関節治療を加速する細胞シートによる再生医療の実現

文献情報

文献番号
201206013A
報告書区分
総括
研究課題名
関節治療を加速する細胞シートによる再生医療の実現
課題番号
H24-再生-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 正人(東海大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 阿久津 英憲(国立成育医療研究センター研究所 生殖細胞医療研究部)
  • 長嶋 比呂志(明治大学 農学部)
  • 加藤 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
  • 加藤 俊一(東海大学 医学部)
  • 小林 広幸(東海大学 医学部)
  • 三上 礼子(東海大学 医学部)
  • 三谷 玄弥(東海大学 医学部)
  • 沓名 寿治(東海大学 医学部)
  • 海老原 吾郎(東海大学 医学部)
  • 長井 敏洋(東海大学 医学部)
  • 小久保 舞美(東海大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
38,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来修復困難と考えられてきた関節軟骨部分損傷に対して、温度応答性培養皿で作製した積層化軟骨細胞シートによる関節軟骨修復再生効果を世界で初めて報告し、修復能力に富んだ積層化軟骨細胞シートの特性を明らかにした。細胞シートによる修復・再生効果を確認し、細胞シート工学という日本オリジナルな技術により、変形性関節症の治療にまで踏み込んだ再生医療の実現を目指している。本研究事業の柱は2つである。「自己軟骨細胞シートによる先進医療の実現」と、「同種軟骨細胞シートによる再生医療を目指した臨床研究の実現」である。ヒト幹細胞臨床研究で安全性評価を速やかに行い、所定の症例数を経て、治療効果を確認し先進医療での実施を目指す。将来的には、患者の手術侵襲を減らすためにも、免疫応答の低い軟骨組織ではレディメイドの同種細胞シートでの実施が不可欠であると考える。企業治験の可能性を検討しながら、自己細胞シートの場合と同様にヒト幹細胞臨床研究の実施を目指すものである。
研究方法
1.自己細胞シートによる臨床研究「細胞シートによる関節治療を目指した臨床研究」の実施。
2.自己細胞処理と安全性に関する研究。
3.複数の同種細胞ソースの検討と細胞ソースの選択とバンキングシステムの構築。
4.細胞シートの保存技術開発とパッケージ技術開発。
5.軟骨細胞シートの同種免疫反応に関する研究。
結果と考察
1.平成24年度末までに7例がエントリーし、4例の患者に軟骨細胞シートの移植を施行した。第1例、第2例は移植後1年を経過し臨床研究を終了した。臨床研究中の重篤な有害事象の発生も認めず、軟骨細胞シート移植による安全で有効な関節軟骨再生効果が得られている。
2.培養により目的外の形質転換を起こしていないことを明らかにするため、培養軟骨シートを用いると考えている通常の培養継代期間を超えて培養した軟骨細胞について、アレイCGH解析、Gバンド分染法を用いて安全性の評価を検討した。アレイCGH解析、Gバンド分染法により自己軟骨細胞の培養中(培養期間、培養作業)によるコピー数の異常は生じないことが確認された。このことから自己培養軟骨細胞をシート化する際の試験評価方法を確立し、現在、臨床サンプルを用いて検証中である。
3.厚労省再生医療推進室とも相談し、トレーサービリティの観点から、現在は国立成育医療研究センター研究所から提供される多指症由来細胞に関して安全性の解析を進めている。多指症由来の軟骨細胞は、手術時に廃棄する組織であるが、高い細胞増殖活性を有し、細胞ソースとして非常に期待できるものである。安全性の評価としては、培養中に生じた変化の検知と、細胞ソース由来の遺伝子異常を考慮する必要があり、それらの評価にはアレイCGH及びGバンド分析法がそれぞれ適していると考えられる。これらを同種軟骨細胞移植の安全性評価として併用することの意義は大きい。
4.軟骨細胞シートの凍結保存法として、実用性の高いガラス化保存法の開発に成功した(coating法)。 さらに実用的技術として発展させるために、パッケージに収容する方法(envelop法)も開発した。これらの方法の再現性が確認されるとともに、envelop法では細胞生存性が有意に低下するという課題も顕在化した。一方で、ガラス化されたウサギ軟骨細胞シートは、細胞外マトリックス(ECM)の主要成分であるタイプIIコラーゲンとプロテオグリカンを正常に維持していることが確認された。また、本研究で開発したガラス化法が、より脆弱なブタ軟骨細胞シートにも適用可能であることや、凍害保護剤として細胞毒性の高いDMSOを除外できる可能性が示唆された。
5. 同種積層化軟骨細胞シートは免疫反応を惹起しないだけでなく、活性化T細胞の増殖を抑制することを認めた。さらにこの抑制効果の一部分にTGF-βが関与していることが示唆された。これらのことより、関節軟骨損傷の治療には、自己だけでなく同種積層化軟骨細胞シートを使用出来る可能性が示唆された。
結論
本研究事業の主要課題である「自己軟骨細胞シートによる先進医療の実現」並びに「同種軟骨細胞シートによる再生医療を目指した臨床研究の実現」は何れも、当初の予想以上の成果が得られた。特筆すべきは、平成24年度末までに7症例がエントリーし、4症例に軟骨細胞シート移植を施行したことである。第1例、第2例は移植後1年を経過し臨床研究を終了した。臨床研究中の重篤な有害事象の発生も認めず、軟骨細胞シート移植による安全で有効な関節軟骨再生効果が得られている。

公開日・更新日

公開日
2013-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201206013Z