粘膜免疫機能を増強する漢方薬の探索とその有効成分の同定

文献情報

文献番号
201208007A
報告書区分
総括
研究課題名
粘膜免疫機能を増強する漢方薬の探索とその有効成分の同定
課題番号
H22-創薬総合-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小泉 桂一(富山大学 和漢医薬学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 國澤 純(東京大学 医科学研究所 )
  • 平山 謙二(長崎大学 熱帯医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
16,150,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(平成22年度当初目的の変更はない。)
これまでに、漢方薬が自然免疫を活性化することは多数報告があり、実際にインフルエンザ等の感染防御効果が報告されている。つい最近、研究代表者の小泉は、漢方薬である十全大補湯が、ワクチン抗原特異的な獲得免疫誘導をも促進することを見出した。このように、投与ルートが経口である事を考えると、漢方薬は粘膜アジュバントとしての応用が期待されるが、粘膜免疫系に対する影響の詳細は解明されていない。そこで、本研究では、種々漢方薬および生薬成分をスクリーニング源として供し、かつ、漢方薬と免疫学に精通した小泉および研究分担者の國澤・平山が連携して免疫学的な手法を駆使することで、(1)単独の服用で、粘膜免疫を活性化する、および、(2)経口ワクチンとの服用で、アジュバント効果を有する漢方薬を網羅的に探索し、その有効成分の同定と作用機序の解明を行うことを目的とする。
研究方法
1. 樹状細胞の抗原提示を亢進させる生薬由来化合物の網羅的な探索
生薬成分由来の新たな経口可能なワクチンアジュバントを開発する目的で、合計96種類生薬由来化合物を用いて、樹状細胞の2種類の主要組織適合遺伝子複合体(MHC class IおよびII)に対する抗原提示能力を亢進させる生薬由来化合物を網羅的に探索した。
2. 漢方薬ならびにその有効成分による粘膜免疫強化機序の解明
腸管IgA反応を増強する補中益気湯の主要作用部位と考えられたパイエル板に焦点を当て、パイエル板依存的に誘導されるIgA産生細胞の解析と補中益気湯によるIgA産生増強との関連について検討した。
3. 漢方薬ならびにその有効成分によるマラリア感染免疫修飾機序の解明
免疫調節作用を有する漢方薬により、マラリア感染の際の免疫応答が修飾され、脳マラリアモデルの病態に変化が起こるか否かについて検討した。
結果と考察
小泉の研究結果から、樹状細胞の抗原特異的なMHC Class I提示能を顕著に亢進させる生薬由来化合物として、昨年度に探索されたPGGを含めて、合計の9種類が探索された。また、國澤の研究結果から、パイエル板依存的に誘導されるIgA抗体を高産生する細胞サブセットを同定した。一方で補中益気湯を投与した群では、これらIgA抗体を高産生するサブセットの割合は増えていなかったことから、IgA抗体の産生細胞の質的変化ではなく、抗原特異的IgA抗体産生細胞を総量的に増加させることが作用機序であることが示唆された。さらに、平山は、脳マラリアのマウスモデルを用い、補中益気湯と十全大補湯の病態への影響を調べた。その結果、このモデルにおいて、いずれの漢方薬も神経症状を改善させ、特に十全大補湯では、脳マラリアでの死亡を減少させる効果のあることが示された。これらの薬剤投与による原虫血症の改善は見られなかったことから、この効果は病態と関係する免疫応答を修飾していることが推測された
結論
今回の研究から上述の結果を得ることができた。今後は、本研究から探索された生薬由来の化合物のワクチンアジュバント効果をin vitroおよびin vivoで解析し、それをリード化合物とした新規ワクチンアジュバントの開発を行う予定である。また、補中益気湯に含まれる免疫活性物質の同定、さらには生体内での体内動態、宿主免疫系の標的細胞の同定を行うことで、さらに漢方アジュバントの開発に向けた研究へと発展すると期待される。さらに、脳マラリアというマラリアが引き起こす最も重篤な合併症のモデルに対する漢方薬の影響を見ることにより、病害制御に有効な免疫応答とは何かを探ろうと試みた。病態を改善する明白なエビデンスを認めたことで、今後有効性の標的となる免疫応答についてのさらなる詳細な解析が必要である。

