工学的アプローチに基づく細胞シート培養器具の開発

文献情報

文献番号
201206010A
報告書区分
総括
研究課題名
工学的アプローチに基づく細胞シート培養器具の開発
課題番号
H23-再生-若手-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
福田 淳二(国立大学法人横浜国立大学 大学院工学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 蛯沢 克己(名古屋大学 医学部)
  • 伊藤 大知(東京大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
4,930,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、電気化学的な原理を用いて、細胞シートを培養表面から素早く脱離する独自技術を提案している。特に、ナノ孔を有するメンブラン上へこの技術を応用し、厚みのある細胞シートの作製・積層化を実現する。当該細胞脱離のメカニズムには、金-チオール結合によって培養表面に結合させたオリゴペプチドが電気化学的に還元され脱離する現象を利用している。研究2年目である平成24年度は、電気化学的な細胞脱離に利用するオリゴペプチドについて、静電的な相互作用により自己組織化する配列を2次構造形成の観点から分子動力学計算により選別し、さらに実験的に最適な配列を決定した。一方、多孔質メンブラン上で形成させた厚みのある細胞シートをヌードマウスに移植することでプロセスの安全性を示した。また、細胞シートの取り扱いを容易にするために、膨潤を低減したゼラチンベースの2液混合型ハイドロゲルを作製した。
研究方法
静電力によって自己組織化し、密な層を形成するオリゴペプチドを設計した。そして、この表面に接着させた細胞を短時間で電気化学的に脱離可能かどうか評価した。特に、酸素拡散の観点からメンブラン上で形成できる細胞シートの厚みを決定した。また、血管内皮細胞を細胞シート内に導入することで、血管ネットワーク構造の導入が可能かどうか評価した。さらに、作製した細胞シートをゼラチンベースの生分解性ハイドロゲルを利用して転写し、脱離後の細胞シートの操作および移植部位への確実な固定に利用可能かどうか評価した。
結果と考察
分子動力学計算と実験的な手法により、新しくオリゴペプチドを設計した。このオリゴペプチドは、リンカー部分にプロリンを配置したことで、プロリンヘリックス構造を形成し、このペプチドの修飾表面へのタンパクの非特異吸着を、ほかの両性イオンペプチドと比較しても優位に抑制できることが示された。また、メンブレン上で形成させた細胞シートを電気化学的に脱離し、ヌードマウスへ移植して、2ヶ月以上生着していること、明らかな腫瘍化や、極端な細胞浸潤は認められないことを示した。また、細胞シート内に内皮細胞を導入して共培養したところ、細胞シート内に血管ネットワーク構造が形成されることを示した。カルボキシメチルセルロースとゼラチンを用いて2液混合型化学修飾ハイドロゲルを作製した。細胞接着評価により、2液の混合濃度を変更することによって、容易に分解性を適度に抑えた強度のあるハイドロゲルを得られることを示した。さらに、ゲル化時間が10秒以内ということも示された。細胞毒性評価及び、細胞接着性評価を行い、CMC-Gelatinハイドロゲルが高い生体適合性を持つことを示した。さらに、オリゴペプチドを修飾した金基板上に接着した細胞を電気化学的に脱離させハイドロゲルへ転写可能であった。
結論
電気化学細胞脱離を利用した細胞シートの脱離・積層化を行うための方法を確立した。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201206010B
報告書区分
総合
研究課題名
工学的アプローチに基づく細胞シート培養器具の開発
課題番号
H23-再生-若手-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
福田 淳二(国立大学法人横浜国立大学 大学院工学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 蛯沢 克己(名古屋大学 医学部)
  • 伊藤 大知(東京大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、電気化学的原理に基づき、電位印加のみで培養表面から素早く細胞を脱離する独自技術を提案している。特に、ナノ孔を有するメンブラン上へこの技術を応用することで、厚みのある細胞シートを作成可能であることを示す。
研究方法
当該細胞脱離のメカニズムには、金-チオール結合によって培養表面に結合させたオリゴペプチドが電気化学的に還元され脱離する現象を利用しているが、本研究ではオリゴペプチドの新しい設計から研究を行う。そして、メンブラン上から細胞を電気化学的に脱離可能であることを示す。細胞シート上でゲル化可能な生分解性ハイドロゲルを開発することで、脱離後の細胞シートの容易な取り扱いを可能とする。また、回収した厚みのある細胞シートをヌードマウスへ移植することで本手法の安全性および細胞シートの生着を評価する。また、さらに厚みのある細胞シートの作製に向けて、細胞シート内に血管内皮細胞のネットワーク構造を導入する手法を検討する。
結果と考察
電気化学的な細胞脱離に利用するオリゴペプチドを新しく設計し、素早い細胞脱離が可能な配列を見出した。特に、静電的な相互作用で自己組織化する配列が重要であり、またリンカー部分の2次構造も影響を及ぼすことが示唆された。また、ナノ孔を有するメンブラン上で厚みのある細胞シートを形成させ、これを回収する技術を確立した。そしてこの細胞シートをヌードマウスに移植することでプロセスの安全性を示した。細胞シートの取り扱いを容易にするために、膨潤を低減したゼラチンベースの2液混合型ハイドロゲルを作製した。移植した細胞シートは2ヵ月後も生着していることが示された。さらに厚みのある細胞シートを作製するために、血管内皮細胞を導入した細胞シートを作製したところ、細胞シート内部で血管ネットワーク構造を形成することが示された。以上により、厚みのある細胞シートを形成・回収する手法を確立した。
結論
独自の電気化学的な細胞脱離技術が、細胞シートの回収・積層化に有用であり、再生医療分野において様々な用途に利用可能であることを示した。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201206010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
