柴胡剤・熊胆剤による胆汁酸代謝制御の分子機構の解明と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療への展開

文献情報

文献番号
201208012A
報告書区分
総括
研究課題名
柴胡剤・熊胆剤による胆汁酸代謝制御の分子機構の解明と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療への展開
課題番号
H22-創薬総合-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
田中 智洋(京都大学大学院 医学研究科メディカルイノベーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 慎二(京都大学大学院 医学研究科バイオフロンティアプラットフォーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝炎ウイルス感染に起因する病態が中心であったわが国の肝疾患の疾病構造は、生活習慣病の増加に伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の蔓延により大きく変貌しつつある。NASHは欧米諸国では肝硬変、肝ガンの最も高頻度な原疾患であり、わが国においてもNASHに起因する肝硬変、肝ガンの激増が予想される。しかし現在有効性が確立されたNASH治療薬は皆無で減量指導以外に対処法は無い。そこで本研究では、胆汁酸代謝制御という独自の観点と、肝胆疾患に古来より用いられてきた柴胡剤・熊胆剤による介入効果を評価するという2つの視点からNASHの病態に迫り、全く新しいNASHの診断・治療戦略の提唱を目的とする。
研究方法
研究代表者は、高脂肪食(HFD)負荷、メチオニン・コリン欠乏食(MCD)負荷マウスをNASH病態のモデルとしてこれらに小柴胡湯、熊胆剤の主成分であるウルソデオキシコール酸(UDCA)を投与し、血清代謝パラメータと同時に肝臓の脂肪化、炎症細胞浸潤、酸化ストレスマーカー、線維化マーカー等の検討を行った。本年度は、特に小柴胡湯およびUDCAの効果に関する用量依存性と投与時期による効果、大柴胡湯の効果について新たに検討を加えた。またマウスにおける副作用の病理組織学的検討を行った。分子メカニズムについては胆汁酸合成の中心的制御因子、FGF19-bKlotho(bKl)システムのNASH病態における意義と漢方薬作用との関連性を検証した。研究分担者は最新のメタボローム解析を行い研究代表者によるトランスクリプトーム解析と併せてトランスオミックス的方法によるNASHの基盤病態の解析を行った。
結果と考察
本研究により、1)柴胡剤(小柴胡湯および大柴胡湯)・熊胆剤各単剤及び併用によるNASHの治療効果が複数のマウスのNASHモデルにおいて証明された。2)マウスモデルにおいてという制限の下で解釈せねばならないが、投与量の最適化と長期投与の効果および安全性を証明することができた。3)小柴胡湯とウルソデオキシコール酸の併用投与によるNASH治療効果が極めて強力であることを発見した。今後の治療選択肢として優れて有望と考える。4)肝臓における胆汁酸・コレステロール代謝の中心的制御因子であるFGF19- βKlothoシステムに関わる遺伝子改変マウスを用いた解析、漢方薬作用機序の解析の比較的検討により、共通する多くの分子が明らかとなった。
結論
メチオニン・コリン欠乏餌および高脂肪食投与マウスをモデルとした柴胡剤(小柴胡湯および大柴胡湯)・熊胆剤によるNASHの病理組織像・肝遺伝子発現・血清マーカーの改善作用のPOCの確立と用量の検証、長期投与の効果、副作用の有無の検証を行い、さらにはFGF19-βKlothoの遺伝子改変動物を用いた解析により、胆汁酸やコレステロールの代謝制御が、熊胆剤・柴胡剤の作用標的として重要であることを証明した。以上より、胆汁酸代謝統御によるNASH治療の新しい戦略を提唱し、その例として漢方薬の有用性を証明することに成功した。

