本態性高血圧症の遺伝子診断と循環器合併症の進展に関する研究

文献情報

文献番号
199800041A
報告書区分
総括
研究課題名
本態性高血圧症の遺伝子診断と循環器合併症の進展に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
石上 友章(横浜市立大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的はRASの基質であるアンジオテンシノーゲン(AGT)遺伝子多型、なかでも5`上流域の転写調節領域の遺伝子多型およびその他のRAS系遺伝子(AGT遺伝子M235T多型、アンジオテンシン変換酵素遺伝子I/D多型など)の、高血圧症および血管合併症の発症、進展に果たす役割を解明することにある。これまでこの領域に注目した解析では、我々を含めていずれもretrospectiveな解析によるcase-control-studyが中心であった。(Inoue I. et al. J Clin Invest. 1997, Sato N. et al. Hypertension 1997, Ishigami T et al. Hypertension 1997) retrospectiveな検討は、こうした遺伝的危険因子のpreliminaryな検討には適しているが、対象の選択にbiasがもたらされる可能性もあり、さらに正確な検討を期するためにはprospectiveにデザインされた研究を行う必要があると考えられる。本研究は約2,000人を対象にした規模のprospective studyであり、AGT遺伝子の5`上流域遺伝子多型などの遺伝的危険因子が、高血圧症および血管合併症の発症、進展に果たす役割が明らかになれば、薬物に対する治療反応性や臨床表現型との関係が遺伝子レベルで明らかになり、現在よりも理論的で有効な治療法や予防法が開発されるものと予測される。その結果、近未来にはこうした遺伝子多型の検討が、通常の外来診療に応用され、高血圧症を初めとする種々の循環器疾患を遺伝子診断を元にしたリスク管理、疾病の予防に役立てることが可能になると予想される。
研究方法
定期的に健康診断を受けている、当院の関連施設の職員を対象にし、対象の承諾を得て、健康診断の際に採取した血液からDNA抽出キット(Nucleon II, Scot Lab.)を用いてgenomic DNAを抽出する。抽出したgenomic DNAからPCR法によりAGT遺伝子の5`上流領域の265bpを増幅する。得られたPCR産物はSuprec II(TAKARA, Japan)で30-90ngに精製し、Dye-Terminator法で5`primer側の塩基配列を蛍光色素でラベルする。さらに、Centri Sep spin columnで精製し、ABI Prism 310 Genetic Analyzer(Perkin Elmer, USA)で電気泳動して塩基配列を決定する。初年度はこれらの遺伝子型を決定し、過去の蓄積された健診時の血圧値、心電図、血液生化学データとの間の検討を行う。こうして基礎的なデータをそろえた上で複数年に亘る経過観察を行う、あわせて遺伝的危険因子を有する対象には負荷心電図や心臓超音波検査、頚動脈超音波検査を実施し血管合併症の進展を観察する。正常血圧者および、高血圧者で遺伝子型によるfour-corner分析を行う。次年度、次々年度は初年度の基礎データの変遷を解析し、遺伝子多型と血圧値、血液生化学データ、心電図異常の有無を解析し、臨床表現型と遺伝子多型との関連を明らかにする。研究年度終了後も対象者を可能な限り継続して観察し、さらに解析を深める。
結果と考察
研究初年度である本年は、血液の採取、ゲノムDNAを抽出を行い、一部検体の解析を行った。274名の解析結果は、一部を昨年の国際高血圧学会(ISH:Amsterdam)で発表した。その結果は、5`上流領域の遺伝子変異のうち-20 adenine to cytosine変異は血中AGT濃度の決定に関与しており、-6 guanine to adenine変異は随時血圧の決定に関与していることが明らかになった。また、direct sequenceの結果転写開始点の近傍のイントロン1に新規点変異を認め、この変異が-6のguanine to adenine、エクソン2のM235T変異と強く連鎖不均衡状態にあることを見い出した。イントロン1領域にも転写調節因子の結合配列があり、この変異が病因に関与してる可能性が示唆された。
結論
ヒトアンジオテンシノーゲン遺伝子の5`上流転写調節領域の遺伝子変異が、アンジオテンシノーゲンの転写調節の変化を介して、ヒトの血
圧の調節、高血圧の発症に関与していることが明らかになった。

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研究報告書(紙媒体)

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