生体防御タンパク質に注目した、漢方薬の作用メカニズムの解明・有効成分の同定と新規治療薬の開発

文献情報

文献番号
201208005A
報告書区分
総括
研究課題名
生体防御タンパク質に注目した、漢方薬の作用メカニズムの解明・有効成分の同定と新規治療薬の開発
課題番号
H22-創薬総合-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
水島 徹(慶應義塾大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 星野 竜也(慶応義塾大学 薬学部)
  • 田中 健一郎(慶応義塾大学 薬学部)
  • 大塚 雅巳(熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 池田 剛(崇城大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
15,810,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで様々な疾患に対してHSPやSODなどの生体防御タンパク質が保護的に働くことを報告してきた。HSPは様々なストレスによって誘導され、細胞をストレスに耐性化する。また我々は、HSPが抗炎症作用やタンパク質の変性を抑制する作用を持つことを発見した。我々はテプレノン(胃薬)がHSPを誘導する(但し、誘導能はあまり高くない)ことを発見し、テプレノンはこの作用により胃潰瘍を抑制していることを証明した。さらに小腸潰瘍や炎症性腸疾患(炎症と細胞死が主な原因)、及びアルツハイマー病などの神経変性疾患(タンパク質の変性が原因)に対してもHSPが保護的に働くこと、及びテプレノンが有効であることを見出した(現在これらの疾患に対するテプレノンの臨床試験を行っている)。
 長年使われてきた漢方薬は、その安全性・有効性が確認されていることから、医薬品原料として注目されてきた。しかし現在まで、漢方薬由来の物質が新規医薬品として認可されたケースは少ない。我々はその原因として、そのような医薬品開発の多くが、受容体や酵素の阻害など西洋医薬品と同じ機構をターゲットとしており、漢方薬の特徴である緩やかな作用・副作用の少なさとマッチしていないこと、即ち漢方薬は西洋医薬品とは違う独自のターゲット(生体防御タンパク質の効果を高めるなど)を持っていることを考えている。
研究方法
共同研究している中国企業(北京泰徳製薬)から得た漢方薬(生薬)ライブラリー(約600種)からHSPの誘導生薬をスクリーニングし、テプレノンよりも強力、かつ安全な数多くのHSP誘導生薬を得た(特許出願済み)。我々はこの中からヤバツイを選択し、そのHSP誘導物質の同定に成功した(特許出願準備中)。この誘導物質を小腸潰瘍、炎症性腸疾患、アルツハイマー病の動物モデルで評価したところ、テプレノンよりも強力な効果を示した。この結果は、漢方薬(生薬)ライブラリーからスクリーニングしたHSP誘導物質が医薬品として有用であることを示唆している。本研究で我々は、この漢方薬(生薬)ライブラリーをさらに充実させ、HSP誘導生薬のスクリーニングを行い、有望な生薬を複数選択する。そして、誘導物質の同定、及び動物モデルでの評価を行い、種々の疾患治療薬として開発するHSP誘導物質を決定する。
結果と考察
平成24年度HSP70が紫外線によるシワを防ぐこと、及びその分子機構を解明し、J. Invest. Dermatol. (皮膚科学の分野で最も評価の高い学術誌)に掲載した。これによりHSPを増やす生薬や天然物への注目が高まり、本研究の成果であるアルニカやヤバツイの様々な商品への応用が開始されている。HSP70誘導生薬(ヤバツイ)から新たに同定した、HSP70誘導物質、ユーパリノライドA, ユーパリノライドBに関しては、その成果をBiochem. Pharmacol.で発表するとともに、そのHSP誘導機構を解明した。
 またサルビアから単離したSOD誘導物質に関しては、COPDや慢性腎不全のモデルでも高い有効性を示すことを見いだした。また、HSP47誘導生薬として単離したワイルドタイムに関しては、その外用剤を開発し、抗シワ効果を確認した。一方、HO-1誘導生薬として単離した、マジョラムに関しては、肺線維症、小腸潰瘍、喘息に関する有用性を示した。さらに、ワイルドタイムからHSP47誘導物質三種、マジョラムからHO-1誘導物質二種の同定に成功した(特許出願準備中)。
結論