公開日・更新日

公開日
2013-09-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201208007B
報告書区分
総合
研究課題名
粘膜免疫機能を増強する漢方薬の探索とその有効成分の同定
課題番号
H22-創薬総合-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小泉 桂一(富山大学 和漢医薬学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 國澤 純(東京大学医科学研究所(H24.12まで)(独)医薬基盤研究所(H25.1から))
  • 平山 謙二(長崎大学 熱帯医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(平成22年度当初目的の変更はない。)これまでに、漢方薬が自然免疫を活性化することは多数報告があり、実際にインフルエンザ等の感染防御効果が報告されている。そこで、本研究では、種々漢方薬および生薬成分をスクリーニング源として供し、かつ、漢方薬と免疫学に精通した小泉および研究分担者の國澤・平山が連携して免疫学的な手法を駆使することで、(1)単独の服用で、粘膜免疫を活性化する、および、(2)経口ワクチンとの服用で、アジュバント効果を有する 漢方薬を網羅的に探索し、その有効成分の同定と作用機序の解明を行うことを目的とする。その結果、すでに医療現場で使用されており、かつ安価である漢方薬を優れた粘膜アジュバント剤として利用可能となれば、感染症に対策に速やかに貢献することができ、医療経済的にも有利であると考えられる。
研究方法
1. 樹状細胞の抗原提示を亢進させる生薬由来化合物の網羅的な探索(小泉の分担報告書参照のこと)
2. 漢方薬ならびにその有効成分による粘膜免疫強化機序の解明(國澤の分担報告書参照のこと)
3. 漢方薬ならびにその有効成分によるマラリア感染免疫修飾機序の解明(平山の分担報告書参照のこと)
結果と考察
小泉の研究結果から、樹状細胞の抗原提示能力を亢進する漢方薬として、十全大補湯、および補中益気湯が探索された。そこで、次に、十全大補湯の樹状細胞の抗原提示能力の亢進作用を有する成分の同定を行った。十全大補湯構成生薬の主要成分に関して、樹状細胞の抗原提示能力の亢進作用を解析した結果、1,2,3,4,6-Penta-O-galloyl--D-glucose(PGG) に強い活性があることが確認された。ワクチン投与では、局部の炎症反応や全身性のアナフィラキシーなどが副作用として起こることがあり、PGGはこれら副作用の原因の一端を担う肥満細胞の脱顆粒反応を抑制しつつ、抗原提示を増加させるユニークな特性を有することが明らかになった。さらに、生薬成分由来の新規経口可能なワクチンアジュバントを開発する目的で、合計96種類生薬由来化合物を用いて、樹状細胞の抗原提示能力を亢進させる生薬由来化合物を網羅的に探索した。昨年度に探索されたPGGを含めて、合計9種類が探索された。また、國澤の研究結果から、補中益気湯によるIgA産生増強効果は、IgA誘導の場であるパイエル板における樹状細胞の抗原取り込みを促進することでIgA抗体産生細胞の質(IgA高産生CD11b陽性細胞の誘導)ではなく、抗原特異的IgA抗体産生細胞の総量を増加させていることが作用機序の一旦であることが明らかとなった。さらに、平山が、脳マラリアのマウスモデルを用い、補中益気湯と十全大補湯の病態への影響を調べた結果、このモデルにおいて、いずれの漢方薬も神経症状を改善させ、特に十全大補湯では、脳マラリアでの死亡を減少させる効果のあることが明らかとなった。
結論
漢方薬・生薬は基礎および臨床研究においても、自然免疫を活性化させることが明らかとなっている。従って、生薬由来化合物を免疫活性化剤、またはワクチンのアジュバントのシーズとして利用することは理にかなっていると思われる。本研究事業では、当初目的通り、実際にワクチンアジュバント開発に用いられるIn vitro樹状細胞の抗原提示試験を用いることで、(1)単独の服用で粘膜免疫を活性化する、および、(2)経口ワクチンとの服用で、アジュバント効果を有する漢方薬として、十全大補湯および補中益気湯を探索することに成功した。In vitroの同じ試験で選抜された2種類の漢方薬であるにもかかわらず、In vivoのマウスモデルの実験では、アジュバントとしてのスペックが顕著に異なったことは興味深い。実際に、経口投与された十全大補湯の脳マラリアマウスモデルおける神経症状改善および死亡率の減少効果は、全身免疫系の活性化が誘導された結果であると思われる。一方で、補中益気湯は、粘膜免疫を活性化し、経口ワクチンに対するアジュバント効果を有することも明らかとなった。さらに、本研究事業では、アジュバント候補化合物を漢方薬の構成生薬から合計9種類が探索することに成功した。今後は、これら本研究事業の結果を基に、上記の生薬およびこれら生薬で構成される漢方薬をアジュバントとして応用する臨床研究へと発展させ、さらに、上記化合物をリード化合物とした新規ワクチンアジュバントを開発する予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-09-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201208007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
