関節軟骨病変に対する自己滑膜間葉系幹細胞由来三次元人工組織移植法

文献情報

文献番号
201206014A
報告書区分
総括
研究課題名
関節軟骨病変に対する自己滑膜間葉系幹細胞由来三次元人工組織移植法
課題番号
H24-再生-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中村 憲正(大阪大学 臨床医工学融合研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
  • 吉川 秀樹(大阪大学大学院医学系 研究科 整形外科学)
  • 濱崎 俊光(大阪大学大学院医学系 研究科 医学統計学)
  • 齋藤 充弘(大阪大学医学部附属病院未来医療開発部)
  • 早川 堯夫(近畿大学薬学総合研究所)
  • 辻 紘一郎(株式会社ツーセル)
  • 堀部 秀二(大阪府立大学大学院 総合リハビリテーション学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,340,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、多様な組織由来の間葉系幹細胞(MSC)が軟骨分化能をもつことが判明し、幹細胞治療の細胞源として期待されている。これまで多くのMSC移植研究では移植後の安定した生着のために、生体基盤材料(スキャフォールド)が併用されてきた。しかしスキャフォールドの多くは生物(動物)材料、高分子化合物等を含有し、それらが生体に長期的に及ぼす影響は不明である。そこで我々はMSCを用いた細胞治療法として、スキャフォールドを使用せずに培養細胞が産生する細胞外マトリックスを骨格とした人工組織(Tissue Engineered Construct; TEC)を開発した。既にTECの作製技術の確立、大動物を用いた前臨床試験、安全性・毒性試験を実施し、TECの有効性、安全性を確認している。
本研究の目的は、ヒト幹細胞臨床研究を質の高い管理体制の下遂行し、安全性、有効性の科学的根拠を蓄積し、高度医療への移行を円滑に完了させることである。
自己由来の細胞外マトリックス内に幹細胞が未分化状態で分布しかつ軟骨分化能を保持するTECは独創的な技術であり、国際的な評価を得ている(Biomaterials 2007, 2010, Tissue Eng. 2008, 2009、国際軟骨修復学会ICRS, Genzyme Best Poster Award (2006), Cum Laud Award (2009)、日本臨床バイオメカニクス学会研究奨励賞(2005, 2009)。また、国際的知財構築も進行しており(日本、欧州特許取得済、米国移行中)、将来、国際的市場での商品化が期待される。
研究方法
技術開発者の中村が臨床の実施を担当、手術経験の豊富な堀部がTECの移植方法の検討を行い、臨床試験オーガナイザーの濱崎がモニタリング、データマネジメント・統計解析を担当、細胞調製等品質管理担当をトランスレーシショナルリサーチ専門家の斉藤が担当、薬事専門家の早川、さらに本研究に関する技術移転と将来の産業化を希望する企業担当者の辻(株式会社ツーセル)が独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議、折衝(薬事戦略相談)を担当し、共同、協力して研究を実施する。
結果と考察
事前にヒト滑膜由来MSCの調整、移植用TECの作製を医学部附属病院未来医療センター細胞プロセシングセンター内でGMP準拠で行い、行程に品質管理上の問題がない事を確認し、臨床研究体制を確立した。その結果を基に平成24年12月よりヒト幹細胞臨床研究の症例リクルートを開始した。研究の進捗管理は未来医療センターが、モニタリングおよびデータマネジメントはTR拠点データセンターが行った。第1例目の膝から採取した自己滑膜由来MSCの調整、移植用TECの作製は細胞プロセシングセンター内で問題なく行え、平成24年3月に第1例目への移植が完了した。平成25年5月現在、第2例目のMSCの培養中であり、6月に移植予定である。
これまで行った滑膜採取から移植、術後経過において、重篤な有害事象は認めていない。今後症例のリクルートを継続し、臨床研究を進めるとともに、既に移植が終了した症例の安全性・有効性のデータ収集については、プロトコールに沿った評価により行っていく。
PMDAとの薬事戦略相談においては、将来の産業化へ必要な事項の抽出、掌握とそのための対応について協議を開始し、現在進行中である。
本申請によりヒト幹細胞臨床研究がPMDAとの密接な協議の下に進行、完了すれば、自主臨床研究では得られない、薬事審査に使用可能な水準の高いエビデンスが収集できる。その蓄積を、産業化を希望する企業に移転することにより、本研究成果の有効活用が可能である。本研究に関する技術移転と産業化をツーセル社が希望しており、企業の将来的な薬事法に基づく製造販売承認を見据えて、連携して本研究を遂行する。本研究によりヒト幹細胞臨床研究が高度医療へと移行すれば、引き続く企業治験への寄与のみならず、他の再生医療例に対して制度活用の前例を示すことができ、薬事承認や産業化への相乗効果を促し、再生医療発展への貢献が大きく期待される。
医療効果の面からも、本技術が医療化、産業化されれば、変形性関節症を含む軟骨・骨疾患に広く適応できるようになり、国内でも年間約100万人、世界では数千万人規模になる患者のQOLを向上できる可能性があり、その医学的、社会的恩恵は大きい。また現在、変形性関節症に対する人工関節手術の医療コストは年間1000億円以上とされており、本研究に代表される再生型医療がこれら従来型治療に変換されることによる新産業創出の経済効果も大きい。
結論
現在のところ当初の計画から大きく遅れることなく順調に研究が進行している。今後平成26年度中に全5例への移植を完了する予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-10-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201206014Z