我々は、HSP70が紫外線によるシワを防ぐこと、及びその分子機構を解明し、J. Invest. Dermatol. (皮膚科学の分野で最も評価HSP70が紫外線によるシワを防ぐこと、及びその分子機構を解明し、J. Invest. Dermatol. (皮膚科学の分野で最も評価の高い学術誌)に掲載した。これによりHSPを増やす生薬や天然物への注目が高まり、本研究の成果であるアルニカやヤバツイの様々な商品への応用が開始されている。HSP70誘導生薬(ヤバツイ)から新たに同定した、HSP70誘導物質、ユーパリノライドA, ユーパリノライドBに関しては、その成果をBiochem. Pharmacol.で発表するとともに、そのHSP誘導機構を解明した。サルビアから単離したSOD誘導物質に関しては、COPDや慢性腎不全のモデルでも高い有効性を示すことを見いだした。HSP47誘導生薬として単離したワイルドタイムに関しては、その外用剤を開発し、抗シワ効果を確認した。HO-1誘導生薬として単離した、マジョラムに関しては、肺線維症、小腸潰瘍、喘息に関する有用性を示した。さらに、ワイルドタイムからHSP47誘導物質三種、マジョラムからHO-1誘導物質二種の同定に成功した(特許出願準備中)

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201208005B
報告書区分
総合
研究課題名
生体防御タンパク質に注目した、漢方薬の作用メカニズムの解明・有効成分の同定と新規治療薬の開発
課題番号
H22-創薬総合-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
水島 徹(慶應義塾大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 星野 竜也(慶応義塾大学 薬学部)
  • 田中 健一郎(慶應義塾大学 薬学部)
  • 大塚 雅巳(熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 池田 剛(崇城大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ゲノム創薬などにより、21世紀は新薬の開発ラッシュになると予想されていた。しかし現実には、発売される新薬の数は年々減少しており、製薬企業は医薬品開発戦略の変更を迫られている。この主な原因は臨床試験で発生する副作用であり、作用の強い医薬品より副作用の少ない医薬品を開発すべきであると考えられる。これまでの医薬品は受容体や酵素の阻害・活性化剤が主であり、生体内のバランスを大きく変えることにより副作用を導くと考えられる。そこで我々は、疾患というストレスに対して生体が自らを守るために誘導する生体防御タンパク質を増強させるタイプの医薬品が有用であると考えている。
 本研究が成功すれば、種々の難病に対する治療薬が生まれるだけでなく、新しい医薬品開発戦略(生体防御タンパク質をターゲットとする医薬品を検索する材料として漢方薬を用いる)を製薬企業へ示すことになり、大きな波及効果が期待できる。
研究方法
共同研究している中国企業(北京泰徳製薬)から得た漢方薬(生薬)ライブラリー(約600種)からHSPの誘導生薬をスクリーニングし、テプレノンよりも強力、かつ安全な数多くのHSP誘導生薬を得た(特許出願済み)。我々はこの中からヤバツイを選択し、そのHSP誘導物質の同定に成功した(特許出願準備中)。この誘導物質を小腸潰瘍、炎症性腸疾患、アルツハイマー病の動物モデルで評価したところ、テプレノンよりも強力な効果を示した。この結果は、漢方薬(生薬)ライブラリーからスクリーニングしたHSP誘導物質が医薬品として有用であることを示唆している。この漢方薬(生薬)ライブラリーをさらに充実させ、HSP誘導生薬のスクリーニングを行い、有望な生薬を複数選択する。そして、誘導物質の同定、及び動物モデルでの評価を行い、種々の疾患治療薬として開発するHSP誘導物質を決定する。最近我々は、PC-SODが間質性肺炎や炎症性腸疾患だけでなく、活性酸素による組織傷害がその主な原因となっている、腎炎、肝炎、膵炎、喘息、COPD、アトピー性皮膚炎の動物モデルにおいて有効性を示すことを見出した。そこで本研究で我々は、上述のライブラリーからSOD誘導物質を検索・同定し、種々の疾患治療薬として開発するSOD誘導物質を決定する。
結果と考察
2010年度 自ら発見したHSP誘導生薬(ヤバツイ)を化粧品として発売した。世界初のHSP誘導化粧品として評価され、この分野のトップ商品になっている。この成果を評価した北京泰徳製薬は、中国政府から特別の許可を得て、2000種以上の生薬を我々に提供してくれた。我々はこれら生薬の溶解法や投与法を確立し、2500種以上の生薬からなる生薬ライブラリーを確立した
