家族性痙性対麻痺の病態機序の解明

文献情報

文献番号
199800042A
報告書区分
総括
研究課題名
家族性痙性対麻痺の病態機序の解明
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小林 央(新潟大学脳研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、遺伝性の神経変性疾患である家族性痙性対麻痺 familial spastic
paraplegia (FSP) の原因遺伝子を明かにし、その病態解明及び治療研究に役立てようとす
るものである。家族性痙性対麻痺 (FSP) は、緩徐進行性の痙性対麻痺を主徴とし、病理学的には脊髄の錐体路、後索の系統変性を主病変とする疾患である。遺伝学的には均一でなく、現在までに4つの常染色体優性遺伝子座(染色体14番、2番、15番、8番)、2つの常染色体劣性遺伝子座(染色体8番、16番)が報告されている1,2,3)。我々はFSPの原因を遺伝学的に明らかにするため、1.常染色体劣性遺伝性痙性対麻痺家系の集積と連鎖解析による新たな劣性遺伝子座の探索、2. 染色体2番の優性遺伝子座よりDIRECT法による原因遺伝子の単離、を試みた。
研究方法
日本国内の多施設との研究協力により、常染色体劣性遺伝性を示す家族性痙性
対麻痺12家系(患者20名を含む)を集積し、臨床的に解析するとともに、同意を得たう
えで採血を行い、genomic DNAを抽出した。既知の2つの常染色体劣性遺伝子座(染色体8番、16番)及び新たな候補遺伝子座(染色体15番)領域をカバーする9種類のCAリピートマイクロサテライト多型マーカー (D8S285, D8S260, D8S279, D15S971, D15S118,
D15S1012, D16S3026, D16S3407, D16S3121) について蛍光ラベルしたプライマーを用いPCRの後Capillary型ABI蛍光自動シークエンサー (ABI PRISM 310) を用いて各DNAマーカーのサイズを決定した。決定された各DNAマーカーのサイズをもとに、連鎖解析およびhaplotype解析を行った。連鎖解析はLINKAGEプログラムにより算出した。常染色体劣性遺伝病では、近親婚患者において疾患遺伝子とその周辺のマーカーは同祖ホモである可能性が高く、近親婚患者において常にホモとなるようなマーカーは原因遺伝子に近いと考えられる(ホモ接合性マッピング)。我々の劣性遺伝性痙性対麻痺12家系中8家系においても、近親婚を認めるため、 ホモ接合体についても検討した。
染色体2番遺伝子座に連鎖する常染色体優性遺伝性痙性対麻痺2家系を見出し、genomic
DNAを抽出した。染色体2番遺伝子座においては、原因遺伝子としてCAGリピートの異常が指摘されているため4,5)、患者ゲノムDNAより、原因遺伝子であるCAGリピートクローンを直接単離するため、DIRECT(direct identification of repeat expansion and cloning
technique)にて検討した6)。DIRECT法は、(CAG)55リピートを含むプローブを用いて、患者ゲノムDNA 中に存在する異常に伸長した CAG リピートのみを、 Southern blotting法により選択的に検出する方法である。
結果と考察
常染色体劣性遺伝性痙性対麻痺12家系(発症者20名を含む全33名)を集積した。12家系中8家系において知能低下、画像検査において脳梁の菲薄化を認め、岩淵らの提唱する菲薄した脳梁を伴う複合型遺伝性痙性対麻痺と考えられた。本邦においては、この型の劣性遺伝性痙性対麻痺が比較的多いと考えられ、岩淵らの提唱するとおり一疾患単位を形成する可能性がある。他の4家系では脳梁の菲薄化は認めず、2家系で小脳失調と眼振を、1家系で知能低下を認めた。近親婚は12家系中8家系に認めた。連鎖解析により12家系中10家系(家系5, 11, 12, 26, 27, 136, 277, 292, 391, 398)において染色体8番遺伝子座との連鎖を否定した。1家系においては統計学的に有意な結果は得られず、1家系(家系8)においてLOD 値3を超えないが染色体8番遺伝子座との連鎖が示唆された。
染色体16番遺伝子座(Paraplegin) については、12家系中11家系で連鎖は否定され
(LOD<-2)、1家系では有意な結果は得られなかった。新たな候補遺伝子座である染色体15
番遺伝子座については、8qとの連鎖は否定的な(LOD<-2) 10家系中5家系(家系11, 12, 26,
136, 398)で、LOD 値3を超えないもののpositive lod scoreを得、15q遺伝子座との連
