実験動物を用いた周産期疾患の解析と繁殖技術の開発

文献情報

文献番号
201208017A
報告書区分
総括
研究課題名
実験動物を用いた周産期疾患の解析と繁殖技術の開発
課題番号
H22-創薬総合-指定-017
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
保富 康宏(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山海 直(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター )
  • 柴田 宏昭(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター )
  • 岡村 智崇(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター )
  • 松田潤一郎(独立行政法人医薬基盤研究所 )
  • 鈴木 治(独立行政法人医薬基盤研究所 )
  • 内尾こずえ(独立行政法人医薬基盤研究所 )
  • 高橋 一朗(独立行政法人医薬基盤研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
41,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
周産期疾患研究は人類にとって非常に重要な課題であるが、それを推進するためには人に近い霊長類を用いた研究は必須である。本研究では基盤研の利点である複数の生物資源維持体制を生かし、実験動物における周産期疾患の病態解明を行い、ヒト周産期疾患研究につなげること、また、この研究の推進のために生物資源としての動物の高品質化、繁殖・育成技術の高度化を行うことを目的とした。
研究方法
1)疾患モデルマウスの生殖工学手法の最適化:実験動物研究資源バンクで保存・供給を行っている、60系統の疾患モデルマウスについて、新鮮精子または凍結精子を用いた体外受精法を応用し、安定した保存技術の確立を行った。
2)周産期疾患の解析と繁殖技術の開発のためのカニクイザルMHC class-Iのタイピング解析:カニクイザルのMHC class-Iのタイピングによる解析を試みた。
3)霊長類を用いた感染症モデル:妊娠初期(妊娠陽性3週)のカニクイザルに風疹ワクチンを接種し、母体および胎児への影響を検討した。
4)カニクイザルにおける垂直感染の解析:サルにおけるSRV/Dウイルスの垂直感染の実態を調べるために、分娩時SRV/D陽性母ザルから仔ザルへの垂直感染率を調査した。
結果と考察
結果
1)疾患モデルマウスの生殖工学手法の最適化:難病モデルを始めとする60系統の疾患モデルマウスについて、体外受精法を応用し、新鮮精子および凍結精子を用い、多くの系統で安定した技術を確立し、医薬基盤研究所実験動物研究資源バンクから効率良く供給する体制を整備された。
2)周産期疾患の解析と繁殖技術の開発のためのカニクイザルMHC class-Iのタイピング解析:家系による免疫情報の遺伝解析が可能となることが予想できた。
3)霊長類を用いた感染症モデル:妊娠カニクイザルは、風疹ワクチン研究の動物モデルとして利用できる可能性が示唆された。
4)カニクイザルにおける垂直感染の解析:.
SRV/Dの垂直感染率は約1/3であり、必ずしも母から仔へ感染するものでは無かった。帝王切開で新生仔を娩出しても新生仔へのSRV/D感染を防ぐことは難しかった。

