漢方薬による免疫がん微小環境の改善と作用機序の解明

文献情報

文献番号
201208003A
報告書区分
総括
研究課題名
漢方薬による免疫がん微小環境の改善と作用機序の解明
課題番号
H22-創薬総合-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
河上 裕(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤 千恵(慶應義塾大学 医学部 )
  • 藤田 知信(慶應義塾大学 医学部 )
  • 塚本 信夫(慶應義塾大学 医学部 )
  • 渡辺 賢治(慶應義塾大学 医学部 )
  • 山本 雅浩(慶應義塾大学 医学部 )
  • 木内 文之(慶應義塾大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、がん免疫療法の開発を目的としたがん免疫応答の解析において、担がん生体の全身性及び局所的な免疫抑制環境が免疫療法の効果を減弱することを示し、その機序として、がん細胞の恒常的シグナル活性化が免疫抑制性サイトカインの産生や免疫抑制性細胞の誘導に関わること、シグナル阻害剤によりがん免疫抑制環境の改善と抗腫瘍免疫応答の増強が可能なことを見いだしてきた。そこで本研究では、新しい科学的視点から、担がん生体免疫抑制環境の改善と抗腫瘍免疫の増強に有効な漢方処方や成分を同定して創薬につなげることを目的とした。具体的には、漢方処方や成分のがん免疫応答への作用をin vivoで解析するとともに、抽出や合成された漢方成分の中からがん細胞や免疫細胞のシグナル伝達分子や転写因子に作用してがん免疫応答を改善する成分を探索した。本研究の成果は、標準がん治療との併用やQOLの向上を目指したがん治療薬の創薬に直結して、国民の健康・医療、さらに産業に貢献できると期待される。
研究方法
抽出・合成された漢方成分からヒトがん細胞や各種免疫細胞の腫瘍免疫抑制的な性質を阻害する成分をin vitroで探索した。さらにその標的分子の同定から作用機序を解析し、がん微小環境の免疫抑制病態の改善や抗腫瘍免疫応答の増強に有用な漢方成分の候補を選択した。次に、マウス腫瘍モデルを用いて、漢方処方あるいは同定した漢方成分の経口投与や全身性投与により、in vivoでの免疫抑制的がん微小環境への作用を解析した。最終的に、同定した漢方処方や成分の併用によるがん免疫療法の効果増強作用を検討して臨床試験を計画した。本年度は、担がんマウスモデルに用いるマウスがん細胞株のSTAT3,ERK,NF-kB,AhRの各シグナルの活性化状態を評価し、免疫抑制的がん微小環境におけるAhRの役割を解明し、その阻害による効果を明らかにした。また担がんマウスモデルを用い、選定された複数の候補漢方成分のin vivo作用を検討した。
結果と考察
マウスがん細胞株について、サイトカイン産生、シグナル活性化を解析し、選定した漢方成分の評価にMC38大腸癌移植C57BL/6マウスモデル、あるいはCT26大腸癌移植Balb/cマウスモデルが有用であると判断した。ヒト腎がん、悪性黒色腫、卵巣がん細胞株からのIL-6、VEGF、IL-8産生をAhR阻害剤が抑制し、AhRが活性化したマウスがん細胞株を移植したマウスでは抗原特異的T細胞応答が低下した。これらは、担がん生体でのAhR阻害が抗腫瘍免疫応答増強に有効であることを示す。これまでに選定された漢方成分のうち11種類を担がんマウスに投与し、in vivo効果の詳細な検討を進めた結果、6種類の漢方成分において腫瘍増殖抑制、5種類の漢方成分において抗腫瘍免疫応答の増強がみられた。特に有効であると判断した4成分に関して、臨床応用を視野に入れた研究を進めており、そのうち1つの漢方成分は、他疾患に用いられている既存薬でもあり、がん細胞でのERKやSTAT3の阻害作用や樹状細胞からのIL-10産生抑制作用を示し、今後の臨床試験を検討している。また別の漢方成分は、企業から高吸収性製剤の提供を受け、ヒト卵巣明細胞性腺がん移植マウスモデルを用いて、製剤の投与がin vivoでIL-6の抑制と樹状細胞の機能回復に有効であることを示したので、がんに対する臨床試験を計画した。
結論
