印刷労働者にみられる胆管癌発症の疫学的解明と原因追求

文献情報

文献番号
201205030A
報告書区分
総括
研究課題名
印刷労働者にみられる胆管癌発症の疫学的解明と原因追求
課題番号
H24-特別・指定-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
圓藤 吟史(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 河田 則文(大阪市立大学 大学院医学研究科)
  • 久保 正二(大阪市立大学 大学院医学研究科)
  • 河野 公一(大阪医科大学 公衆衛生学)
  • 祖父江友孝(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 津熊 秀明(大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
  • 久保田 昌詞(大阪労災病院 勤労者予防医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
14,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 オフセット校正印刷会社(A社)の元・現従業員から多数の胆管癌が発生しており、疫学的検討を行うとともに、胆管癌罹患者の臨床的・病理学的な特徴など、被害の全貌を明らかにする。
各種データを活用して、胆管癌について職種、年齢分布、年次推移、地理的特徴など、集積性を検討する。胆管癌特別外来を開設し、実態を明らかにする。
 原因を究明するために、胆管における発がん感受性が高いハムスターを用いて、原因物質として疑われているジクロロメタン(DCM)及び1,2-ジクロロプロパン(DCP)による細胞増殖活性を検索する。

研究方法
 A社元・現従業員は326人を特定し22人を除外した。17症例の臨床所見、検査結果、画像所見、病理標本、治療内容について検討した。
疫学研究として、三府県コホート、四県の地域がん登録、大阪府がん登録、労災病院データベース、全国健康保険協会レセプトデータベースを用いた。
7週齢の雄シリアンハムスター140匹を7群に分け、DCMを63、250及び1000、DCPを25、100及び400 mg/kg/dayの用量で 1日1回強制経口投与した。
結果と考察
A社の全社・全部門・男性の標準化罹患比は358.8 (95%CI: 209.0-574.4)、大阪本社の校正部のみを対象とした場合は1242.1 (723.6-1988.7)と大きな値を示した。標準化死亡比も、それぞれ192.5 (77.4-396.7)、644.1 (258.2-1323.1)と大きな値を示した。
胆管癌17症例は、胆管癌の原発と考えられる部分が比較的太い胆管であり、病理学的には線維化などの慢性胆管傷害のみならず前癌病変や早期癌病変が胆管や胆管付属腺の多くの部位で観察された。
大阪市立大学胆管癌特別外来において、胆道系酵素および腫瘍マーカーの上昇例、肝内胆管癌発症例を経験した。
三府県コホートでは、出版・印刷工業での従事経験がある者の方が、経験のない者よりも胆管がんによる死亡率は高い傾向にあった。四県地域がん登録では、年齢階級別罹患率および死亡率は概ね高齢ほど高くなり、年齢調整罹患率および死亡率は肝内胆管がんでわずかな増加傾向にあり、肝外胆管がんで減少傾向にあった。いずれの部位においても30-49歳の罹患率および死亡率の増加はみられなかった。労災病院データベースで50歳未満の胆管がんの頻度を検討したところ、印刷職は6.7%(15人中1名)、 印刷職を含む製造職では 3.7%、全職種においては3.5%で、製造職と全職種との間で特に大きな差は認めなかった。全国健康保険協会レセプトデータでは印刷業事業所の被保険者(家族含む)の患者数は107人と年齢補正した期待値85.99に対し、やや多い傾向がみられたが、有意でなかった。大阪府および府内市区町村レベルにおいて、若年の胆管がんに関連する罹患率の上昇や罹患リスクの上昇は確認されなかった。50歳未満の肝内および肝外胆管がんで臨床進行度が「限局」で発見された場合は75歳以上の群や「遠隔転移」例と比較し生命予後は良好であった。
シリアンハムスターに明らかな細胞増殖活性は示さなかった。
結論
 A社の元・現従業員の大阪本社の校正部で高い胆管がんの標準化罹患比および標準化死亡比が示され、2006年以前に何らかの物質の曝露があった可能性が示唆された。
胆管癌の特徴的な所見として、多段階発癌であると推測された。胆管癌特別外来では、塩素系溶剤曝露例の胆管癌発症例を経験した。同外来の役割は発症予防および早期発見に貢献することである。
職業についての情報を含むコホートデータで、出版・印刷工業従事経験者の胆管がん死亡リスクに有意な差は認められなかったが、年齢調整死亡率は経験のない者に比べて明らかに高い傾向にあった。地域がん登録のデータからは、肝内胆管がんの罹患率および死亡率はわずかな増加傾向であるが、その他の部位では減少傾向がみられた。若年での罹患率の増加もみられなかった。労災病院DBから、若年性胆管がんと印刷業や製造業など職業歴とに明らかな関連性は認めなかった。協会けんぽデータの解析からは、印刷業で胆管がんが多発しているという証拠は得られなかった。大阪府および府内市区町村レベルにおいて、若年の胆管がんに関連する罹患率の上昇や罹患リスクの上昇は確認されなかった。50歳未満の肝内および肝外胆管がんは早期には発見されにくいが、臨床進行度が「限局」で発見された場合は75歳以上の群や「遠隔転移」例と比較し生命予後は良好であった。
シリアンハムスターにDCM及びDCPを1週間あるいは4週間投与した結果、肝臓、膵臓及び胆嚢のいずれも明らかな細胞増殖活性を示さないと結論した。
DCMおよびDCPの影響と胆管がんの関係を単純に論じることは困難と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-09-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201205030C

収支報告書

文献番号
201205030Z