電気化学的な原理を用いた細胞脱離法を多孔質メンブレンに応用し、厚みのある細胞シートを素早く回収・積層化する方法論を提案した。
臨床的観点からの成果
直接臨床に結びつく研究計画ではなかったものの、開発した培養器具を製品化すれば、広く医学研究室で使用できるものである。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
文科省新学術領域において継続的なプロジェクトとしてさらに発展させている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
Cell culture method and device
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2011/070533
発明者名: J Fukuda, H Suzuki, N Mochizuki, T Kakegawa
権利者名: University of Tsukuba
出願年月日: 20110809
国内外の別: 海外
特許の名称
ハイドロゲル及びその製造方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2011-122183
発明者名: 伊藤大知、鈴木幸光、高橋彬、清水篤志
権利者名: 東京大学
国内外の別: 海外
特許の名称
培養方法及び培養装置
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第4911516号
発明者名: 福田淳二、鈴木博章、稲葉里奈、岡村健太郎
権利者名: 筑波大学
出願年月日: 20080730
取得年月日: 20120803
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
N. Sadr, M. Zhu, T. Osaki, T. Kakegawa, et al.
SAM-based cell transfer to photopatterned hydrogels for microengineering vascular-like structures
Biomaterials , 32 , 7479-7490  (2011)
原著論文2
J. Fukuda, Y. Kameoka, H. Suzuki
Spatio-temporal detachment of single cells using microarrayed transparent electrodes
Biomaterials , 32 , 6663-6669  (2011)
原著論文3
N. Mochizuki, T. Kakegawa, T. Osaki, N. Sadr, et al.
Tissue Engineering Based on Electrochemical Desorption of an RGD-Containing Oligopeptide
Journal of Tissue Engineering and Regenerative Medicine , 7 , 236-243  (2013)
原著論文4
T. Kakegawa, N. Mochizuki, N. Sadr, H. Suzuki, et al.
Cell-adhesive and cell-repulsive zwitterionic oligopeptides for micropatterning and rapid electrochemical detachment of cells
Tissue Engineering , 19 , 290-298  (2013)
原著論文5
T. Kageyama, T. Kakegawa, T. Osaki, J. Enomoto, T. Ito, T. Nittami and J. Fukuda
Rapid engineering of endothelial cell-lined vascular-like structures in in situ crosslinkable hydrogels
Biofabrication , 6 , 025006 -  (2014)
原著論文6
J. Enomoto, R. Takagi, R. Onuki-Nagasaki, S. Fujita, and J. Fukuda
Reverse transfection in microchamber arrays for cell migration assays
Sensors & Actuators: B , 190 , 896-899  (2014)
原著論文7
T. Osaki, T. Kakegawa, T. Kageyama, J. Enomoto, T. Nittami, J. Fukuda
Acceleration of vascular sprouting from fabricated perfusable vascular-like structures
PLoS ONE , 10 (4) , e0123735 -  (2015)
原著論文8
J. Enomoto, N. Mochizuki, K. Ebisawa, T. Osaki, T. Kageyama, D. Myasnikova, T. Nittami, J. Fukuda
Engineering thick cell sheets by electrochemical desorption of oligopeptides on membrane substrates
Regenerative Therapy , 3 , 24-31  (2016)
原著論文9
T. Kageyama, T. Osaki, J. Enomoto, D. Myasnikova, T. Nittami, T. Hozumi, T. Ito, and J. Fukuda
In situ cross-linkable gelatin-CMC hydrogels designed for rapid engineering of perfusable vasculatures
ACS Biomaterials Science & Engineering , 2 (6) , 1059-1066  (2016)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-09

収支報告書

文献番号
201206010Z