昨年度までに、NF-kB、STAT3、ERKなどを標的としてヒトがん細胞からの免疫抑制性サイトカイン産生を抑制する成分、免疫抑制性Treg分化を抑制するがTh1分化を阻害しない成分、AhRを標的として免疫抑制性サイトカイン産生やがん細胞の浸潤転移を抑制する成分を同定した。これらのうち11種類の成分を担がんマウスへ投与し、in vivo効果の詳細な検討を進めた結果、6種類で腫瘍増殖の抑制を認め、また5種類で抗腫瘍免疫応答の増強がみられた。特に有効と判断した4種類に関して、臨床応用を視野に入れて研究を進めており、1つの漢方成分は、他疾患に対する既存薬でもあり、がん細胞でのERKやSTAT3の阻害作用や樹状細胞からのIL-10産生抑制作用を示すので今後の臨床試験を検討している。もう1つの漢方成分は、がん患者を対象に、IL-6抑制によるがん治療あるいは悪液質の改善(緩和医療)を目的とした臨床試験を企業と共同で進めている。他の有望な成分についても、臨床用製剤の検討とがんに対する臨床試験を検討している。また、同定した成分をリード化合物としたより有効な化合物の開発も検討している。したがって、本研究により担がん生体の免疫抑制環境の改善と抗腫瘍免疫の増強に有効な漢方成分を同定し、がん治療や緩和治療として、がん医療に貢献できる創薬につながる具体的な成果を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201208003B
報告書区分
総合
研究課題名
漢方薬による免疫がん微小環境の改善と作用機序の解明
課題番号
H22-創薬総合-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
河上 裕(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤 千恵(慶應義塾大学 医学部 )
  • 藤田 知信(慶應義塾大学 医学部 )
  • 塚本 信夫(慶應義塾大学 医学部 )
  • 渡辺 賢治(慶應義塾大学 医学部 )
  • 山本 雅浩(慶應義塾大学 医学部 )
  • 木内 文之(慶應義塾大学 薬学部)
  • 今津 嘉宏(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、がん免疫療法の開発を目的としたがん免疫応答の解析において、担がん生体の全身性及び局所的な免疫抑制環境が免疫療法の効果を減弱することを示し、その機序として、がん細胞の恒常的シグナル活性化が免疫抑制性サイトカインの産生や免疫抑制性細胞の誘導に関わること、シグナル阻害剤によりがん免疫抑制環境の改善と抗腫瘍免疫応答の増強が可能なことを見いだしてきた。そこで本研究では、新しい科学的視点から、担がん生体免疫抑制環境の改善と抗腫瘍免疫の増強に有効な漢方処方や成分を同定して創薬につなげることを目的とした。具体的には、漢方処方や成分のがん免疫応答への作用をin vivoで解析するとともに、抽出や合成された漢方成分の中からがん細胞や免疫細胞のシグナル伝達分子や転写因子に作用してがん免疫応答を改善する成分を探索した。本研究の成果は、標準がん治療との併用やQOLの向上を目指したがん治療薬の創薬に直結して、国民の健康・医療、さらに産業に貢献できると期待される。
研究方法
抽出・合成された漢方成分からヒトがん細胞や各種免疫細胞の腫瘍免疫抑制的な性質を阻害する成分をin vitroで探索した。さらにその標的分子の同定から作用機序を解析し、がん微小環境の免疫抑制病態の改善や抗腫瘍免疫応答の増強に有用な漢方成分の候補を選択した。次に、マウス腫瘍モデルを用いて、漢方処方あるいは同定した漢方成分の経口投与や全身性投与により、in vivoでの免疫抑制的がん微小環境への作用を解析した。最終的に、同定した漢方処方や成分の併用によるがん免疫療法の効果増強作用を検討して臨床試験を計画した。
結果と考察
十全大補湯や小柴胡湯の経口投与では、腫瘍縮小効果はわずかであるが、抗腫瘍性リンパ球増加や免疫抑制性細胞の減少など、担癌生体の免疫抑制環境を改善する傾向を認めたが、その効果は弱かった。ヒトがん細胞からのIL-6, IL-10, VEGF, TGF-betaなどの免疫抑制性サイトカインの産生を抑制する漢方成分、また、誘導性制御性T細胞(Treg)の分化を抑制するが抗腫瘍免疫に重要なTh1分化を抑制しない漢方成分を同定した。IL-6産生を抑制した複数の漢方成分にはNF-kB抑制作用がみられ、IL-6やIL-10の産生を抑制した複数の漢方成分にはSTAT3やERKの抑制作用を見出した。