大規模生体内分子測定による薬物誘発性肝障害バイオマーカーの探索研究

文献情報

文献番号
201207003A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模生体内分子測定による薬物誘発性肝障害バイオマーカーの探索研究
課題番号
H20-バイオ-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
曽我 朋義(慶應義塾大学 環境情報学部および先端生命科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 本間 雅(東京大学 医学部 附属病院)
  • 大畠 武二(アステラス製薬株式会社 安全性研究所)
  • 奈良岡 準(アステラス製薬株式会社 安全性研究所)
  • 竹内 健一郎(アステラス製薬株式会社 安全性研究所)
  • 大村 功(アステラス製薬株式会社 安全性研究所)
  • 鈴村 謙一(アステラス製薬株式会社 創薬推進研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
27,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般に薬物誘発性毒性は肝障害として現れる例が多く、東大病院においても、薬物性肝障害発症患者は年間約100名程度と見積もられている。しかしながら、薬物性肝障害に共通する特徴的な所見は必ずしも無く、現状では確定診断は困難である。また、糖尿病治療薬トログリタゾンのように投与中止後も症状が悪化する例も報告されており、確定診断を可能にする所見の発見は急務である。本研究は、最新の測定技術を用いて生体内の内因性分子を大規模に測定し、薬物性肝障害の早期かつ正確な診断マーカーの開発を目指すものであり、平成20年度より5年計画で実施する。
研究方法
薬物性肝障害モデル動物を構築し、コントロール動物の肝臓と血清の生体内分子を網羅的に測定・比較することで、ヒトの臨床を反映する薬物性肝障害マーカーを探索する。さらに薬物性肝障害およびウイルス性肝炎など他の肝障害疾患の患者および健常人の血液検体を測定し、実臨床において有用な薬物性肝障害マーカーを開発する。
結果と考察
平成24年度は、薬物性肝障害の発症を事前に予測可能であるかを検証するため、東大病院の入院患者を対象として大規模なカルテ調査を行い、約1万人のデータベース構築を行った。頻回に測定される臨床検査値15種類に関して、薬物の服用を開始した時点の検査値を基に、その後の薬物性肝障害の発症を予測可能であるか検証した。ROC解析の結果、炎症を反映すると考えられるCRPおよびWBCの2種に関して、AUC値が0.6を超え薬物性肝障害発症と正の相関性が認められた。そこでこれらの検査値に関して薬物性肝障害発症患者における時間推移を検証したところ、いずれも起因薬の服用を開始する以前の段階から、非肝障害患者と比較して有意に高値を示していることが明らかとなった。これまでの検討より酸化ストレスおよび炎症が、薬物性肝障害発症リスクを高める因子となっている可能性が示唆されており、CRPおよびWBCを本研究で見出された酸化ストレスマーカーであるγ-Glu-Xペプチドと組み合わせることで、精度良く薬物性肝障害発症を予測できる可能性が考えられた。
結論
薬物性肝障害の発症予測マーカーとして、炎症を反映していると考えられる検査値であるCRPおよびWBCが見出された。本研究で見出されてきた肝臓酸化ストレスマーカーであるγ-Glu-Xペプチドと組み合わせて、薬物性肝障害の発症予測に繋げたいと考える。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201207003B
報告書区分
総合
研究課題名
大規模生体内分子測定による薬物誘発性肝障害バイオマーカーの探索研究
課題番号
H20-バイオ-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
曽我 朋義(慶應義塾大学 環境情報学部および先端生命科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 本間 雅(東京大学 医学部 附属病院)
  • 大畠 武二(アステラス製薬株式会社 安全性研究所)
  • 奈良岡 準(アステラス製薬株式会社 安全性研究所)
  • 竹内 健一郎(アステラス製薬株式会社 安全性研究所)
  • 大村 功(アステラス製薬株式会社 安全性研究所)
  • 鈴村 謙一(アステラス製薬株式会社 創薬推進研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般に薬物誘発性毒性は肝障害として現れる例が多く、東大病院においても、薬物性肝障害発症患者は年間約100名程度と見積もられている。しかしながら、薬物性肝障害に共通する特徴的な所見は必ずしも無く、現状では確定診断は困難である。また、糖尿病治療薬トログリタゾンのように投与中止後も症状が悪化する例も報告されており、確定診断を可能にする所見の発見は急務である。本研究は、最新の測定技術を用いて生体内の内因性分子を大規模に測定し、薬物性肝障害の早期かつ正確な診断マーカーの開発を目指すものであり、平成20年度より5年計画で実施した。
研究方法
薬物性肝障害モデル動物を構築し、コントロール動物の肝臓と血清の生体内分子を網羅的に測定・比較することで、ヒトの臨床を反映する薬物性肝障害マーカーを探索する。さらに薬物性肝障害およびウイルス性肝炎など他の肝障害疾患の患者および健常人の血液検体を測定し、実臨床において有用な薬物性肝障害マーカーを開発する。
結果と考察
薬物性肝障害モデル動物の解析より見出されたバイオマーカー候補物質に関して、ヒト臨床検体を用いて検証を行った結果、肝障害に先行する血清中バイオマーカーとして、複数のγ-Glu-Xペプチドが見出された。これらのペプチド類は、その生合成経路の解析から、肝臓におけるグルタチオン酸化還元状態を反映していると想定された。すなわち、これらのバイオマーカーの血清中濃度上昇は、肝臓に酸化ストレスが生じていることを反映すると考えられる。また、ウイルス性肝炎を含む種々の肝障害患者由来の検体との比較解析から、これら各種のペプチド血清中濃度を組み合わせることで、発症原因を峻別診断できる可能性が示された。この結果は同時に、肝臓内酸化ストレスが広範な肝障害発症に関連する重要なメカニズムの一つとなっている可能性を示唆している。さらに、患者血清の分析を進めた結果、薬物性肝障害発症群においては、γ-Glu-Xペプチドの血清中濃度は、肝障害発現以前の段階からすでに高値を示し、肝障害の進展によって大きく変動しないことが見出された。さらに、炎症性サイトカインであるTNF-α, IFN-γ, IL-1β, IL-6の血清中レベルが、同様に薬物性肝障害発症群において、肝障害発現以前の段階から高値を示し、肝障害の進展に伴う変動は少ないことも明らかとなった。すなわち、酸化ストレスおよび炎症を背景因子として有していることが、薬物性肝障害の発症リスクを高める因子として働いている可能性が想定され、この点は動物モデルの解析および患者大規模データベースの解析からも支持された。
