歯髄幹細胞の神経分化能の検証とその治療応用 

文献情報

文献番号
201206001A
報告書区分
総括
研究課題名
歯髄幹細胞の神経分化能の検証とその治療応用 
課題番号
H22-再生-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
上田 実(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 朗仁(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨今、ヒト胎児やES細胞由来の神経幹細胞を用いた難治性神経疾患治療が、現実性のある研究課題として認識されているが、倫理性や安全性に大きな問題を抱えており、実用的な“幹細胞源”については今も模索状態である。医療廃棄物であるヒト脱落乳歯や永久歯親知らず由来の歯髄幹細胞は、神経堤由来の細胞集団であり、神経細胞への分化誘導に高い反応性を示す。自己由来の成体幹細胞であるため移植における安全性が高く倫理的問題も極めて少ない。本研究では「歯髄幹細胞をもちいた難治性神経疾患の治療法の開発と実用化」を目指した。
研究方法
歯髄幹細胞の初代細胞培養株の初期性状を未分化神経幹細胞マーカーの発現やマイクロアレーによる網羅的遺伝子発現解析によって解析した。各種神経疾患動物モデル(ラット脊髄損傷、ラット脳梗塞、マカクサルの脊髄損傷、マウス脳室周囲白質軟化症、ラットパーキンソン病,マウスアルツハイマー型認知症)にヒト歯髄幹細胞及び無血清培養上清(CM)を移植あるいは投与し治療有用性・安全性・治療メカニズムを検証した。
結果と考察
ヒト歯髄幹細胞は多様な未分化神経幹・前駆細胞マーカーを発現する細胞増殖能と多分化能に富んだ間葉系幹細胞である。急性脊髄損傷モデルに移植するとオリゴデンドロサイトに特異的に分化し失われた髄鞘組織を補給した。細胞死抑制、抗炎症、血管再生、軸索伸長などのパラクライン効果によって各種神経疾患モデルにおいて驚くべき神経再生効果を発揮した。重要なことに、歯髄幹細胞CMの投与でも同様な治療効果を確認した。
結論
様々な中枢神経疾患モデルを用いた前臨床研究によって歯髄幹細胞の強力な神経再生効果が明らかとなった。さらに重要なことに、歯髄幹細胞の無血清培養上清(CM)の投与で細胞移植と同等な治療効果が得られることを見出した。歯髄幹細胞は本来我々生体が持っている自己再生を、他に類を見ないほどに活性化することで、損傷後の中枢神経の機能改善を促すことが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201206001B
報告書区分
総合
研究課題名
歯髄幹細胞の神経分化能の検証とその治療応用 
課題番号
H22-再生-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
上田 実(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 朗仁(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨今、ヒト胎児やES細胞由来の神経幹細胞を用いた難治性神経疾患治療が、現実性のある研究課題として認識されているが、倫理性や安全性に大きな問題を抱えており、実用的な“幹細胞源”については今も模索状態である。医療廃棄物であるヒト脱落乳歯や永久歯親知らず由来の歯髄幹細胞は、神経堤由来の細胞集団であり、神経細胞への分化誘導に高い反応性を示す。自己由来の成体幹細胞であるため移植における安全性が高く倫理的問題も極めて少ない。本研究では「歯髄幹細胞をもちいた難治性神経疾患の治療法の開発と実用化」を目指した。
研究方法
ヒトと近縁な解剖・生理・行動学的特徴を有する霊長類マカクサルの脊髄半切モデルにヒト歯髄幹細胞移植、およびアルツハイマー型認知症のマウスモデルにヒト歯髄幹細胞CMを投与し治療有用性・安全性・治療メカニズムを検証した。歯髄幹細胞CMに含まれる神経再生因子の網羅的スクリーニングを行った。
結果と考察
歯髄幹細胞CMが炎症性ミクログリア・マクロファージを抗炎症性に分化誘導することを見出し、新規抗炎症性ミクログリア・マクロファージ誘導因子を同定した。さらにマカクサルの脊髄半切モデルへのヒト歯髄幹細胞移植、およびアルツハイマー型認知症へのマウスモデル歯髄幹細胞CM投与が驚くべき治療効果を発揮することを見出した。
結論