鎖が示唆された。最大lod scoreはDNAマーカーD15S971において、それぞれ、0.6, 0.62,
0.3, 0.51, 0.84 (recombination faraction = 0.0)であり、最大合計lod scoreは2.87
(recombination faraction = 0.0)であった。また5家系のうち2家系でホモ接合を認めた。
臨床的には5家系とも菲薄した脳梁を伴う複合型遺伝性痙性対麻痺であり、病因遺伝子座
である可能性があると考えられた。しかしながら、残る脳梁の菲薄化を伴う複合型遺伝性
痙性対麻痺3家系では15qとの連鎖は否定され(LOD<-2)、遺伝的異質性の存在する可能性も示唆された。12家系中4家系(家系5, 27, 277, 391)ではいずれの遺伝子座(染色体8
番、16番、15番)との連鎖も否定された(LOD<-2)。我が国の劣性遺伝性痙性対麻痺については、以前に遺伝学的解析は行われおらず、我々の解析がはじめてである。常染色体劣性遺伝性痙性対麻痺においては、チュニジア家系において染色体8番の遺伝子がまず報告され7)、次にイタリアより新たな遺伝子座(染色体16番)が報告され、遺伝子(Paraplegin)
が単離された。この蛋白は酵母のAFG3蛋白とhomologyがあり、シャペロニン機能を持つミトコンドリア蛋白であると予想されている3)。しかしながら我々の研究により、本邦の劣性遺伝性痙性対麻痺家系ではParaplegin遺伝子座(染色体16番)への連鎖は否定的であり、本邦ではParaplegin異常に伴う劣性遺伝性痙性対麻痺は極めてまれと考えられる。
また染色体8番遺伝子座についても1家系のみ連鎖が示唆されたが、他の大部分の家系では否定的であり、本邦では比較的少ないと考えられた。もう一つの候補遺伝子座である染
色体15番において、連鎖解析の結果、12家系中5家系で、positive lod scoreを得た。
最大合計lod scoreは2.87 (recombination faraction = 0.0)であり、統計学的に有意と
される3に近く、病因遺伝子座である可能性があるが、今後さらに家系を集積し連鎖解析
を進め、遺伝学的異質性について検討する必要がある。最後にいずれの遺伝子座にも連鎖
しない劣性遺伝性痙性対麻痺家系が4家系あり、さらに新たな遺伝子座が存在する可能性
があることが示唆された。
常染色体優性遺伝性痙性対麻痺においては、現在までに4つの遺伝子座(染色体14番、2
番、15番、8番)が報告されているが1,2)、優性遺伝を示す約80%の家系が染色体2番に連鎖している。近年、染色体2番遺伝子座において、原因遺伝子としてCAGリピートの異常(約60リピートの伸長)が指摘されたが、遺伝子は未だ単離されていない4,5)。染色体2番遺伝子座に連鎖する常染色体優性遺伝性痙性対麻痺2家系において、制限酵素PstI, BamHI, TspEI, EcoRIを用いたDIRECT法による検討では、疾患と連鎖したCAGリピートの異常伸長は検出されなかった。しかし、今回使用した制限酵素以外の酵素による検討や、現在共同研究者の辻らが開発中の二次元DIRECT法による検討なども行う予定である。
結論
日本国内より常染色体劣性遺伝性痙性対麻痺12家系(発症者20名を含む全33名)
を集積した。12家系中8家系において知能低下、画像検査において脳梁の菲薄化を認め、
岩淵らの提唱する菲薄した脳梁を伴う複合型遺伝性痙性対麻痺と考えられた。本邦におい
ては、染色体16番に連鎖する常染色体劣性遺伝性痙性対麻痺家系は少ないと考えられた。
脳梁菲薄化を伴う本邦複合型ARFSPは8qと15q に連鎖する可能性が示唆されたが、一方これら以外の新たな遺伝子座の存在する可能性も考えられ、さらに家系を増やして検証する必要がある。
参考文献=1. Kobayashi H, et. al. J.Neurol. Sci. 1996; 137:131-138. 2. Hedera P,
et al. Am. J. Hum. Genet. 64:563-569, 1999. 3. Casari G, et.al. Cell 1998; 93:973-983.
4. Nielsen J, et. al. Hum. Mol. Genet. 1997; 6: 1811-1816 . 5. Kathleen F, et. al.
Hum. Mol. Genet. 1998; 7:1779-1786. 6. Sanpei K, et.al. Nature Genet.
1996;14:277-284. 7. Hentati A, et.al. Hum. Mol. Genet. 1994; 3:1263-1267.

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