考  察
 本研究では科学的な問題はもとより、倫理学的にも困難な問題が山積する周産期疾患を、実験動物として高度化を推進したマウスから霊長類までの広範囲な動物を用いて研究成果を得ることが可能である。さらに不妊や周産期疾患でのマウスおよび霊長類資源の遺伝子レベルからのヒト疾患に有用な知見が得られ、ヒトでは困難な生理学的、遺伝学的な解析や実験的治療等を行える。これにより周産期に影響を及ぼす遺伝学的、生理学的情報、および不妊等に繋がる疾患に対し、マウスから霊長類までの、ヒトにおける周産期研究のモデル動物の基盤体制が樹立される。また、現在の少子化対策の一助にもなり、病態の把握、原因の追求、さらにはテーラーメードも視野に入れた治療法・治療薬の開発となることから、我が国の厚生労働行政に対し莫大な貢献をもたらす。加えて短期的な競争的研究開発を行う民間企業等では広く情報や治験を与える研究開発を行うことは困難であり、その意味においても本研究で得られる結果は医科学の発展に非常に重要な位置づけ、結果をもたらすと考えられる。
結論
マウスから霊長類の広い範囲の実験動物を用いて、遺伝子から個体までの研究により、周産期疾患研究の基礎的知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2013-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201208017B
報告書区分
総合
研究課題名
実験動物を用いた周産期疾患の解析と繁殖技術の開発
課題番号
H22-創薬総合-指定-017
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
保富 康宏(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山海 直(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター )
  • 柴田 宏昭(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター )
  • 岡村 智崇(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター )
  • 松田 潤一郎(独立行政法人医薬基盤研究所)
  • 鈴木 治(独立行政法人医薬基盤研究所)
  • 内尾こずえ(独立行政法人医薬基盤研究所)
  • 高橋一朗(独立行政法人医薬基盤研究所)
  • 亀岡洋祐(独立行政法人医薬基盤研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
周産期疾患研究は人類にとって非常に重要な課題であるが、それを推進するためには人に近い霊長類を用いた研究は必須である。本研究では基盤研の利点である複数の生物資源維持体制を生かし、実験動物における周産期疾患の病態解明を行い、ヒト周産期疾患研究につなげること、また、この研究の推進のために生物資源としての動物の高品質化、繁殖・育成技術の高度化を行うことを目的とした。
研究方法
マウスおよびカニクイザルを用いて繁殖関連メディエーターの検討および周産期疾患について調査・研究を行った。
結果と考察
結果
1.配偶子および生殖器の凍結保存による効率的な遺伝子保存技術の確立を目指し、研究者らが開発した精子凍結保存方法の汎用性の調査研究、カニクイザル受精卵および卵巣の保存技術の新規開発研究を開始した。
2.SRV/D感染カニクイザルの妊娠期間中の血中ウイルス量と新生児のウイルス感染との関連を調べる為にSRV/D感染ザルの妊娠6週の胎仔、臍帯血、羊水を採取した結果、少なくとも羊水はSRV/D陽性であった。
3.周産期における風疹ワクチンの影響を検討するため、4頭の妊娠陽性カニクイザルに風疹ワクチンを接種した。結果、4頭中1頭のサル胎児から風疹ワクチンが検出され、胎児感染が確認された。
4.カニクイザルの実験動物としての品質向上に寄与するためSOLiD 3 plusシステムを用いカニクイザルの腎臓および大腸の遺伝子発現解析を行った。
