パーキンソン病および多系統萎縮症の病態解明に関する研究

文献情報

文献番号
199800040A
報告書区分
総括
研究課題名
パーキンソン病および多系統萎縮症の病態解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
若林 孝一(新潟大学脳研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
パーキンソン病(PD)の大多数は孤発性であり、その原因は今なお不明で
あるが、1997年、常染色体優性遺伝形式を呈するPDにおいてa-synuclein遺伝子が原
因遺伝子であることが判明した。その後a-synucleinはPDにconstantに出現する神経
細胞内封入体であるLewy body(LB)の重要な構成成分のひとつであることが我々を
含む国内外の研究者によって明らかにされた。さらに最近、我々はa-synucleinの異
常蓄積は代表的な脊髄小脳変性症である多系統萎縮症(MSA)のグリア封入体にも広
範に生じていることを見出した。本研究では神経細胞とグリア細胞の両面からPDとMS
Aという二疾患の病態メカニズムを明らかにすることを目的とした。
研究方法
LBの出現を伴う疾患としてPD10例、dementia with LBs(DLB)9例(常染色
体優性遺伝形式を呈する2例を含む)、incidental LB disease(ILBD)8例、Hallerv
orden-Spatz disease(HSD)2例を用いた。さらに、MSA、Alzheimer病、Pick病、進
行性核上性麻痺、corticobasal degeneration、孤発性ALS、家族性ALS、常染色体優
性ならびに常染色体劣性遺伝形式を呈する若年性パーキンソニズム、歯状核赤核淡蒼
球ルイ体萎縮症、Huntington病、Joseph病、myotonic dystrophyを含む56剖検例も対
象とした。各例の病変部位から4ミクロン厚のパラフィン切片を作製。ポリクローナ
ルおよびモノクローナル抗a-synuclein抗体を用いABC法にて免疫染色を施し光顕観察
した。a-Synuclein免疫電顕にはホルマリン固定組織から50ミクロン厚の切片を作製
、浮遊法にて免疫染色を施し、エポン包埋後、超薄切片を作製し電顕観察した。
PD脳におけるグリア封入体の検討には、孤発性PD30例(罹病期間1-30年)、ILBD7例
、正常対照30例を対象とした。各例の中脳から4ミクロン厚のパラフィン切片を作製
。免疫染色にはa-synucleinおよびb-synuclein、タウ、ユビキチン、チュブリンに対
する抗体を用いた。また、アストロサイトのマーカーとしてGFAPとvimentinを、オリ
ゴデンドログリアのマーカーにtransferrinを用い、a-synucleinとの二重免疫染色を
施した。a-Synuclein陽性のグリア封入体はもどし電顕法にて観察した。各例におけ
るグリア封入体の数(一側黒質あるいは半側中脳)を計測するとともに、黒質の神経
細胞脱落の程度を4段階評価し、グリア封入体の数、黒質の神経細胞脱落、罹病期間
の間の相関の有無について検討した。
結果と考察
PD、DLB、ILBD、HSDのいずれにおいてもLBはa-synuclein強陽性を呈し、
pale bodyもa-synuclein陽性であった。さらに、PDでは脳幹を主体に、またDLBでは
海馬および大脳新皮質にa-synuclein陽性の神経突起が認められた。HSDの1例ではDLB
と同様の、他の1例ではPDあるいはDLBよりもさらに広範な部位にLBおよびa-synuclei
n陽性構造物が認められた。MSAではすべてのGCIがa-synuclein強陽性を呈した。さら
に、a-synuclein陽性の封入体は神経細胞の胞体内と核内にも認められた。これらは
橋核、黒質、線条体、視床下核、下オリーブ核、脳幹網様体、弓状核、歯状回顆粒細
胞などに認められたが、プルキンエ細胞には全く認められなかった。グリア細胞の核
内にはごく稀に封入体が認められた。
PDでは30例中24例にグリア封入体が認められた。それらはクロマチンが疎の卵円形
核を取り巻き、コイル状の形態を呈していた。それらはしばしばユビキチン陽性であ
ったが、タウならびにチュブリン陰性であった。二重免疫染色ではa-synuclein陽性
の封入体を有するグリア細胞の多くがアストロサイト由来であった。電顕的には25-4
0nm径のfilamentous structureから成っていた。グリア封入体は黒質の背内側部に好
発する傾向があり、中脳被蓋部にも認められた。少数は青斑核を含む脳幹被蓋にも認
められたが、他の部位には認められなかった。ILBDおよび対照例にはグリア封入体は
認められなかった。PDでは黒質における神経細胞脱落の程度とグリア封入体の数、な
らびに罹病期間とグリア封入体の数の間に相関が認められた。
本研究結果は、a-synucleinの異常蓄積がLB disordersとMSAに特異的であることを
示すものである。特に、LB disordersにおいてはa-synuclein免疫組織化学によって
、この蛋白の蓄積、凝集、そしてレビー小体へと発展してゆく様を早期段階から追う
ことが可能になった。さらに、MSAではa-synucleinの異常蓄積はオリゴデンドログリ
アの胞体内と核内、そして神経細胞の胞体内、突起内、核内の計5つの部位に形成さ
れることが明らかにされた。  LB disordersとMSAでは、ユビキチン・プロテアソ
ーム系による蛋白分解機構に拮抗してa-synucleinの凝集、不溶化が生じていると推
測される。a-Synucleinはそれ自身が凝集しやすい性質を有しているが、この蛋白の
異常蓄積は、前者では神経細胞内におけるLBの形成により、一方、後者では主にオリ
ゴデンドログリア細胞内の封入体として生じている。つまり、このふたつの病態はa-
synucleinの異常を共有している。
結論
a-Synucleinの異常蓄積はLBの出現を伴う疾患とMSAに特異的である。本研究か
ら、この蛋白の異常蓄積は、前者では神経細胞内におけるLBの形成により、一方、後
者では主にグリア細胞内の封入体として生じていることが明らかにされた。さらに、
グリア細胞におけるa-synucleinの異常蓄積は、MSAではオリゴデンドログリア内に生
じ、中枢神経系に広範に分布しているのに対し、PDではアストロサイト内に形成され
、その出現には比較的長い経過を必要とし、中脳にほぼ限局して出現することが示さ
れた。レビー小体病とMSAは神経細胞とグリア細胞におけるa-synucleinの異常を共有
するconformational disorderである。

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