文献情報
文献番号
201207015A
報告書区分
総括
研究課題名
悪性中皮腫のヒト化CD26抗体療法の確立及び化学療法剤の有効性評価に有用な新規疾患関連バイオマーカーの開発
課題番号
H24-バイオ-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
森本 幾夫(順天堂大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 山田 健人(慶應義塾大学 医学部)
- 岸本 卓巳(岡山労災病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我々はヒト化CD26抗体を開発し、フランスで悪性中皮腫を中心とした第I相臨床試験を実施中で、第4コホートまで有害事象もなく終了し、第5コホート(4mg/kg)がスタートし期待される結果も得られつつある。悪性中皮腫へのCD26抗体療法適用のため病理組織標本でのCD26発現評価可能な単クローン抗体の開発は必須である。CD26の発現評価は化学療法剤の治療効果予測因子となり得るという結果も得ている。CD26は可溶性CD26(sCD26)/DPPIVとして血清中に存在するが、本抗体がsCD26と反応しその値が減少する可能性もあり、sCD26、DPPIV値のモニタリングはヒト化CD26抗体療法を安全に行うために必須である。本研究では、(1)ヒト化CD26抗体療法確立のため組織上のCD26検出法の確立とその評価、(2)CD26発現が治療効果予測因子となり得るかの評価、(3)ヒト化CD26抗体療法下でのsCD26/DPPIV測定法の確立とその評価を行う。本研究を通じてCD26抗体療法を有効かつ安全に行うためのコンパニオン診断薬やサリゲートマーカーの確立を行う。
研究方法
(1)組織染色可能単クローンCD26抗体の開発:可溶性CD26をUreaで変性させ免疫し、ハイブリドーマを作製し培養上清をフローサイトメトリー、ELISAによりスクリーニングする。
(2)免疫組織染色:ホルマリン固定パラフィン包埋切片から標本を準備し、パラフィンを溶かし、オートクレーブなどを行い抗原賦活化を行い一次抗体、二次抗体を加え、染色して顕微鏡で観察。
(3)患者検体の解析:悪性中皮腫として診断治療を受けた108症例で、化学療法例73例である。CD26組織染色は(2)と同様であるがNovus社のCD26ポリクローナル抗体を用いた。
(4A)可溶性CD26の測定:96穴プレートにCD26抗体5F8を分注して、対象血清(ヒト化CD26抗体添加あるいは無添加)及び組み換え可溶性CD26を加え、検出抗体(ビオチン化CD26抗体9C11あるいは1F7)を分注し、ExtrAvdir-Alkaline Phosphatase及びPNPPを加え、プレートリーダーで吸光度を測定(吸光度405nm、レファレンス655nm)。(4B)DPPIV活性の測定:可溶性CD26測定と同様であるが検体を加えてから Gly-Pro-pNAを添加し、プレートリーダーで吸光度を測定してDPPIV活性(μM/min)を計測する。
(2)免疫組織染色:ホルマリン固定パラフィン包埋切片から標本を準備し、パラフィンを溶かし、オートクレーブなどを行い抗原賦活化を行い一次抗体、二次抗体を加え、染色して顕微鏡で観察。
(3)患者検体の解析:悪性中皮腫として診断治療を受けた108症例で、化学療法例73例である。CD26組織染色は(2)と同様であるがNovus社のCD26ポリクローナル抗体を用いた。
(4A)可溶性CD26の測定:96穴プレートにCD26抗体5F8を分注して、対象血清(ヒト化CD26抗体添加あるいは無添加)及び組み換え可溶性CD26を加え、検出抗体(ビオチン化CD26抗体9C11あるいは1F7)を分注し、ExtrAvdir-Alkaline Phosphatase及びPNPPを加え、プレートリーダーで吸光度を測定(吸光度405nm、レファレンス655nm)。(4B)DPPIV活性の測定:可溶性CD26測定と同様であるが検体を加えてから Gly-Pro-pNAを添加し、プレートリーダーで吸光度を測定してDPPIV活性(μM/min)を計測する。
結果と考察
市販及び我々が開発したCD26単クローン抗体についてスクリーニングしたが組織染色可能なものは選択できなかった。Ureaで変性させた可溶性CD26を用いてハイブリドーマを作製し、Flow cytometer、ELISAでクローンを絞り込み、更に組織染色を行いポリクローナルCD26抗体の組織染色を行う条件を用いてポリクローナル抗体とほぼ同等の染色パターンをとる3クローンを選択した。これらはMBL社の組織染色可能とされているclone44-4よりははるかに優れていた。3クローンは培養上清であるので更に精製を行い種々の組織を染色して条件検討を行う。今までのCD26単クローン抗体開発はCD26陽性細胞をマウスに免疫して開発したが今回Urea変性可溶性CD26を免疫することで病理組織上のCD26発現を同定できる単クローン抗体を得ることが出来たことは大きな収穫であった。悪性中皮腫のCD26発現評価がCD26の化学療法剤効果予測因子になるかに関して更に症例数を増加して検討した結果CD26の発現が高いほど良好な治療効果が得られ、またCD26陽性群は陰性群よりも有意に生存延長が認められ、CD26発現評価は化学療法治療予測因子となり得る可能性がより強く示唆された。その機序としてCD26陽性、陰性中皮腫株のマイクロアレイ解析でCD26発現は細胞増殖、周期、アポトーシス、化学療法剤抵抗性に関する遺伝子群に密接に関与していることが示唆された。従来のELISA系に用いた5F8、1F7及びヒト化CD26抗体のいずれとも異なるCD26単クローン抗体9C11を同定し、ヒト化CD26抗体を正常人血清に加えた系においてこの抗体を用いたELISA系でsCD26が測定可能であり、更に最適の条件も確立できた。血清中の可溶性CD26はDPPIV酵素を含みDPPIV阻害薬は糖尿病治療薬として広く用いられていることからヒト化抗体投与後の可溶性CD26/DPPIV値をモニターリングすることは抗体療法を安全に行うために重要である。
結論
我々は病理組織染色可能なCD26単クローン抗体を開発でき、更にヒト化CD26抗体治療下でも血清の可溶性CD26/DPPIV値をモニターリング出来る新しいELISA系を開発できた。
公開日・更新日
公開日
2013-08-13
更新日
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