文献情報
文献番号
199800043A
報告書区分
総括
研究課題名
コレステリルエステル転送蛋白 (CETP) 欠損症の集簇する地域集団の発見とその動脈硬化惹起性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
平野 賢一(大阪大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
粥状動脈硬化症の治療法の開発は現代循環器学の最も大きな命題の一つである。動脈硬化の発症進展には、低比重リポ蛋白(LDL)の増加、変性などの動脈硬化惹起、促進因子と高比重リポ蛋白(HDL)などの動脈硬化防御因子の平衡関係の破綻が重要な役割を果たすと考えられる。動脈硬化惹起機構は、家族性高コレステロール血症 (FH) の発見によって飛躍的に解明されたが、それには、カナダケベック州の French Canadian などに見られるFH の集積地域の情報収集が大きく貢献している。一方、HDLが主役をなす動脈硬化防御機構の解明は未だ充分でない。CETP 欠損症は、比較的頻度の高いHDL 代謝異常症で動脈硬化防御機構異常のモデル疾患である。本邦においてのみ報告されているCETP 欠損症の病態を解明することはわが国の研究者に課せられた使命である。本研究は、申請者らが発見したCETP 欠損症の集積地域において多数の家系の情報収集し、死因、動脈硬化性疾患の有病率、動脈硬化病変の定量的評価などを行うことにより、その病態の解明及び治療法の開発を目的とするものであり、本研究が完遂されれば、わが国固有の病態ともいえるCETP 欠損症の病態解明、のみならず動脈硬化防御機構の賦活を介する斬新で動脈硬化の退縮をも期待できる治療法の開発、ひいては動脈硬化性疾患の発症率の減少をも期待できる。
研究方法
我々はすでに約10万人の循環器基本検診を基盤に、本地域においては、高HDL血症の頻度が他の地域に比して5ー10倍高く、さらにその成因としてCETP 遺伝子イントロン14スプライス異常が極めて高頻度に認められることを発見報告した 。本研究ではすでに協力関係にある同地域の施設と共同で住民を対象にさらに以下の如くの独創的研究を行った。
1)同地域におけるCETP 遺伝子イントロン14スプライス異常及びエクソン15ミスセンス変異の頻度についてさらに詳細に明らかにした。DNA は末梢白血球より既報の方法により分離した。CETP遺伝子の分析方法は、我々がすでに実用化している変異を含むプライマーを用いた PCR-RFLP 法によった。
2)症例のCETP 活性、CETP蛋白量を既報の方法にて測定した。
3)本地域で、冠動脈造影を行い有意狭窄を認めた症例の連続的検討を行い、狭窄群と非狭窄群におけるCETP 遺伝子変異の頻度を検討した。
4)CETP 欠損症例及び正常対象群において、頚動脈エコー、経食道エコーにより動脈硬化性病変を定量化した。
5)幾つかのCETP 欠損症家系によっては、脳血管障害が多発するものが存在することを申請者らは報告している。そこで本研究で見いだされたCETP 欠損症症例において脳血管障害の有病率、既往歴、MRI 法による脳血管病変について検討した。
6)家族性高コレステロール血症、家族性複合型高脂血症を合併したCETP 欠損症において動脈硬化性疾患の有病率、冠動脈病変の程度について検討した。
1)同地域におけるCETP 遺伝子イントロン14スプライス異常及びエクソン15ミスセンス変異の頻度についてさらに詳細に明らかにした。DNA は末梢白血球より既報の方法により分離した。CETP遺伝子の分析方法は、我々がすでに実用化している変異を含むプライマーを用いた PCR-RFLP 法によった。
2)症例のCETP 活性、CETP蛋白量を既報の方法にて測定した。
3)本地域で、冠動脈造影を行い有意狭窄を認めた症例の連続的検討を行い、狭窄群と非狭窄群におけるCETP 遺伝子変異の頻度を検討した。
4)CETP 欠損症例及び正常対象群において、頚動脈エコー、経食道エコーにより動脈硬化性病変を定量化した。
5)幾つかのCETP 欠損症家系によっては、脳血管障害が多発するものが存在することを申請者らは報告している。そこで本研究で見いだされたCETP 欠損症症例において脳血管障害の有病率、既往歴、MRI 法による脳血管病変について検討した。