結論
肝臓酸化ストレスマーカーであるγ-Glu-Xペプチドおよび炎症マーカーであるCRPおよびWBCが、薬物性肝障害の発症リスクを予測するバイオマーカーとして有用な可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-11-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201207003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
薬物誘発性肝障害の診断法は未開発であるが、本研究では、薬物誘発性肝障害を含む肝臓疾患患者から採取された血清のメタボローム解析を行い、9種類の肝臓疾患を高い精度で診断できるγ-グルタミルジXペプチド類を発見した。また、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で惹起される胃潰瘍のバイオマーカーをラットのモデルで探索し、3-ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシプロリンなど臓器と血中で増加するマーカーを見出した。
臨床的観点からの成果
薬剤誘発性肝障害は重篤化し死に至ることもあるため、臨床上の大きな問題の一つであるにもかかわらず、迅速な診断法が未だ確立されていない。実臨床においての鑑別は、薬剤以外の原因が存在しない場合に消去法的に「薬剤誘発性肝障害が強く疑われる」という形で診断される。本研究で発見したγ-グルタミルジXペプチド類は、高い精度で薬剤誘発性肝障害を診断できるため、薬物治療のリスクが把握可能になり、投与量や薬剤の変更などの治療上取れるオプションが広がり、臨床上の有用性は極めて高い。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
本研究課題での成果は、一滴の血液からB型、C型肝炎、肝臓がんなど9種類の肝臓の病気を同時に判定できるという内容の記事で、2011年3月10日の朝日新聞全国版の1面に掲載され、地元の幾つかのテレビ局のニュースでも報道された。また2012年7月15日のNHKサイエンスZEROで「病気になる前に治す!血中極小物質の謎」でもメタボローム測定法の原理から肝臓疾患のマーカーの発見まで詳細に紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
51件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
6件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
肝臓疾患マーカー、その測定方法、装置及び医薬品の検定方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2010-102579
発明者名: 曽我朋義、杉本昌弘、斎藤貴史、河田純男、本間雅、鈴木洋史
権利者名: 学校法人慶應義塾
出願年月日: 20100427
国内外の別: 国内
特許の名称
肝臓疾患マーカー、その測定方法、装置及び医薬品の検定方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2010-139736
発明者名: 曽我朋義、杉本昌弘、末松誠、斎藤貴史、河田純男
権利者名: 学校法人慶應義塾
出願年月日: 20100618
国内外の別: 国内
特許の名称
肝臓疾患マーカー、その測定方法、装置及び医薬品の検定方法
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2009/069950.
発明者名: 曽我朋義、杉本昌弘、末松誠、本間雅、山本武人、鈴木洋史
権利者名: 学校法人慶應義塾
出願年月日: 20091126
国内外の別: 国外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takeuchi, K., Honma, M., Soga, T., et al.
Metabolomic Analysis of the Effects of Omeprazole and Famotidine on Aspirin-induced Gastric Injury
Metabolomics , 10 (5) , 995-1004  (2014)
10.1007/s11306-014-0627-0
原著論文2
Takeuchi, K., Honma, M., Soga, T., et al.
Metabolic Profiling to Identify Potential Serum Biomarkers for gastric ulceration induced by non-steroid anti-inflammatory drugs
J. Proteome Res. , 12 (3) , 1399-1407  (2013)
10.1021/pr3010452
原著論文3
Soga, T., Sugimoto, M., Honma, et al.
Serum Metabolomics Reveals γ-glutamyl Dipeptides as Biomarkers for discrimination among Different Forms of Liver Disease
J. Hepatol. , 55 (4) , 896-905  (2011)
10.1016/j.jhep.2011.01.031
原著論文4
Soga, T., Igarashi, K., Itoh, C., et al.
Metabolomic Profiling of Anionic Metabolites by Capillary Electrophoresis Mass Spectrometry
Anal. Chem. , 81 (15) , 6165-6174  (2009)
10.1021/ac900675k

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201207003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
36,270,000円
(2)補助金確定額
36,270,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 15,238,631円
人件費・謝金 0円
旅費 274,520円
その他 12,386,947円
間接経費 8,370,000円
合計 36,270,098円

備考

備考
差額の98円は、自己資金のため。

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-