認知症疾患モデル「TDP-43脳脊髄異常蓄積マウス」の開発

文献情報

文献番号
201208002A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症疾患モデル「TDP-43脳脊髄異常蓄積マウス」の開発
課題番号
H22-創薬総合-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 治彦(公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川 成人(公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
TDP-43は不均一核リボ蛋白質の一種で,タウ陰性前頭側頭葉変性症(FTLD)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の脳脊髄に特異的に異常蓄積するほか,アルツハイマー病やレヴィー小体型認知症をはじめ様々な認知症疾患の約3分の1から半数において大脳への蓄積が認められる.そこで中枢神経系に,TDP-43の異常蓄積を生じるモデルマウスを作出する.さらに,培養細胞モデル,マウスモデルを核とする,TDP-43異常蓄積疾患治療薬開発のための薬剤候補化合物スクリーニングシステムを構築し,試験的に少数の化合物についてスクリーニングを行うとともに,創薬企業に採用を働きかける.
研究方法
前年度までの研究結果により,家族性ALSの原因となるTDP-43遺伝子変異を導入したり,改変TDP-43(C末端側断片,核移行シグナル欠損など)を導入したりしたトランスジェニックマウス(Tg)では,ヒト病態を再現できないことが明らかになった.そこで,TDP-43-Tgと(家族性FTLD-TDPの原因であるプログラニュリン(GRN)変異をシミュレートする)GRN(-/-)マウスとの交配によるGRN抑制,テトラサイクリンによる発現調整系TDP-43-Tg(tetOn,tetOff)の作出,ヒト剖検脳不溶画分由来の異常TDP-43凝集シードの投与モデルの作出を行った.またTDP-43培養細胞モデルで凝集体形成抑制効果が認められたmethylene blue(MB)を,tau-Tg(P301L)に経口投与して,tau凝集・蓄積抑制の効果を調べた.
結果と考察
【結果】従来型のTDP-43-Tgでは,GRN(-/-)マウスとの交配によるGRN産生抑制を負荷してもヒト疾患脳に匹敵するほどに高度なTDP-43異常蓄積は生じなかった(免疫組織化学染色で稀に異常リン酸化TDP-43の蓄積を観察できる程度であった).tetOn,tetOffそれぞれの発現時期調整系TDP-43-Tgは,作出には成功しOn後の蛋白発現の確認ができたが,現時点では加齢後の解析を行いうる月齢には達していない.また剖検脳由来異常TDP-43シード注入マウスも,術後まだ間もなく,tauやαsynucleinのシード投与マウスモデルにおいて有意な凝集体形成が認められるようになる時期に達したマウスは得られていない.MBの経口投与はtau-Tg(P301L)の異常tau蓄積を有意に減少させ,TDP-43とtauの凝集体形成に対する抑制効果に交叉性があることが示唆された.
【考察】前年度までの研究とあわせ,これまでに試みた一般的なTg作製法ではTDP-43異常蓄積マウスモデルの作製は難しいことが明らかになった.今後も,導入TDP-43遺伝子発現のon/off制御やシード投与モデルなどを用いたマウスモデル作製研究を継続する必要がある.一方,MBがTDP-43培養細胞モデル,tau-Tgの両方で異常凝集体形成抑制作用を示したこと,tauの培養細胞モデルはシード添加が必要であり多数の化合物ライブラリのスクリーニングには向いていないこと,逆にTDP-43培養細胞モデルはハイスループットのシステムを我々が既に開発済みであることから,この凝集抑制作用の交叉性を利用した培養細胞モデル・マウスモデルの組合せを創薬に利用することが可能であると推測された.
結論
一般的なTg作製法ではTDP-43異常蓄積マウスモデルの作製は難しい.そこで,TDP-43異常蓄積マウスモデルの改良を継続するとともに,当面はTDP-43培養細胞モデルとtau-Tgとの組合せ,複数の異なるTDP-43培養細胞モデルの組み合わせを利用した治療薬開発を進めるのが実用的である.