2011年度 本研究の成果であるアルニカの特許を化粧品会社へライセンスアウトし、10月にアルニカを配合した化粧品(抗シミ化粧品)を発売した。HSP70が紫外線による傷害やシミを抑えると共に、紫外線により傷ついた皮膚を修復するという我々の研究成果(JBC 2010(2報)など)が評価され、消費者から高い評価を得ている。
2012年度 HSP70が紫外線によるシワを防ぐこと、及びその分子機構を解明し、J. Invest. Dermatol. (皮膚科学の分野で最も評価の高い学術誌)に掲載した。これによりHSPを増やす生薬や天然物への注目が高まり、本研究の成果であるアルニカやヤバツイの様々な商品への応用が開始されている。
結論
我々の研究により、数多くの有望な生薬が発見された。これにより、HSP誘導生薬の化粧品としての応用へ道を開き、実際本研究期間中に七種もの化粧品が発売された。今後は、HO-1やSODの有用性を証明し、その誘導生薬の商品化につなげる。
一方本研究でHSP70、HSP47、HO-1、SODに関する誘導生薬から誘導物質の単離に成功し、その一部のものに関しては、肺線維症、小腸潰瘍、喘息、COPD、アルツハイマー病、紫外線皮膚傷害に有効であることを示した。今後はこれらの誘導物質の医薬品としての開発を進めていく。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201208005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HSP70が紫外線によるシワを防ぐこと、及びその分子機構を解明し、J. Invest. Dermatol.に掲載した。この成果は、TV(4回)、新聞(のべ20回)、雑誌(のべ40回以上)で大きく報道され、国民の強い関心を得た。これによりHSPを増やす生薬や天然物への注目が高まり、本研究の成果であるアルニカやヤバツイの様々な商品への応用が可能になった。
臨床的観点からの成果
HSP70、及びSOD誘導生薬のスクリーニングを行った。その結果、アルニカなど10種のHSP70誘導生薬、及びサルビアなど13種のSOD誘導生薬を発見した。これらのHSP70誘導生薬は、既存のHSP70誘導薬(テプレノン)よりも強力なHSP70誘導能、及び抗潰瘍作用(マウス)を示した。またサルビアは、PC-SODよりも強力な間質性肺炎、及び炎症性腸疾患抑制効果(マウス)を示した。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
尚、本研究の成果であるアルニカの特許を化粧品会社へライセンスアウトし、アルニカを配合した化粧品(抗シミ化粧品)の発売に成功した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
10件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tanaka, K.,Yamashita, Y., Ishihara, T et al.
An ameliorative effect of mepenzolate bromide against pulmonary emphysema in mice.
Nature Communications  (2013)
原著論文2
Matsuda, M., Hoshino, T., Yamakawa, N. et al.
Suppression of UV-induced wrinkle formation by induction of HSP70 expression in mice.
J. Invest. Dermatol , 133 , 19-28  (2013)
原著論文3
Yamakawa, N., Suemasu, S., Watanabe, H.,et al.
Comparison of pharmacokinetics between loxoprofen and its derivative with lower ulcerogenic activity, fluoro-loxoprofen.
Drug Metab. Pharmacokinet.  , 28 , 118-124  (2013)
原著論文4
Tanaka, R., Watanabe, H., Kodama, A., et al.
Long-acting human serum albumin-thioredoxin fusion protein suppresses bleomycin-induced pulmonary fibrosis progression.