生薬成分由来の新たな経口可能なワクチンアジュバントを開発する目的で、合計96種類生薬由来化合物を用いて、樹状細胞の抗原提示能力を亢進させる生薬由来化合物を網羅的に探索した結果、昨年度に探索されたPGGを含めて、Coptisine Chloride、Epihesperidin、Gomisin A、Palmatine Chloride、Perillaldehyde、Rosmarinic Acid、Sennoside A、Sennoside Bの9種類が探索された。
臨床的観点からの成果
免疫増強する漢方薬や生薬そのものを、アジュバントとして応用することは、新たに開発するアジュバント剤とは異なり、すでに使用されている漢方薬や生薬は、ある程度の安全性は担保され、かつ、迅速な普及が期待できる。そこで、将来的な臨床応用をめざして、脳マラリアのマウスモデルを用い、漢方薬の病態への影響を調べた。その結果、十全大補湯が病態を改善する明白なエビデンスを認めたことで、今後有効性の標的となる免疫応答についてのさらなる詳細な解析が必要である。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Orawin Prangsaengtong et al.
Enhancement of lymphangiogenesis in vitro via the regulations of HIF-1α expression and nuclear translocation by deoxyshikonin
Evid Based Complement Alternat Med  (2013)
原著論文2
J. Kunisawa and H. Kiyono
Immune regulation and monitoring at the epithelial surface of the intestine
Drug Discovery Today  (2013)
原著論文3
J. Kunisawa, E. Hashimoto, I. Ishikawa, and H. Kiyono
A pivotal role of vitamin B9 in the maintenance of regulatory T cells in vitro and in vivo
PLoS One  (2012)
原著論文4
J. Kunisawa and H. Kiyono
Immunological function of sphingosine 1-phosphate in the intestine
Nutrients  (2012)
原著論文5
I. Saiki and K. Koizumi et al.
The long-term effects of a Kampo medicine, Juzentaihoto, on maintenance of antibody titer in elderly people after influenza vaccination
Evid Based Complement Alternat Med  (2013)
原著論文6
JY. Kee et al.
Inhibitory effect of Moutan Cortex aqueous fraction on mast cell-mediated allergic inflammation
J Nat Med.  (2015)
原著論文7
A. Inujima et al.
A herbal plant derived compound, 1,2,3,4,6-penta-O-galloyl-β-D-glucose (PGG), increases cross-presentation of antigens to MHC class I molecules in dendritic cells
Traditional & Kampo Medicine  (2015)

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
2017-06-26

収支報告書

文献番号
201208007Z