がん細胞やがん組織浸潤リンパ球ではAhRが活性化されており、AhRが活性化したがん細胞を移植したマウスでは抗原特異的T細胞応答が低下するので、担がん生体でのAhR阻害が抗腫瘍免疫応答増強に有効である可能性が見いだされた。そこでAhRアンタゴニストとして作用する成分を同定するスクリーニング系を開発して、AhRアンタゴニストとして作用をもつ漢方成分を同定した。同定した漢方成分はがん細胞の転移浸潤能を抑制するだけでなく、ヒトがん細胞からの免疫抑制性サイトカインの産生を抑制し、がん免疫病態の改善薬となる可能性が示された。上記のように同定した複数の漢方成分を担がんマウスに投与し、腫瘍増殖、免疫細胞分画、腫瘍抗原特異的T細胞応答を解析した結果、腫瘍増殖を抑制する成分や抗腫瘍免疫応答を増強する成分を複数同定した。そのうち特に有望な4成分は、臨床応用を目指した研究を進め、1漢方成分は、他疾患に対する既存薬でもあり、がん細胞でのERKやSTAT3の阻害作用や樹状細胞からのIL-10産生抑制作用を示すので今後の臨床試験を検討している。もう1つの漢方成分は、高吸収性製剤を開発した企業と共同でがん患者に対する臨床試験を計画した。他の2成分に関しても、今後の臨床試験の検討、およびそれらをリード化合物としたより有効な化合物の開発を検討している。
結論
本研究では、ヒトがん細胞、あるいは免疫細胞などで異常活性化を起こすMAPKやSTAT3などのシグナル伝達分子や、NF-kBやAhRなどの転写因子に対する阻害作用をもち、ヒトがん細胞からの免疫抑制性サイトカイン産生の抑制や免疫抑制性Tregの抑制を介して、マウス腫瘍モデルで抗腫瘍免疫応答を増強する作用をもつ複数の漢方成分化合物の同定に成功した。特に有望な4成分は、臨床応用を目指した研究を進め、1漢方成分は他疾患に対する既存薬でもあり、今後の臨床試験を検討している。別の1漢方成分は、高吸収性製剤を開発した企業と共同でがん患者に対する臨床試験を計画している。他の2成分も、今後の臨床試験の検討、およびそれらをリード化合物としたより有効な化合物の開発を検討している。したがって、本研究により担がん生体の免疫抑制環境の改善と抗腫瘍免疫の増強に有効な漢方成分を同定することができ、今後、がん治療や緩和治療として、がん医療に貢献できる創薬に向けた具体的な成果を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201208003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、漢方処方に含まれる多数の漢方成分化合物から、生体内での免疫病態改善作用や抗腫瘍効果増強作用をもち、将来の臨床応用に有用と考えられる4漢方化合物の同定に成功した。その後の研究から、この中の化合物Bは、腫瘍抗原特異的T細胞の誘導増強作用をもち。CD8+T細胞依存的な抗腫瘍効果を増強すること、併用により樹状細胞ワクチンの効果を増強すること、また化合物Aも腫瘍抗原特異的T細胞の誘導増強効果をもち、抗PD-L1抗体の抗腫瘍効果を増強することがマウス実験から明らかになった。
臨床的観点からの成果
化合物Aは高吸収性製剤を開発した企業と共同で、がん悪液質改善作用を検討する医師主導臨床試験を計画し倫理委員会に承認され開始された。本臨床試験の結果により、今後がん治療を目的とした臨床試験の計画を検討予定である。化合物Bは他疾患に対する既存薬でもあり、がんに対する臨床試験を検討している。また同定化合物をリード化合物としたがん治療薬開発も検討中である。本成果は、標準がん治療との併用による治療効果増強や緩和療法として患者QOL向上を目指す創薬につながり、国民の健康・医療に大きく貢献する可能性がある。
ガイドライン等の開発
医療における漢方薬の意義を科学的観点から検証したテータはまだ少なく、本研究成果は 将来、漢方薬のガイドライン等が作成されるときの参考になる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
医療における漢方薬の意義を科学的観点から検証したテータはまだ少なく、本研究成果は 将来、漢方医療が厚労行政的観点から検討される場合に参考になる可能性がある。
その他のインパクト
今後の臨床試験で良い結果が得られた場合は、マスコミ等に取り上げられる可能性もある。

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201208003Z