文献情報
文献番号
201208006A
報告書区分
総括
研究課題名
貧血用漢方薬の作用メカニズム解析と有効成分の同定
課題番号
H22-創薬総合-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 大介(九州大学大学院医学研究院 先端医療医学部門先端医療医学講座造血幹細胞分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
12,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
血液学の分野においては、漢方薬の効果をもたらす分子メカニズムはほとんど明らかにされていない。すでに平成22-23年度に貧血用漢方薬として代表的な四物湯類をマウス造血細胞へ添加培養し、細胞増殖を指標に造血へ与える影響を検討した。また人参養栄湯の有効成分同定を試みた。赤血球造血に加え、白血球造血を亢進しており、その機序として、抗アポトーシス効果と骨髄球分化促進による事を分子生物学的に明らかにした。人参養栄湯の造血に与える影響をさらに明らかにするため、平成24年度は、マイクロアレイ法により得られた候補分子の遺伝子発現の変化を、in vitro並びにin vivoで解析することを目的とした。また人参養栄湯のmiRNA合成の影響も検討を行った。
研究方法
漢方薬の調整、骨髄細胞の単離と培養、フローサイトメトリーによる血球分化評価、遺伝子発現解析は平成22,23年度と同様の方法で行った。DNAマイクロアレイ(アジレントテクノロジー社)後のin silico解析はDAVIDを用いて分類解析を行った。In vivo人参養栄湯投与実験における貧血モデル作製には、既報に基づき5フルオロウラシル(5FU)を用いた。5FU投与後3日目以降、蒸留水へ溶解した人参養栄湯を、4ヶ月齢のC57BL/6Jマウスへ経口投与した。投与量は1,000 mg/ kg body weightとし、2週間連日投与した。1週間おきに血液サンプルを採取し、自動血球計算装置で解析した。microRNA発現解析にはマウス骨髄より採取した単核球を人参養栄湯添加・未添加条件下で培養し、1・2・3日目に細胞を回収した。Total RNAを抽出・cDNA合成を行い、real time PCR法にはFAST SYBRGreen Master Mixを用い、Drosha及びDicer 1の遺伝子発現を評価した。
結果と考察
DNAマイクロアレイ法にて、人参養栄湯添加条件下での遺伝子発現の網羅的解析を行った。マウス骨髄単核球細胞培養11日後で、コントロール群に対して人参養栄湯添加群の遺伝子発現を比較した場合、発現亢進分子の中には、細胞表面受容体シグナル経路、転写、細胞周期関連分子等が、また発現低下分子は、サイトカイン受容体関連相互作用、DNA-dependent転写制御、アポトーシス制御関連分子等が含まれた。細胞の増殖・分化を制御するサイトカインはリガンドとして働き、特定の細胞表面受容体を介して細胞内シグナルを活性化後、最終的には転写因子を活性化し、標的遺伝子の発現を制御する。DNAマイクロアレイの結果より、人参養栄湯(または含有構成生薬)はマウス単核球では受容体を介したシグナル経路およびサイトカインシグナルを制御していること、転写制御を行うことが示唆された。本研究においては、人参養栄湯の細胞への取り込み機構の解明や、機能解析によるシグナル経路の同定には至っていないものの、得られたデータベースは作用機序の解明という点で大変有用だといえる。
DNAマイクロアレイの検証実験において、白血球造血を亢進するRasgrp1及びDok2 mRNAに関してin vitro, in vivoの発現結果が一致する結果ではなかった。貧血マウスモデルを用いたin vivo人参養栄湯投与実験では、既報と同様に赤血球数に加え、白血球数が増加した。特にBリンパ球造血に加え、マクロファージ造血が亢進したことを、各種マーカー発現および遺伝子発現レベルで示した点で本研究は新規性が高いと言える。
DNAマイクロアレイの検証実験において、白血球造血を亢進するRasgrp1及びDok2 mRNAに関してin vitro, in vivoの発現結果が一致する結果ではなかった。貧血マウスモデルを用いたin vivo人参養栄湯投与実験では、既報と同様に赤血球数に加え、白血球数が増加した。特にBリンパ球造血に加え、マクロファージ造血が亢進したことを、各種マーカー発現および遺伝子発現レベルで示した点で本研究は新規性が高いと言える。
結論
In vitro添加培養実験系では、人参養栄湯の作用機序として、赤血球造血だけでなく白血球造血に関与するevidenceを分子生物学的手法により取得できた。Rasgrp1, Dok2 mRNAの発現結果に関してはin vitro実験では人参養栄湯の直接的効果検討の為、サイトカイン非添加に対し、in vivo実験ではマウス体内にサイトカイン等の活性物質が含まれるため、人参養栄湯以外の要因が影響し、その効果がマスクされた可能性が原因の一つとして考えられる。よって実験系(解析日数、培養条件、解析細胞等)の検討が必要だと考えられる。また、候補分子の関与するpathwayをin silico解析にて検討し、oxidativeリン酸化をはじめ、Wnt pathway、JAK-STAT pathway、Cytokine pathway等への関与が示唆されたことから、今後候補分子の機能解析を行うことで、さらに人参養栄湯の作用機序の解明が期待できる。貧血マウスモデルを用いたin vivo人参養栄湯投与実験から、in vivo投与実験系においても、人参養栄湯の作用機序に関するevidenceを分子生物学的手法により、一部であるが取得できた。
公開日・更新日
公開日
2013-09-30
更新日
-