文献情報
文献番号
201207001A
報告書区分
総括
研究課題名
プロテオーム解析による糖尿病性細小血管症の早期診断マーカーの探索
課題番号
H20-バイオ-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
春日 雅人(独立行政法人国立国際医療研究センター 研究所)
研究分担者(所属機関)
- 野田 光彦(独立行政法人国立国際医療研究センター 病院)
- 鏑木 康志(独立行政法人国立国際医療研究センター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
25,110,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年急増している糖尿病の特徴は慢性的な経過で糖尿病性細小血管症を合併することであり、その進行と共に失明、腎不全、下肢切断等の重篤な合併症を引き起こす。これらの合併症の予防及び治療は代謝疾患罹患患者のQOL及び生存率向上のために非常に重要であり、日常診療の現場でその病期や予後・進行性等を診断可能なバイオマーカーが開発されればその意義は高い。本研究は糖尿病の日常診療の場で糖尿病性細小血管症の有無・予後を血液・尿から簡便に判定可能なバイオマーカー開発を目的とし、2型糖尿病患者並びに糖尿病性細小血管症を呈する2型糖尿病患者より血清、尿検体を収集し、これらの臨床検体を用いたプロテオーム・ペプチドーム解析により糖尿病性細小血管症に関連する蛋白質・ペプチドの探索を行った。
研究方法
国立国際医療研究センター病院・国府台病院、富山大学附属病院、JR東京総合病院に通院、入院する2型糖尿病患者から血清ならびに随時尿検体の収集を行った。さらに、非糖尿病対照群として本施設人間ドック受診者より血清、随時尿検体を収集した。また、検体を収集した患者については糖尿病性細小血管症を含めた臨床情報の収集も併せて行った。血清プロテオーム解析は2型糖尿病モデルマウスKK-Ayマウス血清を対象とし、iTRAQ法によるnon-targeted proteomics解析を行った。尿プロテオーム解析はヒト2型糖尿病患者随時尿検体を対象とし、蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動法、非標識定量法を用いた定量的プロテオミクス解析により探索を行った。網羅的な探索により得られた多数の候補蛋白質の中から糖尿病性細小血管症の関連マーカーの発現変動を検証するために、targeted proteomicsの一手法であるmultiple reaction monitoring (MRM)法による定量解析法を確立し、多項目一斉定量分析を行った。検証された蛋白質群と糖尿病腎症との関連は重回帰分析、receiver-operating characteristic解析により評価した。人間ドック受診者の血清Leukocyte cell-derived chemotaxin 2 (LECT2)濃度の測定はELISA法により行った。
結果と考察
研究期間内に、本施設をはじめとする4医療機関から糖尿病患者約1000例、健常者約600例の血清、随時尿検体ならびに付随する臨床情報の収集を行い、ほぼ目標を達成することが出来た。糖尿病性細小血管症の早期診断マーカーの探索として、KK-Ayマウス血清を対象とした標識定量法を用いた定量的プロテオミクス解析を行った。解析の結果、糖尿病の発症早期より関連する蛋白質群の同定に成功し、その内の一蛋白質であるserine (or cysteine) peptidase inhibitor, clade A, member 3 (SERPINA3)が網膜微小血管内皮細胞の細胞透過性を亢進することにより糖尿病性網膜症の発症・進展に関与する可能性を見出した。肝臓で産生される血中タンパク質Leukocyte cell-derived chemotaxin 2(LECT2)はその機能の一つとして抗炎症性作用を持つことが推測されている。血中LECT2濃度と各種臨床指標との関連を検討する目的で、人間ドック受診者231人の血清サンプルを使って肥満および脂肪肝とLECT2との関連を解析した。血清LECT2濃度は肥満および脂肪肝と正の相関を示し、LECT2の肥満関連因子としての新たな役割を見出した。ヒト尿検体を用いて糖尿病ならびに糖尿病腎症の発症・進展を早期に予測する関連因子の探索を行った。蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動法や非標識法を用いた定量プロテオミクス解析システムを用いて早期腎症患者尿中で発現変動する蛋白質群の同定に成功した。同定した蛋白質群は独立した検体を用いたMRM定量解析でも糖尿病腎症との関連が検証され、その中には現在までに糖尿病腎症との関連が明らかにされていない蛋白質も含まれていた。
結論
2型糖尿病の発症早期より関連する血清蛋白質群を同定し、その内SERPINA3は網膜微小血管内皮細胞の細胞透過性を亢進することにより糖尿病性網膜症の発症・進展に関与する可能性を示した。さらに尿検体を用いた解析でも糖尿病腎症の早期から関連するタンパク質を効率よく同定することに成功し、この中にはこれまでに糖尿病との関連が報告されていない新たな早期診断マーカー候補も含まれていた。本研究により糖尿病性細小血管症の早期診断に有用なマーカー候補を絞り込むことが可能となり、これらの成果を発展させて信頼性の高い早期診断法が確立されれば糖尿病患者のQOL向上及び医療費節減のために有効な手段となることが期待される。
公開日・更新日
公開日
2013-09-04
更新日
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