6)家族性高コレステロール血症、家族性複合型高脂血症を合併したCETP 欠損症において動脈硬化性疾患の有病率、冠動脈病変の程度について検討した。
結果と考察
(1)高HDL血症の頻度について検討すると、大曲地区では一般人口中における高HDL血症の割合は1.15%と他地域に比し極めて高く、高頻度に高HDL血症の存在を認めた。この成因として、CETP遺伝子1451+1 G→A変異が極めて高頻度に検出された。
(2)年齢別に高HDL血症の頻度を検討すると、80歳以上の高齢者群では高HDL血症の割合が低下しており、CETP遺伝子変異の頻度も同様に80歳以上の群では低下していた。このため、CETP遺伝子異常に基づく高HDL血症は長寿ではないと考えられた。
(3)大曲地区でHDLコレステロール値と検診時の安静時心電図の虚血性変化出現頻度を検討したところ、HDLコレステロール値が 60mg/dl 付近をボトムとして、これより高くなると心電図の虚血性変化の頻度の増加が認められ、CETP欠損症に基づく高HDL血症は抗動脈硬化性とはいえないことが示された。
(4)大曲地区在住のIHD症例42例の内訳は、急性心筋梗塞33例、労作性狭心症8例、突然死1例であった。IHD症例の血清HDLコレステロール値は43±19mg/dlで、やや低い傾向を示した。
(5)CETP遺伝子解析の結果、IHD症例42例中13例(33%)にCETP遺伝子異常の存在を認めた。この頻度は、大曲地区のgeneral populationにおけるCETP遺伝子変異の頻度と同程度のものであった。
(6)IHD症例におけるCETP遺伝子変異(+)群と(-)群の臨床像の比較では、遺伝子変異(+)群で有意にCETP活性が低く(p<0.05)、HDL-コレステロール値がやや高い傾向を示し、アポA-Iが変異(-)群に比し有意に高値であった(p<0.05)。その他の血清脂質、アポ蛋白値及び冠危険因子の頻度は、両群間で有意差を認めなかった。
(7)下行大動脈のTAS及びβをCETP遺伝子変異のある群と健常者群とで比較したところ、遺伝子変異群でTAS、βともに有意に高値を示し、CETP欠損症はむしろ動脈硬化促進的である可能性が示された
(2)年齢別に高HDL血症の頻度を検討すると、80歳以上の高齢者群では高HDL血症の割合が低下しており、CETP遺伝子変異の頻度も同様に80歳以上の群では低下していた。このため、CETP遺伝子異常に基づく高HDL血症は長寿ではないと考えられた。
(3)大曲地区でHDLコレステロール値と検診時の安静時心電図の虚血性変化出現頻度を検討したところ、HDLコレステロール値が 60mg/dl 付近をボトムとして、これより高くなると心電図の虚血性変化の頻度の増加が認められ、CETP欠損症に基づく高HDL血症は抗動脈硬化性とはいえないことが示された。
(4)大曲地区在住のIHD症例42例の内訳は、急性心筋梗塞33例、労作性狭心症8例、突然死1例であった。IHD症例の血清HDLコレステロール値は43±19mg/dlで、やや低い傾向を示した。
(5)CETP遺伝子解析の結果、IHD症例42例中13例(33%)にCETP遺伝子異常の存在を認めた。この頻度は、大曲地区のgeneral populationにおけるCETP遺伝子変異の頻度と同程度のものであった。
(6)IHD症例におけるCETP遺伝子変異(+)群と(-)群の臨床像の比較では、遺伝子変異(+)群で有意にCETP活性が低く(p<0.05)、HDL-コレステロール値がやや高い傾向を示し、アポA-Iが変異(-)群に比し有意に高値であった(p<0.05)。その他の血清脂質、アポ蛋白値及び冠危険因子の頻度は、両群間で有意差を認めなかった。
(7)下行大動脈のTAS及びβをCETP遺伝子変異のある群と健常者群とで比較したところ、遺伝子変異群でTAS、βともに有意に高値を示し、CETP欠損症はむしろ動脈硬化促進的である可能性が示された
結論
CETP 欠損症は、我が国において最も高頻度に見られる動脈硬化防御機構であるコレステロール逆転送系の異常症であり、著しい高HDL血症をとるにも関わらず動脈硬化症が進行する。特に、大量飲酒や他のHDL代謝関連蛋白(肝性リパーゼ)の異常を伴った場合、その動脈硬化惹起性は増悪する。
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