組む。また、げっ歯類よりも,脳や脳血管の構造がよりヒトに近似するアヌビスヒヒの血管性認知症モデルの確立も同時に行う.本研究により,ヒト血管性認知症の病態をより忠実に反映した,ヒトへの外挿性の高いモデル動物の確立を行い,認知症の画期的・独創的医薬品の創製に資する基盤技術とすることを主たる目的とする.
研究方法
1. SHRラットモデルの脳血流推移の解析(先端医療センター:猪原グループ)
SHRに対するACを装着した後の脳血流の経時的変化をLaser speckle flowmetryにより評価した (SHR-AC).対照群として,ウィスター京都ラットに対する両側総頸動脈閉塞群 (WKR-2VO)とSHRに対する両側総頸動脈閉塞群 (SHR-2VO)を準備した.SHR-2VO群では,WKY-2VO群よりも急激な脳血流の低下が見られた.一方で,SHR-AC群では,緩徐に脳血流が低下し,処置3日後に底値を示し,急激な脳血流低下を回避できた.SHR-2VO群は約20%の死亡率を示したが,SHR-AC群では5%未満の死亡率に留まった.以上,SHRに対するACの装着により,ヒトの血管性認知症における「慢性」脳低灌流をより的確に再現することができた.
2.SHRラットモデルの組織学的変化の解析(三重大学:冨本グループ)
SHRに対するACの装着手術後28日の時点における大脳白質部(視交叉部,脳梁部)の組織学的変化を評価した.SHR-AC群は,SHR-2VO群に匹敵する大脳白質病変を再現できた.以上より,組織学的な観点からも,ヒト血管性認知症のモデル化を達成できた.
3.SHRラットモデルの総頸動脈径のCTアンギオによる観察(京都大学:福山グループ)
 CTアンギオグラムによる頸部血管の観察により,内径0.7 mmのACでは総頸動脈は閉塞にまで至らなかったが,内径0.5 mmを用いると,総頸動脈が手術3日目以降に閉塞することが明らかとなった.
4.アヌビスヒヒ血管性認知症モデルの評価(先端医療センター:猪原グループ)
アヌビスヒヒは齧歯類と異なり,ヒトに近似したWillis動脈輪を有し,慢性脳低灌流を再現するためには3動脈の結紮が必要であることが判明した.今後は3動脈閉塞モデルを軸にACを使用する必要があるかどうかを検討していく.
結果と考察
ウィスター京都ラットを用いた我々の既報告(Kitamura A, et al. Neurobiol Aging 2011)では,3日後に両側の総頸動脈の閉塞が確認できたが,今回のSHRを用いた実験では,手術後3日目の時点で一側のみの閉塞が確認され,7日目に両側の閉塞が確認できた.この閉塞の遅延が高血圧によるものか,血管の器質的変化によるものかを検討するため,今後再現性の確認と総頸動脈の組織解析を行う予定である.しかし,手術3日目以降にSHRの総頸動脈が閉塞することは,急激な急性期の脳血流低下を回避し,死亡率を低減することに貢献していると考えられ,CTアンギオを用いた本研究結果からも,本申請課題の最終目的である新規血管性認知症モデル確立への道筋が見えたものと考えている. さらに,げっ歯類とヒトとの種差を鑑み同時に行っている,アヌビスヒヒの血管性認知症モデルの確立研究でも,3動脈結紮により脳血流低下を誘導することが出来た.霊長類のWillis動脈輪はヒトと同様に発達しており,ラットで行ったようなACの装着を必要としない可能性もあり,今後行動解析や組織解析を追加して,モデル動物としての妥当性を検証していく.
結論
本研究事業で確立を目指すヒト血管性認知症のモデルラットおよびモデルヒヒはともに慢性脳低灌流を的確に反映する動物モデルであることがこれまでの研究で明らかとなった.組織学的および行動学的な妥当性評価を継続し,ヒトの血管性認知症の医薬品の創製に資する基盤技術モデル動物の確立を目指す.

公開日・更新日

公開日
2013-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201208027Z