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201208002B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症疾患モデル「TDP-43脳脊髄異常蓄積マウス」の開発
課題番号
H22-創薬総合-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 治彦(公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川 成人(公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
TDP-43は不均一核リボ蛋白質の一種で,タウ陰性前頭側頭葉変性症(FTLD)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の脳脊髄に特異的に異常蓄積するほか,アルツハイマー病やレビー小体型認知症など様々な認知症疾患の約3分の1から半数において大脳への蓄積が認められる.異常蓄積したTDP-43は異常リン酸化,凝集・不溶化,断片化など,タウやαシヌクレインと同様の修飾を受けている.すなわち,これら蛋白質の細胞内異常蓄積の機序には共通部分がある可能性が高く,治療法も相互に類似することが予想される.そこでTDP-43異常蓄積モデルマウスを作出し,そのマウスを含めてTDP-43異常蓄積を抑制する薬剤候補化合物のスクリーニング系を構築し,認知症治療薬開発の基盤とする.
研究方法
ヒトTDP-43(野生型,家族性ALSの変異導入,核移行シグナル欠損,C末側断片など)のcDNAをマウスthy1プロモーターとともにC57BL/6Jマウスの胚の前核に導入,トランスジェニック(Tg)マウスを作製した.さらに,東京大学大学院農学生命科学研究科西原真杉教授が開発したGRNノックアウト(KO)マウスをTDP-43-Tgマウスと交配させ,プログラニュリン産生を抑制した(=家族性FTLDの変異効果の再現)TDP-43-Tgマウスを作製した.また,テトラサイクリンによる発現調整系TDP-43-Tg(tetOn,tetOff)マウス,ヒト剖検脳不溶画分由来の異常TDP-43凝集シードの投与モデルの作製も行った.これらと並行してTDP-43異常蓄積培養細胞モデルで既存化合物の凝集体形成抑制作用をスクリーニングし,有効であったmethylene blue(MB)を,tau-Tg(P301L)に経口投与して,tau凝集・蓄積抑制の効果を調べた.
結果と考察
ヒトTDP-43蛋白質を発現する複数の系統のTgマウスを樹立した.これらのマウスには生後早期から後肢の不全麻痺が出現し,以後あまり進行せずに加齢する系統と,そのような症状が出現しない系統とがあった.いずれの系統においても異常リン酸化TDP-43は生化学的には検出できなかったが,複数の系統において加齢後に組織学的に抗リン酸化TDP-43抗体(pS403/404,p409/410),抗ユビキチン抗体で陽性に染色される細胞質封入体が少数見出された.しかし創薬の過程でスクリーニングに使用するには数が少ないと判断された.GRN-KOマウスはそれ自体の中枢神経系の変化は軽度で,間脳や脊髄にp62/ユビキチン陽性構造が出現するものの,ヒトGRN変異例のようにTDP-43異常蓄積は認められなかった.このGRN-KOマウスと,複数系統のTDP-43-Tgマウスとを交配させたが,ヒト疾患に相当するほどのTDP-43異常蓄積を再現することはできなかった.発現時期調整系(tetOn,tetOff)TDP-43-Tgは,作出には成功しOn後の蛋白発現の確認ができたが,現時点では加齢後の解析を行いうる月齢には達していない.また剖検脳由来異常TDP-43シード注入マウスも,術後まだ間もなく,tauやαsynucleinのシード投与マウスモデルにおいて有意な凝集体形成が認められるようになる時期に達したマウスは得られていない.MBの経口投与はtau-Tg(P301L)の異常tau蓄積を有意に減少させ,TDP-43とtauの凝集体形成に対する抑制効果に交叉性があることが示唆された.
一般的なTg作製法ではTDP-43異常蓄積マウスモデルの作製は難しいことが明らかになった.多くTDP-43-Tgマウス系統に見られる生直後から後肢麻痺は発生段階における過剰発現ヒトTDP-43の影響で,ヒト疾患とは関係ないと思われる.今後も,導入TDP-43遺伝子発現のon/off制御やシード投与モデルなどを用いたマウスモデル作製研究を継続する必要がある.一方,MBがTDP-43培養細胞モデル,tau-Tgの両方で異常凝集体形成抑制作用を示したこと,tauの培養細胞モデルはシード添加が必要であり多数の化合物ライブラリのスクリーニングには向いていないこと,逆にTDP-43培養細胞モデルはハイスループットのシステムを我々が既に開発済みであることから,この凝集抑制作用の交叉性を利用した培養細胞モデル・マウスモデルの組合せを創薬に利用することが可能であると推測された.
結論
一般的なTg作製法ではTDP-43異常蓄積マウスモデルの作製は難しい.そこで,TDP-43異常蓄積マウスモデルの改良を継続するとともに,当面はTDP-43培養細胞モデルとtau-Tgとの組合せ,複数の異なるTDP-43培養細胞モデルの組み合わせを利用した治療薬開発を進めるのが実用的であると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201208002C

収支報告書

文献番号
201208002Z