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201208012B
報告書区分
総合
研究課題名
柴胡剤・熊胆剤による胆汁酸代謝制御の分子機構の解明と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療への展開
課題番号
H22-創薬総合-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
田中 智洋(京都大学大学院 医学研究科メディカルイノベーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 慎二(京都大学大学院 医学研究科バイオフロンティアプラットフォーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B・C型肝炎ウイルス感染に起因する病態が中心であったわが国の肝疾患の疾病構造は、生活習慣病の増加に伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の蔓延により大きく変貌しつつある。NASHは欧米諸国では肝硬変、肝ガンの最も高頻度な原疾患であり、わが国においても近い将来、NASHに起因する肝硬変、肝ガンの激増が予想される。しかし現在有効性が確立されたNASH治療薬は皆無で、減量指導以外に対処法は無い。本研究では申請者らが解明した最新のコレステロール・胆汁酸代謝制御メカニズムに立脚し、NASHの分子病態とNASH治療薬としての柴胡剤、熊胆剤の有効性および作用機序を解明することを目指した。
研究方法
研究代表者は、高脂肪食(HFD)負荷、メチオニン・コリン欠乏食(MCD)負荷マウスをNASH病態のモデルとし、これらに柴胡剤として小柴胡湯および大柴胡湯、また熊胆剤の主成分であるウルソデオキシコール酸(UDCA)を投与し、血清代謝パラメータ、肝臓の脂肪化、炎症細胞浸潤、酸化ストレスマーカー、線維化マーカー等について、ヘマトキシリンエオジン染色、マッソントリクローム染色、免疫組織化学、組織化学などの方法、さらにはDNAマイクロアレイによるトランスクリプトーム解析などの方法で検討した。さらにこれら薬剤作用の分子機序の解明のために、胆汁酸代謝の中心的制御因子、FGF19-bKlotho(bKl)システムとの関連性についてトランスオミックス的アプローチによる解析を実施した。
結果と考察
本研究により、1)小柴胡湯、大柴胡湯、熊胆剤各単剤及び併用によるNASHの治療効果が複数のマウスNASHモデルにおいて証明された。2)あくまでマウスモデルにおいてではあるが、上記各薬剤の投与量の最適化と長期投与の効果および安全性を証明することができた。3)小柴胡湯とウルソデオキシコール酸の併用投与によるNASH治療効果が極めて強力であることをマウスにおいて発見し、今後のヒトNASHにおける治療選択肢として提唱することができた。4)肝臓における胆汁酸・コレステロール代謝の中心的制御因子であるFGF19- βKlothoシステムに異常のある複数の遺伝子改変マウスを用いて解析し、上記漢方薬の作用機序の一端を明らかにすることに成功した。
結論
メチオニン・コリン欠乏餌および高脂肪食投与マウスをモデルとし、柴胡剤(小柴胡湯および大柴胡湯)・熊胆剤によるNASHの病理組織像・肝遺伝子発現・血清マーカーの改善作用に関するPOCの確立と用量の検証、長期投与の効果、副作用に関する検証を実施した。本研究により「漢方薬によるNASH治療」の戦略を広く提唱することが可能となり、またその作用の分子機序の一端を解明することにより、NASHの新しい病態生理を明らかにすることができた。

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201208012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)はその罹患率の増加にもかかわらず、有効性の確立した治療法が減量以外にはない、難病である。本研究では、古くから肝胆疾患に用いられてきた、小柴胡湯、大柴胡湯、熊胆剤(の主成分、ウルソデオキシコール酸)をNASH治療に応用するための研究であり、本研究により、NASH治療薬としての上記漢方薬の有効性をマウスNASHモデルにおいて実証することに成功した。またコレステロール・胆汁酸代謝の観点から、漢方薬の作用機序の一端を解明することに成功した。
臨床的観点からの成果
現在有効性が確立された治療薬が皆無であり、減量指導以外に対処法の無いNASHに対し、小柴胡湯、大柴胡湯、熊胆剤(の主成分、ウルソデオキシコール酸)が一定の治療効果をもたらすことを明らかにした。またこれら漢方薬の併用の有効性や投与タイミング、投与量の最適化をマウスNASHモデルにおいてではあるが証明したことにより、今後のヒトNASH治療トライアルへのPOCを提唱することができた。
ガイドライン等の開発
本研究は治療法の開発を目指す基礎研究であり、現時点でガイドラインの開発には至っていない。しかし、漢方薬が有効である症例と効果が乏しい症例を事前に判断するための基準の策定は今後重要な研究課題であるものと認識している。
その他行政的観点からの成果
肝炎ウイルス感染に起因する病態が中心であったわが国の肝疾患の疾病構造は、生活習慣病の増加に伴うNASHの蔓延により大きく変貌しつつある。NASHは欧米諸国では肝硬変、肝ガンの最も高頻度な原疾患であり、わが国においても近い将来、NASHに起因する肝硬変、肝ガンの激増が予想される。しかし、現在有効性が確立した治療薬は無く、減量以外に効果が証明された介入法も存在しない。本研究により、漢方薬を用いたNASH治療戦略が提唱されたことで、今後のNASH対策に新たな一つの戦略の可能性が加わった。
その他のインパクト
本研究の成果は、漢方薬の有用性の提唱にとどまらず、広くNASHの病態解明に資するところが大きく、一般医薬の開発や診断基準の策定に向けての基盤となることが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kanako Kobayashi, Tomohiro Tanaka, Sadanori Okada, et al.
Hepatocyte β-Klotho regulates lipid homeostasis but not body weight in mice
FASEB J  (2016)

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201208012Z