ハイブリッドロングペプチドを用いた革新的次世代がん治療用ワクチンの開発とその臨床効果

文献情報

文献番号
201208022A
報告書区分
総括
研究課題名
ハイブリッドロングペプチドを用いた革新的次世代がん治療用ワクチンの開発とその臨床効果
課題番号
H23-創薬総合-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
西村 孝司(北海道大学 遺伝子病制御研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 北村 秀光(北海道大学 遺伝子病制御研究所 )
  • 脇田 大功(北海道大学 遺伝子病制御研究所 )
  • 佐藤 崇之(北海道大学 遺伝子病制御研究所 )
  • 武冨 紹信(北海道大学 大学院医学研究科 )
  • 山下 啓子(北海道大学病院)
  • 奥野 清隆(近畿大学 医学部)
  • 菰池 佳史(近畿大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究において、当研究グループが世界に先駆けデザインした癌抗原特異的ヘルパーT細胞とキラーT細胞をそれぞれ活性化させるぺプチドエピトープを人工的に繋ぎ合わせたロングペプチド(H/K-HELP)の臨床研究結果を基軸として、世界の次世代癌ワクチン開発研究に遅れをとらない日本発の革新的次世代癌免疫治療用ワクチンを開発することを目的とする。
研究方法
本研究では、ヘルパー/キラーハイブリッドロングペプチド(H/K-HELP)ワクチンの抗腫瘍効果を大腸癌(35例)もしくは乳癌(40例)に絞った癌患者を対象にした探索的第II相臨床試験にて評価する。癌抗原として第I相の探索的自主臨床試験において高い免疫賦活能が認められたSurvivin癌抗原をターゲット分子として選定する。腫瘍組織にSurvivin癌抗原の発現を免疫染色あるいは遺伝子解析にて確認し、Survivinヘルパーペプチドに結合し得るHLAの型を持つ患者を適格基準の一部とする実施プロトコルを確立する。Survivin-H/K-HELP、OK432およびモンタナイドからなる癌ワクチンを投与し、投与前および各投与時に得られる血液サンプルを用いて癌特異的免疫応答の解析を行なうとともに、CT画像解析により抗腫瘍効果を検討する。またワクチン投与した全ての完遂症例を抗腫瘍効果の有無で二つにグループ分けし、グループ間で見られる遺伝子発現の違いから、高い抗腫瘍効果を誘導するための鍵となりそうな因子(バイオマーカー)を探索・同定する付随研究を実施し、より効果の高い癌ワクチン開発へと繋げる。
結果と考察
北海道大学病院、北海道大学遺伝子病制御研究所および近畿大学医学部の倫理委員会において承認された、Survivin癌抗原の解析法、評価項目となる免疫モニタリング法、抗腫瘍効果の判定プロトコルを記載した自主臨床試験実施計画書に従い、進行・再発大腸癌あるいは乳癌を対象に、Survivin-H/K-HELPを用いた癌ワクチン治療の探索的第II相臨床試験(大腸癌: UMIN000007506、乳癌: UMIN000007507)を実施した。平成24年度末までに、大腸癌25例のエントリーがあり、所定の基準を満たした、20例に対してH/K-HELPワクチン投与を実施した。乳癌では2例のエントリーがなされ、内1例にワクチンを投与した。これまでに、安全性を再確認するとともにワクチン投与を行った癌患者の免疫モニタリングを開始し、実際にワクチン投与後、大腸癌16例について抗腫瘍免疫応答を評価したところ、15例において癌抗原特異的な抗体価の上昇およびT細胞応答を認めた。乳癌については1例中1例において、抗腫瘍免疫応答が確認された。また今年度において、臨床試験に登録し、ワクチン投与を行った患者サンプルを使用して、臨床効果を予見し得るバイオマーカーの探索も同時に開始した。従って、本年度において、実施計画の通り、進行・再発大腸癌あるいは乳癌患者を対象として臨床試験へのエントリーがなされ、癌抗原特異的ヘルパーT細胞とキラーT細胞を同時に活性化させるハイブリッドロングペプチド(H/K-HELP)の抗腫瘍免疫賦活能および抗腫瘍効果の評価が可能となった。引き続き本臨床試験を推進し、ハイブリッドロングペプチドワクチン投与による抗腫瘍効果について、最終年度に総合評価として判定することとした。以上の研究成果から、本研究事業における進捗状況として、十分に当初の計画を達成できたものと考えられた。
結論
本研究成果により、進行・再発大腸癌あるいは乳癌に対するハイブリッドロングペプチドを用いた癌ワクチン治療の探索的第II相自主臨床試験を実施する体制が整い、北海道大学病院および近畿大学医学部附属病院にて大腸癌あるいは乳癌患者のワクチン治療が開始された。実際にハイブリッドロングペプチドワクチンについて安全性の再確認と、本研究にて整備した標準化免疫モニタリング法により、ワクチン投与後、極めて早い段階でのワクチンペプチド特異的抗体価の上昇とT細胞応答の惹起が確認された。今後、症例数を蓄積し、完遂症例について抗腫瘍効果の有無で二つにグループ分けし、抗腫瘍効果を誘導するための鍵となりそうなバイオマーカーを探索・同定することで、より精度・効果の高い癌ワクチンの開発に繋げる。最終的に本臨床研究を推進することで得られる諸データを基に、ハイブリッドロングペプチドワクチン投与による抗腫瘍効果を精査することにより、患者のQOLを維持しつつ治療を行える日本発の革新的癌治療用ペプチドワクチンの医師主導型あるいは企業主導型治験への橋渡しが可能であると考える。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201208022Z