様々な中枢神経疾患モデルを用いた非臨床研究によって歯髄幹細胞の強力な神経再生効果が明らかとなった。さらに重要なことに、歯髄幹細胞の無血清培養上清(CM)の投与で細胞移植と同等な治療効果が得られることを見出した。歯髄幹細胞は本来我々生体が持っている自己再生を、他に類を見ないほどに活性化することで、損傷後の中枢神経の機能改善を促すことが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201206001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究開始時には「歯髄幹細胞移植による神経再生治療の開発」を目指していた。この課題の多くは達成できた。本研究ではそれを上回る研究成果が得られた。難治性神経疾患モデルに対する、歯髄幹細胞CMの治療有用性を見出した点は、まさに特筆すべき成果であり、より低侵襲な神経再生療法の実現を後押しする物である。また、歯髄幹細胞CMに含まれる抗炎症性ミクログリア誘導因子の発見は世界に先駆けた成果である。今後、このような新規神経再生因子による新しい神経再生療法の開発が可能となった。
臨床的観点からの成果
昨今、ヒト胎児やES細胞由来の神経幹細胞を用いた難治性神経疾患治療が、現実性のある研究課題として認識されているが、倫理性や安全性に大きな問題を抱えており、実用化には時間がかかる。本研究は、医療廃棄物であるヒト脱落乳歯や永久歯親知らず由来の歯髄幹細胞が、脳梗塞・脊髄損傷・アルツハイマー病・パーキンソン病に著しい治療有効性を示すことを明らかにした。安全性が高く、倫理的問題も少ない自己由来幹細胞による難治性神経疾患の治療法の開発が可能になった。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
脊髄損傷モデル、脳梗塞モデル、マウス脳室周囲白質軟化症モデルを用いた前臨床研究は米国臨床研究会の最高峰雑誌J Clin InvestやStroke誌に掲載され、特に注目すべき論文としてThe New England journal of medicine, 2012. にて紹介された。100社を越える新聞各社やNHKをはじめとするテレビ局各社でもトピックスとして取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
70件
学会発表(国際学会等)
35件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
歯髄幹細胞を用いた神経疾患治療用組成物
詳細情報
分類:
特許番号: 2010-092585
発明者名: 上田実、山本朗仁、酒井陽
権利者名: 名古屋大学
出願年月日: 20100413
国内外の別: 国内
特許の名称
損傷部治療用組成物
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2011/057412
発明者名: 上田実、山田陽一、山本朗仁
権利者名: 名古屋大学
出願年月日: 20110325
国内外の別: 国外
特許の名称
組織修復活性組成物及びその利用
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2013/084523
発明者名: 山本朗仁、上田実、松原弘記
権利者名: 名古屋大学
出願年月日: 20131224
国内外の別: 国外
特許の名称
炎症性疾患の予防又は治療用組成物
詳細情報
分類:
特許番号: PTC/JP2014/053384
発明者名: 山本朗仁、上田実、松原弘記
権利者名: 名古屋大学
出願年月日: 20140213
国内外の別: 国外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
M. Ueda
Sprayed Cultured Mucosal Epithelial Cell for Deep Dermal Burns
Journal of Craniofacial Surgery  (2010)
原著論文2
M. Ueda, Y. Nishino
Cell Based Cytokine Therapy for Skin Rejuvenation
Journal of Craniofacial Surgery  (2010)
原著論文3
S. Hagiwara, Y. Murakumo, S. Mii, T. Shigetomi, N. Yamamoto, H.et al.
Processing of CD109 by Furin and its Role in the Regulation of TGF-β Signaling
Oncogene  (2010)
原著論文4
Y. Yamada, S. Nakamura, K. Ito, T. Sugito, R. et al.
A Feasibility of Useful Cell-Based therapy by Bone Regeneration with Deciduous Tooth Stem Cells, Dental Pulp Stem Cells, or Bone-Marrow-Derived Mesenchymal Stem Cells for Clinical Study Using Tissue Engineering Technology
Tissue Engineering PartA  (2010)
