文献情報
文献番号
201206017A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性骨折(偽関節)に対するヒト骨髄細胞シートを用いた低侵襲治療手技の開発に関する研究
課題番号
H24-再生-若手-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
上羽 智之(公立大学法人奈良県立医科大学 整形外科)
研究分担者(所属機関)
- 赤羽 学(公立大学法人奈良県立医科大学 健康政策医学講座)
- 森田 有亮(同志社大学 生命医科学部 医工学科 )
- 田中 康仁(公立大学法人奈良県立医科大学 整形外科)
- 川手 健次(公立大学法人奈良県立医科大学 人工関節・再生医学講座)
- 城戸 顕(公立大学法人奈良県立医科大学 整形外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究ではヒト骨髄間葉系幹細胞(以下MSC)で作製した細胞シート移植で、難治性骨折(偽関節)の治療が可能であるか免疫不全動物を用いて検証し、細胞シートをX線透視下に偽関節部に注入し骨癒合を得る低侵襲な治療法を確立する。今年度は、ヒト細胞シートの効率的な作製方法を検討し、その骨形成能の評価を免疫不全動物で行う。次年度ヌードラット大腿骨の偽関節にヒト細胞シートを注入するために偽関節を安定的に作製する手技を確立する。また、ヒト細胞シートを注入することで骨形成が得られるかを検証する。
研究方法
細胞シート作製条件の検討では、ヒトMSCを2週間初期培養後、35㎜培養皿にデキサメサゾン(以下Dex)、アスコルビン酸添加培地で21日間培養した。播種する細胞数(1×104cell/cm2あるいは0.5×104cell/cm2)とDex濃度(10nMあるいは100nM)をそれぞれの組み合わせで検討した。アスコルビン酸添加量は82μg/mlとして培地交換を行った。また、細胞数を0.5×104cell/cm2とし、10cm培養皿を用いてDex濃度を10nMと100nMの2種類で作製した細胞シートで人工骨を包みヌードラットの背部皮下に移植し、2か月後組織学的および生化学的に評価した。12週齢の雄ヌードラットで大腿骨偽関節モデルを作製した。大腿骨の骨幹部中央を骨切りした後、骨に付着する筋群を骨膜とともに大腿骨からはく離し、骨髄を十分に掻爬、洗浄した。骨折部の固定はK鋼線で髄内釘固定とし偽関節群とした。一方、健側の大腿骨を対照群とした。評価はレントゲン、組織学的および力学的に行った。
細胞シート注入法は、ヌードラット背部皮下へ移植した人工骨周囲に、ヒト細胞シートを注入移植した。注入法は1ml注射器に細胞シートと0.5mlのPBSをシリンジ内に吸引後、14G注射針をヌードラット背部皮下へ刺入し、細胞シートを皮下へ注入移植した。 移植後2カ月でレントゲン、組織学的に骨形成を評価した。
細胞シート注入法は、ヌードラット背部皮下へ移植した人工骨周囲に、ヒト細胞シートを注入移植した。注入法は1ml注射器に細胞シートと0.5mlのPBSをシリンジ内に吸引後、14G注射針をヌードラット背部皮下へ刺入し、細胞シートを皮下へ注入移植した。 移植後2カ月でレントゲン、組織学的に骨形成を評価した。
結果と考察
In vitroで作製した細胞シートはDex10nMのほうが100nMよりもオステオカルシン分泌量が多い。播種細胞密度の違いによるオステオカルシンの増加傾向はほぼ同じであった。In vivoで人工骨と細胞シートを組み合わせた組織像では、Dexの濃度によらず、いずれも良好な骨形成が見られ、生化学的には人工骨単独で移植したものよりALPおよびオステオカルシンのいずれも高値を示した。Dexの濃度は10nMで作製した細胞シートとの組み合わせのほうが高い値を示した。以上により培養条件は播種細胞密度:0.5×104cell/cm2、Dex濃度:10nM 、アスコルビン酸濃度:82μg/mlで21日間の2次培養が好ましいと考えられた。ヌードラット大腿骨偽関節モデルは、レントゲン像で、偽関節群は術後12週まで骨性架橋は認められなかった。μCT画像、組織像でも偽関節群では骨折部の骨性架橋を認めなかった。3点曲げ試験では、偽関節の最大曲げ荷重は健側群と比べて有意に低かった。
注入移植後2か月目に摘出した人工骨のレントゲン像では、人工骨周囲の石灰化は明らかでなかった。組織像ではDexの濃度による骨形成の差は認められず、いずれも良好な骨形成が確認できた。本研究では、ヒトMSCを用いて細胞シートを作る条件は、ラットなどの実験動物とは異なることが判明した。その条件で作製した細胞シートと人工骨を組み合わせてヌードラットに移植すると、明らかな骨形成が認められた。また、注入による細胞シートの移植でも人工骨内部に骨形成が認められた。しかし、人工骨周囲の骨形成は認められなかった。これは、本研究では10㎝培養皿を用いて作製した骨芽細胞シート1枚を人工骨と組み合わせて免疫不全動物の皮下に移植したため、通常の動物実験で用いる自家移植モデルと条件が異なることも少なからず影響していると考えられる。また、注入という行為が細胞シートにダメージを与え、細胞活性が低下している可能性があるので、注入方法について今後検討する必要があると考える。今回の実験により、ヌードラット大腿骨偽関節モデルが確立できた。ヌードラット大腿骨偽関節モデルは、今後の偽関節治療開発に有用であり、scaffold freeで偽関節部へ細胞シートを注入し骨形成が得られるかの検討が必要である。
注入移植後2か月目に摘出した人工骨のレントゲン像では、人工骨周囲の石灰化は明らかでなかった。組織像ではDexの濃度による骨形成の差は認められず、いずれも良好な骨形成が確認できた。本研究では、ヒトMSCを用いて細胞シートを作る条件は、ラットなどの実験動物とは異なることが判明した。その条件で作製した細胞シートと人工骨を組み合わせてヌードラットに移植すると、明らかな骨形成が認められた。また、注入による細胞シートの移植でも人工骨内部に骨形成が認められた。しかし、人工骨周囲の骨形成は認められなかった。これは、本研究では10㎝培養皿を用いて作製した骨芽細胞シート1枚を人工骨と組み合わせて免疫不全動物の皮下に移植したため、通常の動物実験で用いる自家移植モデルと条件が異なることも少なからず影響していると考えられる。また、注入という行為が細胞シートにダメージを与え、細胞活性が低下している可能性があるので、注入方法について今後検討する必要があると考える。今回の実験により、ヌードラット大腿骨偽関節モデルが確立できた。ヌードラット大腿骨偽関節モデルは、今後の偽関節治療開発に有用であり、scaffold freeで偽関節部へ細胞シートを注入し骨形成が得られるかの検討が必要である。
結論
ヒトMSCの細胞シート作製条件は、播種細胞密度:0.5×104cell/cm2、Dex濃度:10nM 、アスコルビン酸濃度:82μg/mlで21日間の2次培養が適当である。ヌードラット大腿骨偽関節モデルを確立した。ヌードラット背部皮下へ移植した人工骨に細胞シートを注入することで人工骨内に骨形成が認められた。
公開日・更新日
公開日
2013-07-11
更新日
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