5.繁殖能力が低く系統維持が困難なSCGマウス(急速進行性糸球体腎炎モデル)の繁殖学的特性を解析し、体外受精は困難であったが自然交配由来の胚を凍結-融解-胚移植して産仔を得ることに成功し、産仔の病態発現を確認した。
6.体外受精成績の向上を目指して129系雄マウスに徐放性薬剤を与えたところ,プラセボ群に比べ5mg Dehydroepiandrosterone Acetate群で胚盤胞形成率に若干の向上傾向が見られた。
7.難治性ネフローゼマウス胚をネフローゼおよび正常雌性マウスに移植し、産仔の表現型を比較した結果、遺伝子型が同一であるにも関わらず、表現型が大きく異なっており、母体環境の重要性が明らかとなった。
考  察
 周産期における疾患は我が国はもとより人類にとっても大きな問題であり、その研究は極めて重要である。また、不妊等を引き起こす疾患は少子高齢化を考えた場合、解決しなければならない課題である。本研究ではマウスを主体とした実験小動物と、我が国で唯一の医科学研究に特化し、遺伝学的解析とSPF化を達成したカニクイザルコロニーの自家繁殖・育成を行っている霊長類医科学研究センターの霊長類を用い、繁殖障害ならびに周産期疾患の解明を行い、それに伴う医科学研究に遺伝学的解析を行った。また、周産期に使用可能なワクチンや垂直感染を示す感染症の解析やそれに関する遺伝学的な解析を行った。本研究で用いた長期間自家繁殖による遺伝学的な情報が明確な霊長類資源は世界的にも極めて貴重である。そのために系統の明らかなマウス等の小動物の情報が、高度化された均質な霊長類資源であるために反映可能となり、さらなる霊長類資源高度化およびヒト疾患解明に貢献できる。さらに実験動物における周産期の解明は生物資源としての安定的な供給にも繋がっていくと考えられた。本研究で用いた長期間自家繁殖による遺伝学的な情報が明確な霊長類資源は世界的にも極めて貴重である。そのために系統の明らかなマウス等の小動物の情報が、高度化された均質な霊長類資源であるために反映可能となり、さらなる霊長類資源高度化およびヒト疾患解明に貢献できる。さらに実験動物における周産期の解明は生物資源としての安定的な供給にも繋がっていくと考えられた。
結論
マウスから霊長類の広い範囲の実験動物を用いて、遺伝子から個体までの研究により、周産期疾患研究の基礎的知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2013-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201208017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
動物資源は創薬や医科学的研究には必須であり、特に人に近い霊長類は極めて重要である。本研究では我が国唯一の医科学研究に特化した霊長類センターのカニクイザルを用いて周産期疾患への利用ならびに繁殖技術の検討による動物資源の高度化を行い、極めて大きな成果を示した。
臨床的観点からの成果
現在問題となっている風疹の霊長類モデルでの垂直感染モデルの世界で初めての樹立や、レトロウイルスの胎盤を通した感染等の周産期において極めて重要な感染症に対して臨床研究に役立つ知見を得た。また、ヒトでも試みられている卵巣の凍結保存技術はカニクイザルにおいて知見を得ることが倫理上も重要であることが示された。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
我が国の霊長類資源が世界的にも高いレベルで利用されていること、さらには本研究課題に限らず、霊長類センターのカニクイザルが多くの研究者に医科学研究に提供されていることが示された。
その他のインパクト
2010年から2012年において霊長類フォーラムをつくば市にて行い、3回で300名以上の参加者を得た。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
56件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
42件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