原著論文5
W. Katagiri, Y. Yamada, S. Nakamura, K. Ito, K. et al.
Regulation of the Canonical Wnt Signaling Pathways During Cell Culture of Human Mesenchymal Stem Cells for Efficient Bone Regeneration
Oral Science International  (2010)
原著論文6
E. Umemura, Y. Yamada, S. Nakamura, K. Ito, K. et al.
Viable Cryopreserving Tissue-Engineered Cell-Biomaterial for Cell Banking Therapy in an Effective Cryoprotectant
Tissue Engineering Part C  (2011)
原著論文7
M. Sugiyama, K. Iohara, H. W. H. Hattori, M. Ueda, et al.
Dental Pulp Derived CD31-/CD146- Side Population Stem/Progenitor Cells Enhance Recovery of Focal Cerebral Ischemia in Rats
Tissue Engineering Part A  (2011)
原著論文8
M. Tamari, Y. Nishino, N. Yamamoto, M. Ueda.
Stem Cell–Derived Growth Factors”, Oral & Craniofacial Tissue Engineering
Oral & Craniofacial Tissue Engineering  (2011)
原著論文9
Y. Nishino, K. Ebisawa, Y. Yamada, K. Okabe,
Human Deciduous Teeth Dental Pulp Cells with Basic Fibroblast Growth Factor Enhance Wound Healing of Skin Defect
Journal of Craniofacial Surgery  (2011)
原著論文10
R. Wadagaki, D. Mizuno, A. Yamawaki-Ogata, M. Satake, H.et al.
Osteogenic Induction of Bone Marrow-Derived Stromal Cells on Simvastatin-Releasing, Biodegradable, Nano-to Microscale Fiber Scaffolds
Annals of Biomedical Engineering  (2011)
原著論文11
K. Sakai, A. Yamamoto, K. Matsubara, S. Nakamura, M et al.
Human Dental Pulp-Derived Stem Cells Promote Locomotor Recovery after Complete Transection of the Rat Spinal Cord by Multiple Neuro-Regenerative Mechanisms
The Journal of Clinical Investigation  (2012)
原著論文12
M. Osugi, W. Katagiri, R. Yoshimi, T. Inukai, H. et al.
Conditioned Media from Mesenchymal Stem Cells Enhanced Bone Regeneration in Rat Calvarial Bone Defects
Tissue Engineering Part A  (2012)
原著論文13
R. Shohara, A. Yamamoto, S. Takikawa, A. Iwase, H. et al.
Mesenchymal Stem Cells of Human Umbilical Cord Wharton’s Jelly Accelerate Wound Healing by Paracrine Mechanism
Cytotherapy  (2012)
原著論文14
M. Ueda, W. Katagiri.
Paradigmshift in Tissue Engineered Bone
Regenerative Research  (2012)
原著論文15
T. Inoue, M. Sugiyama, H. Hattori, H. Wakita, et al.
Stem Cells from Human Exfoliated Deciduous Tooth-Derived Conditioned Medium Enhance Recovery of Focal Cerebral Ischemia in Rats
Tissue Engineering PartA  (2013)
原著論文16
T. Inukai, W. Katagiri, R. Yoshimi, M. Osugi, T, et al.
Novel Application of StemCell-Derived Factors for Periodontal Regeneration
Biochemical and Biophysical Research Communications  (2013)
原著論文17
M. Yamagata, A. Yamamoto, E. Kako, N. Kaneko, K. et al.
Human Dental Pulp-Derived Stem Cells Protect Against Hypoxic-Ischemic Brain Injury in Neonatal Mice
Stroke  (2013)
原著論文18
Y. Ando, K. Matsubara, A. Yamamoto, M. Ueda et al.
Stem cell-conditioned medium accelerates distraction osteogenesis through multiple regenerative mechanisms
Bone  (2014)
原著論文19
K. Matsubara, A. Yamamoto, M. Matsushita, F. Kano et al.
Secreted Ectodomain of Sialic Acid-Binding Ig-Like Lectin-9 and Monocyte Chemoattractant Protein-1 Promote Recovery after Rat Spinal Cord Injury by Altering Macrophage Polarity
Journal of Neuroscience  (2015)
原著論文20
H. Fujii, K. Matsubara, A. Yamamoto, M. Ueda et al.
Dopaminergic differentiation of stem cells from human deciduous teeth and their therapeutic benefits for Parkinsonian rats
Brain Research  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201206001Z