トランスクリプトーム解析を利用した医薬品の副作用発症機構の解明と、それに基づいた副作用予測システム、副作用治療法、及び副作用の少ない新薬の開発戦略の確立

文献情報

文献番号
201207007A
報告書区分
総括
研究課題名
トランスクリプトーム解析を利用した医薬品の副作用発症機構の解明と、それに基づいた副作用予測システム、副作用治療法、及び副作用の少ない新薬の開発戦略の確立
課題番号
H23-バイオ-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
水島 徹(慶應義塾大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 星野 竜也(慶應義塾大学 薬学部)
  • 田中 健一郎(慶応義塾大学 薬学部)
  • 大塚 雅巳(熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 山川 直樹(就実大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
トランスクリプトーム解析を基に医薬品の副作用発症機構を解明し、新薬候補品の副作用を予測するシステムを確立する。また、副作用の少ない新薬の開発や副作用治療法の確立も目指す。アスピリンを代表とするNSAIDは優れた抗炎症薬として世界中でよく使用されているが、その胃潰瘍副作用が臨床現場で大きな問題になっている。我々はNSAIDが誘導する遺伝子を網羅的に解析し(トランスクリプトーム解析)、NSAIDが膜傷害性を持つこと、及びこれがNSAID潰瘍の原因であることを見出した。以上の成果を受けて本研究で我々は、他の薬剤による間質性肺炎副作用(平成23-24年度実施)、及び薬疹など他の副作用(平成24-25年度実施)に関して、トランスクリプトーム解析を用いて副作用発症機構を解明し、新薬候補品の副作用を予測するシステムを確立すると共に、副作用の少ない新薬の開発、及び副作用治療法の確立も目指す。
研究方法
①HSP70に着目した新薬候補品の間質性肺炎副作用予測システムの確立(平成23年度実施)
複数の既存薬に関して間質性肺炎副作用報告があり、HSP70発現抑制作用を調べることが間質性肺炎副作用の予測システムとして有用であることを示唆した。
②HSP70誘導薬による、ゲフィチニブ依存性間質性肺炎治療法の確立(平成23年度実施)
我々が確立した動物モデルを用いて、ゲフィチニブ依存性間質性肺炎治療薬としてのGGAの有効性を検討したところ、GGA投与によりゲフィチニブ依存の肺繊維化、及びHSP70の発現抑制が見られなくなることを見出した。今後臨床研究へ繋げるための準備を行う。(目標:25年度中の臨床研究開始)
③間質性肺炎副作用の少ないゲフィチニブ誘導体の発見(平成24年度実施予定)
 数多くのゲフィチニブ誘導体を合成しその中から、試験管内でHSP70発現抑制効果がなく、かつゲフィチニブと同程度の癌細胞増殖抑制効果を有するものを選択する。次に動物実験を行い、ゲフィチニブと同程度の抗癌作用を持ち、かつ肺繊維化を起こさないものを選択する。特許を取得したのち、間質性肺炎副作用の少ないゲフィチニブ改良薬としての開発を製薬企業へ提案する。(目標:25年度中の特許出願)。
結果と考察
イマチニブやメトトレキサートなどの間質性肺炎を起こす他の薬剤に関して同様の解析を行った。保有する既存薬ライブラリーからHSP70やHO-1の発現を抑制するものを検索し、それらがマウスで肺線維化を起こすのかを検討した。以上の結果から私は、新薬候補品がHSP70やHO-1の発現を抑制するのかを調べることにより、その間質性肺炎副作用を予測することが可能であることを提唱した。実際、複数の製薬企業がこの方法を既に取り入れている。
 今後は、我々が既に同定しているHO-1を増やす既存薬やテプレノンにより、これらの医薬品による間質性肺炎を抑制できるのかを検討し、臨床研究に繋げたい。またアミオダロンなどの他の間質性肺炎を起こす薬剤に関しても、同様の解析を開始する。さらに、薬疹など他の副作用に関しても、トランスクリプトーム解析を用いて副作用発症機構の解明を目指す
結論
イマチニブやメトトレキサートなどの間質性肺炎を起こす他の薬剤に関して同様の解析を行った結果、イマチニブが活性酸素から細胞を保護するタンパク質・HO-1の発現を抑制すること、またメトトレキサートがゲフィチニブ同様HSP70の発現を抑制することを見出した。また、これらの抑制がこれら医薬品による間質性肺炎の原因であることを示した。その結果、複数の既存薬がHSP70やHO-1の発現を抑制すると同時に肺の線維化を起こすことを見出し、その内一部に関しては、薬剤性間質性肺炎を起こしたという臨床報告があった。以上の結果から私は、新薬候補品がHSP70やHO-1の発現を抑制するのかを調べることにより、その間質性肺炎副作用を予測することが可能であることを提唱した。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201207007Z