日本人糖尿病家族歴濃厚家系の全ゲノム連鎖解析および全エクソンシークエンスを併用した糖尿病関連遺伝子の同定

文献情報

文献番号
201207008A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人糖尿病家族歴濃厚家系の全ゲノム連鎖解析および全エクソンシークエンスを併用した糖尿病関連遺伝子の同定
課題番号
H23-バイオ-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
稲垣 暢也(京都大学医学研究科 糖尿病・栄養内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 長嶋 一昭(京都大学医学研究科 糖尿病・栄養内科学)
  • 田中 大祐(京都大学医学研究科 糖尿病・栄養内科学)
  • 小泉 昭夫(京都大学医学研究科 環境衛生学)
  • 松田 文彦(京都大学医学研究科附属ゲノム医学センター )
  • 池田 正毅(正名会池田病院)
  • 岡本 元純(大津赤十字病院)
  • 矢野 秀樹(彦根市立病院)
  • 水野 展寿(滋賀県立成人病センター)
  • 安田 浩一朗(大阪府済生会野江病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病の発症には遺伝素因および環境要因が深く関与する。糖尿病の発症・進展に係る遺伝素因は人種差も報告されており、日本人症例での検討が重要である。本研究の目的は、日本人糖尿病多発家系を集積し、全ゲノム連鎖解析およびハプロタイプ解析により疾患原因遺伝子の存在領域を絞り込み、全エクソンシークエンスを併用することで連鎖領域内遺伝子変異を網羅的に検出し、日本人コホートデータを用いた検証解析等により日本人における糖尿病関連遺伝子を同定することにある。
研究方法
糖尿病関連遺伝子探索の基盤とするため、我々は平成20年度から継続的に糖尿病家族歴濃厚家系の集積を進めている。承諾得られた患者・親族の末梢血由来DNAを用いて連鎖解析およびハプロタイプ解析を行ない、連鎖領域に存在する遺伝子を同定した。全ゲノム連鎖解析終了し幾つかの有意連鎖領域認めた家系に関して、発端者から全エクソンシークエンスおよびマッピングを行い変異解析を行った。連鎖領域に含まれる塩基配列変化のうち、アミノ酸置換を起こし且つdbSNP131未登録であるものを候補変異として選択し、家系内で罹患者のみにみられ非罹患者にはみられない変異を絞りこみ、家系内co-segregationの確認を行ない、患者臨床所見や既報データ等との比較検討から糖尿病発症原因遺伝子としての妥当性を評価し、糖尿病発症原因遺伝子を絞り込んだ。整備した日本人ゲノム疫学コホートデータを基に、絞り込まれた糖尿病発症原因遺伝子に関して糖尿病患者群および非糖尿病群のケース・コントロール解析を行い、同遺伝子異常の糖尿病発症との関連に関して検証作業を行った。本研究は京都大学大学院医学研究科・医学部及び医学部附属病院医の倫理委員会承認のもと実施している。
結果と考察
今回解析した罹患者2家系21名のうち各家系発端者で既知糖尿病原因遺伝子MODY1-6(HNF4A遺伝子・GCK遺伝子・HNF1A遺伝子・PDX1遺伝子・HNF1B遺伝子・NEUROD1遺伝子)変異の有無を確認後、連鎖解析を行い、染色体4番・5番・12番それぞれにLOD Score1.80の連鎖領域を確認しハプロタイプ解析により確定した。さらに、全エクソンシークエンスの結果、[家系1]の解析では連鎖領域内のアミノ酸置換を起こす変異でかつdbSNP131に未登録なエクソン変異は10個存在した。そのうち罹患者のみに集積する変異は7個であり、同変異について一般健常対照者105名および非肥満(BMI<25)糖尿病患者67名において頻度を検討したところ、EEA1遺伝子のN1072K変異に関して一般健常者におけるアレル頻度が0.0%であったのに対しBMI25未満の糖尿病患者におけるアレル頻度が2.9%と優位に高かった。この結果は、家族歴濃厚症例による連鎖解析に全エクソンシークエンスを併用して新規糖尿病原因遺伝子候補を同定した成果として論文発表を行った(Mol Genet Metab.109:112-117,2013)。
[家系2]の解析では、50歳未満糖尿病発症者5名および80歳健常者1名の計6名を全エクソンシークエンスの対象とした。罹患者全員に集積し非罹患者に存在しない塩基配列変化のうち、アミノ酸置換を起こす変異でかつ1000 genome project で未検出あるいは頻度5%未満の変異を18個同定し現在解析中である。
上記、糖尿病多発家系の全ゲノム連鎖解析および全エクソンシークエンスを併用して検出された変異は、特定の糖尿病家族歴濃厚家系内で罹患者にのみ集積を認めるのみならず、その変異が糖尿病患者一般で有意に高頻度で認められることが示唆された。また、家系内の特徴的な罹患者および非罹患者を複数名選定し、全員の全エクソンシークエンスを行う方法でも、罹患者全員に集積し非罹患者に存在しない疾患原因変異候補が効率的に絞り込める可能性が示唆された。絞り込み精度を上げるためにはより明瞭な疾患発症家族歴を有する大家系の探索が極めて重要であり今後も継続して家系集積予定である。
結論
3世代以上にわたり糖尿病患者を有する糖尿病家族歴濃厚家系の調査・集積を継続的に行い、累積数で69家系264名の糖尿病患者および親族から研究参加の承諾を得て採血を行い、14家系については、検体採取者全員、全ゲノムタイピングを完了した。
糖尿病多発家系での全ゲノム連鎖解析および全エクソンシークエンス併用により糖尿病発症原因としてEEA1遺伝子変異を同定し、同遺伝子変異は一般人口においても糖尿病感受性遺伝子となっていることが示唆された。糖尿病多発家系内の特徴的な罹患者および非罹患者複数名の全エクソンシークエンスによる絞り込み手法を用いても、疾患関連遺伝子候補が効率的に少数まで絞り込める可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201207008Z