重症薬疹の病態解明および発症予測、重症度予測マーカーの検索

文献情報

文献番号
201207013A
報告書区分
総括
研究課題名
重症薬疹の病態解明および発症予測、重症度予測マーカーの検索
課題番号
H24-バイオ-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 理一郎(北海道大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 片山 一朗(大阪大学 医学系研究科)
  • 戸倉 新樹(浜松医科大学医学部)
  • 秋山 真志(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 小豆澤 宏明(大阪大学 医学系研究科)
  • 藤原 道夫(アステラス製薬(株) 安全性研究所(非臨床安全性評価))
  • 串間 清司(アステラス製薬(株) 安全性研究所(非臨床安全性評価))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重症薬疹(中毒性表皮壊死症:TEN、Stevens-Johnson症候群:SJS)は時に致死的疾患であり、高率に眼障害などの重篤な後遺症を残す。重症薬疹の発症機序についてはいまだ不明なことが多い。特に重症薬疹のモデル動物がなく、研究のほとんどが患者サンプルを用いてしか行えず、病態解明が進んでいない。最近我々は重症薬疹患者末梢血を免疫不全マウスに静注することによって重症薬疹モデルマウスの作成に成功した。一方、重症薬疹発症における重要な現象の表皮細胞死の発生メカニズムについて、これまでアポトーシスによる細胞死であると考えられてきた。しかしその詳細は未だ不明な点が多い。本研究課題において、重症薬疹モデルマウス,患者サンプルあるいはTG-GATEsを用いて病態発症のメカニズムを解明し、新規の早期診断および治療法の開発に結びつけることを目的とする。
研究方法
これまでの重症薬疹発症機序に対する研究では、薬剤特異的cytotoxic T cellが表皮細胞死を誘導することから、重症薬疹で引き起こされる表皮細胞死はapoptosisであるとされてきた。しかし、実際の患者由来表皮細胞を用いた検討はほとんどみられない。本研究課題において、重症薬疹患者からの培養表皮細胞に、同患者の末梢血単核球(PBMC)を原因薬剤で刺激した培養の上清を添加することで、表皮細胞死が生じるか観察する。同様に通常薬疹患者の培養表皮細胞、PBMCにおいても検討する。原因薬剤で刺激された重症薬疹患者PBMCの培養上清が、重症薬疹患者のみならず、健常人由来表皮細胞の細胞死を誘導するならば、重症薬疹患者PBMCの培養上清中に細胞死を誘導する液性因子が含まれていることを示唆する。一方重症薬疹患者由来表皮細胞は、重症薬疹患者PBMCの培養上清のみならず、通常薬疹患者PBMC培養上清添加にても細胞死を誘導されるのであれば、重症薬疹患者表皮細胞に細胞死感受性の高い特徴があることが示唆される。その他,TG-GATEsを活用して重症薬疹の発症に関連する遺伝子変動を解析していくために,TG-GATEsに収集されている薬剤リストを整理し,SJSあるいはTENの発症頻度の高い薬剤のリストアップを行う。
結果と考察
表皮細胞は重症薬疹患者(SJS)または健常人から採取し培養した。培養上清はSJSおよび通常薬疹PBMCから得て、それぞれの組み合わせで添加し、細胞死を観察した。SJS表皮細胞はSJS-PBMC培養上清添加にて細胞死が誘導された。しかし予想に反して健常人表皮細胞はSJS-PBMC培養上清添加にて細胞死は誘導されなかった。さらにSJS表皮細胞は通常薬疹PBMC培養上清添加では細胞死は誘導されなかった。以上の結果から重症薬疹の表皮細胞死には、PBMCから産生される液性因子と、表皮細胞の細胞死感受性がいずれも不可欠であると考えられる。加えて,TG-GATEsに収集されているSJS,TENの報告が多い薬剤についても共通して変動する遺伝子の抽出を開始した。
・薬疹患者の末梢血単核球を用いてB細胞分画の解析:播種状紅斑丘疹型2例、多形紅斑型3例、SJS疑い1例、TEN 1例、DIHS疑い5例について、末梢血単核球の保存と血清保存をおこなった。
・モデルマウスを用いたregulatory T cellの検討:OT-I細胞が認識するSIINFEKLおよび改変ペプチドリガンドをOT-I細胞に添加し、培養することで細胞分裂がみられることは、確認できたが、インターフェロンの産生を検出する方法については検討が必要であった。
薬疹において皮膚に浸潤したT細胞の形質とサイトカイン産生などの機能の解析:浮腫性紅斑を主徴としたDIHSでは、CD4陽性T細胞が優位であるのに対して、浸出性紅斑を主徴とした多型紅斑型の薬疹ではCD8陽性T細胞が優位であった。本研究の成果から、重症薬疹モデルマウスを用いて治療法効果を検討することができ、モデルマウス病変部の解析で発症メカニズムを明らかにすることができた。特に表皮細胞死において疾患特異的な現象が起こることはこれまで全く報告もなく、極めて画期的知見である。この細胞死のメカニズムを解明できれば、発症誘導する遺伝的背景の存在が予想されることから発症予見因子を明らかにすることも期待できる。さらに細胞死の機序の一部を阻害することで新規治療法の開発が可能になる。
結論
 新規に開発した重症薬疹モデルマウスは様々な病態解析に加え、治療研究などに用いることもでき、臨床への応用が期待できる。
 重症薬疹における新規の細胞のメカニズムは、重症薬疹特異的治療法の開発に直接結び付くと期待される。さらに重症薬疹jの発症因子としても応用できることが予想される。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201207013Z