J. Pharmacol. Exp. Ther  (2013)
原著論文5
Nakashita, M., Suzuki, H., Miura, S., et al.
Attenuation of acetic acid-induced gastric ulcer formation in rats by glucosylceramide synthase inhibitors.
Dig. Dis. Sci. , 58 , 354-362  (2013)
原著論文6
Ishihara, T., Yamashita, Y., Takasaki, N., et al.
Prostaglandin E1-encapsulated nanoparticles improve walking activity in an experimental rat model of intermittent claudication.
J. Pharm. Pharmaco  (2013)
原著論文7
Yamashita, Y., Hanaya, K., Sugai, T., et al.
Chemo-enzymatic enantioconvergent approach toward ethyl shikimate from ethyl 5-hydroxy-3,4-isopropylidenedioxycyclohex-1-enecarboxylate.
Tetrahedron  (2013)
原著論文8
Hoshino, T., Namba, T., Takehara, M., et al
Improvement of cognitive function in Alzheimer’s disease model mice by genetic and pharmacological inhibition of the EP4 receptor.
. J. Neurochem. , 120 , 795-805  (2012)
原著論文9
Yamashita, Y., Ikeda, T., Matsuda, M., et al.
purification and characterization of hsp-inducers from eupatorium lindleyanum.
Biochem. Pharmacol. , 82 , 909-922  (2012)
原著論文10
Asano, T., Tanaka, K. Suemasu, S., et a
Effects of b-(1,3-1,6)-D-glucan on irritable bowel syndrome-related colonic hypersensitivity.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 20 , 444-449  (2012)
原著論文11
Yamakawa, N., Suemasu, S., Okamoto, Y., et al
Synthesis and biological evaluation of derivatives of 2-{2-fluoro-4-[(2-oxocyclopentyl)methyl]phenyl}propanoic acid: Non-steroidal anti-inflammatory drugs with low gastric ulcerogenic activity.
J. Med. Chem. , 55 , 5143-5150  (2012)
原著論文12
Mizushima, T
Development of NSAIDs with lower gastric side effect.
Frontier of Gastrointestinal Research , 30 , 71-78  (2012)
原著論文13
Tanaka, K., Azuma, A., Miyazaki, Y., et al.
Effects of lecithinized superoxide dismutase and/or pirfenidone against bleomycin-induced pulmonary fibrosis. Chest 142, 1011-1019
Chest , 142 , 1011-1019  (2012)
原著論文14
Tanaka, K. Shirai, A., Ito, Y., et al.
Expression of 150-kDa oxygen-regulated protein (ORP150) stimulates bleomycin-induced pulmonary fibrosis and dysfunction in mice.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 425 , 818-824  (2012)
原著論文15
Suemasu, S., Yamakawa, N., Ishihara, T., et al.
Identification of a unique NSAID, fluoro-loxoprofen with gastroprotective activity.  
Biochem. Pharmacol. , 84 , 1470-1481  (2012)
原著論文16
Hoshino, T., Murao, N., Namba, T., et al.
Suppression of Alzheimer’s disease-related phenotypes by expression of heat shock protein 70 in mice. J. Neurosci.
J. Neurosci. , 31 , 5225-5234  (2012)
原著論文17
Takehara, M., Hoshino, T., Namba, T., et al.
Acetaminophen-induced differentiation of human breast cancer stem cells and inhibition of tumor xenograft growth in mice.
Biochem. Pharmacol , 81 , 1124-1135  (2011)
原著論文18
Mizushima T.
Drug discovery and development focusing on existing medicines: Drug re-profiling strategy
J. Biochem. , 49 , 499-505  (2011)
原著論文19
Tanaka, K., Tanaka, Y., Miyazaki, Y., et al
Therapeutic effect of lecithinized superoxide dismutase on pulmonary emphysema.
J. Pharmacol. Exp. Ther. , 338 , 810-818  (2011)
原著論文20
Ishihara, T., Suemasu, S., Asano, T., et al.
Stimulation of gastric ulcer healing by heat shock protein 70.
Biochem. Pharmacol. , 82 , 728-736  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201208005Z