特許の名称
パラミクソウイルスベクターを用いた経鼻噴霧型結核ワクチン
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP/2010/069435
発明者名: 保富康宏、野阪哲哉(三重大)、河野光男(三重大)
権利者名: 医薬基盤研究所、三重大学
出願年月日: 20101012
国内外の別: 国際
特許の名称
新規な組換えBCGワクチン
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2012/073213
発明者名: 保富康宏、松尾和浩(日本BCG)
権利者名: 医薬基盤研究所、日本BCG
出願年月日: 20120710
国内外の別: 国際

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshhida, T., Omatsu, T., Saito, A et al.,
Dynamics of cellular immune responses in the acute phase of dengue virus infection.
Archiv. Virol  (2013)
原著論文2
Tougan,T., Aoshi,T., Coban,C et al.,
TLR9 adjuvants enhance immunogenicity and protective efficacy of the SE36/AHG malaria vaccine in nonhuman primate models.
Hum.Vac.Immunother  (2013)
原著論文3
Karamatsu,K., Matsuo,K., Inada,H.,et al.,
Single systemic administration of Ag85B of mycobacteria DNA inhibits allergic airway inflammation in a mouse model of asthma.
J Asthma Allergy , 5 (1) , 71-79  (2012)
10.2147/JAA.S37667
原著論文4
Nomaguchi,M., Yokoyama,M., Kono,K., et al.,
Gag-CA Q110D mutation elicits TRIM5-independent enhancement of HIV-1mt replication in macaque cells.
Microve. Infect , 15 (1) , 58-65  (2013)
10.1016/j.micinf.2012.10.013
原著論文5
Yoshida,T., Omatsu,T., Saito,A., et al.,
CD16 positive natural killer cells play a limited role against primary dengue virus infection in tamarins
Archiv. Virol , 15 (2) , 363-368  (2012)
10.1007/s00705-011-1178-6.
原著論文6
Tajiri,K., Imanaka-Yoshida,K., et al.,
Suppressor of cytokine signaling 1 (SOCS1) DNA administration inhibits inflammatory and pathogenic responses in autoimmune myocarditis.
J.Immunol , 189 (4) , 2043-2053  (2012)
10.4049/jimmunol.1103610
原著論文7
Uchdida,A., Sasaguri,H., Kimura,N., et al.,
Non-human primate model of ALS with cytoplasmic mislocalization of TDP-43.
Brain , 135 (3) , 833-846  (2012)
10.1093/brain/awr348
原著論文8
Saito,A., Kono,K., Nomaguchi,M., et al.,
Geographical genetic and functional diversity of antiretroviral host factor TRIMCyp in cynomolgus macaque (Macaca fascicularis).
J.Gen.Virol. , 93 (3) , 594-602  (2012)
doi: 10.1099/vir.0.038075-0.
原著論文9
Higashino,A., Sakate,R., Kameoka,Y., et al.,
Whole-genome sequencing and analysis of the Malaysian cynomolgus macaque (Macaca fascicularis) genome.
Genome Biol. , 13 (7)  (2012)
原著論文10
Tachibana,S., Sullivan,SA., Kawai,S., et al.,
Plasmodium cynomolgi genome sequences provide insight into Plasmodium vivax and the monkey malaria clade.
Nature Genetics , 44 (9) , 1051-1055  (2012)
10.1038/ng.2375
原著論文11
Iwasaki,Y., Mori,K., Ishii,K., et al.,
Longe-term persistent GBV-B infection and development of a chronic and progressive hepatitis C-like diseae in marmosets. Frontiers Microbiol.
Frontiers Microbiol. , 2 , 2-7  (2011)
10.3389/fmicb.2011.00240.
原著論文12
Hirata,H., Kawai,S., Maeda,M., et al.,
Identification and Phylogenetic Analysis of Japanese Macaque Babesia-1 (JM-1) Detected from a Japanese Macaque (Macacafuscata fuscata).
Am.J.Trop.Med.Hyg. , 85 (4) , 635-638  (2011)
10.4269/ajtmh.2011.11-0035.
原著論文13
Matsuo,K. and Yasutomi,Y.
Mycobacterium bovis bacille Calmette-Guérin as a vaccine vector for global infectious disease control.
Tuberculosis Res. Treat. , 2011 (57) , 4591-4593  (2011)
10.1155/2011/574591.
原著論文14
Chono,H., Saito,N.. Yasutomi,Y., et al.,
In vivo safety and persistence of endoribonuclease gene-transduced CD4+ T cells in cynomolgus macaques for HIV-I gene therapy model.
PloS One , 6 (8) , 25385-25387  (2011)
10.1371/journal.pone.0023585
原著論文15
Xing, Li., Wang, J.C., Li, T-C., et al.,
Spatial configuration of hepatitis E virus antigenic domain.
J.Virol. , 85 (2) , 1117-1124  (2011)
10.1128/JVI.00657-10
原著論文16
Chono,H., Matsumoto,K., Tsuda,H., et al.,
Acquistion of HIV-1 resistance in T lymphocytes using an ACA-specific E.coli mRNA interferase.
Human Gene Ther. , 22 (1) , 35-43  (2010)
10.1016/j.jcpa.2010.06.006.
原著論文17
Okabayashi,S., Uchida,K., Ohno,C., et al.,
Periventricular Leucomalacia(PVL)-like lesions in two neonatal cynomolgus monkeys (macaca fascicularis).
J.Comp.Pathol , 144 (2) , 204-211  (2011)
10.1016/j.jcpa.2010.06.006.
原著論文18
Saito,A., Nomaguchi,M., Iijima,S., et al.,
A novel monkey-tropic HIV-1 derivative encoding only minimal SIV sequences can replicate in cynomolgus monkeys.
Micorbes and Infection , 13 (1) , 58-64  (2011)
10.1016/j.micinf.2010.10.001.
原著論文19
Naruse,T.K., Zhiyong,C., Yanagida,R., et al.,
Diversity of MHC class I genes in Burmese-origine rhesus macaques.
Immunogenetics , 62 (9) , 601-611  (2010)
10.1007/s00251-010-0462-z
原著論文20
Fujimoto,K., Takano,J., Narita,T., et al.,
Simian Retrovirus type D infection in a colony of cynomolgus monkeys.
Comp.Med. , 60 (1) , 5-13  (2010)

公開日・更新日

公開日
2017-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201208017Z