水道原水の突発的汚染事故発生時の監視体制の構築に関する研究

文献情報

文献番号
201205011A
報告書区分
総括
研究課題名
水道原水の突発的汚染事故発生時の監視体制の構築に関する研究
課題番号
H24-特別-指定-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 良明(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 門上 希和夫(北九州市立大学 国際環境工学部)
  • 浅見 真理(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道原水における突発的水質汚染事故の際に水道水への影響を防止するには、迅速な状況把握と早急な原因究明が求められる。しかし現状、未知物質による突発的な汚染を想定した監視体制やその探索方法について十分には整備されていない。本研究では、今般発生したヘキサメチレンテトラミン(HMT)の利根川への流入に伴うホルムアルデヒドによる水質汚染事故を受け、ホルムアルデヒド監視体制の強化を目的として簡易分析法に関する調査及び検証を行った。同様の事故再発防止のためには、塩素消毒処理によってホルムアルデヒド等を生成する可能性のある物質(前駆物質)を把握しておくことが重要である。そのため、PRTR法第一種指定化学物質を中心に調査、実験的な検証を行い、前駆物質の抽出を行った。また、ホルムアルデヒド水質汚染の早期原因究明に向けた体制を整備するため、ホルムアルデヒド前駆物質等の一斉分析法を開発した。さらに、水道水質基準の想定外の未規制物質による汚染事故に対応し、原因物質のスクリーニングのための網羅的分析法について検討した。
研究方法
水道事業体を対象に、実際に行っているホルムアルデヒド簡易検査法について、その操作手順や留意点等の聞き取り調査を行った。その中から、MBTH比色法(市販キット)、MBTH吸光光度法、アセチルアセトン吸光光度法、AHMT吸光光度法、及び告示法短縮法を選択し、添加回収試験を実施した。ホルムアルデヒド生成能については、HMTを含むアミン類をアルキルアミノ基の周辺構造で分類し、一定時間塩素処理して測定した。実証検査に基づき化学構造式からホルムアルデヒドを生成しやすい物質(ホルムアルデヒド前駆物質)を推定し、リストアップした。PRTR法第一種指定化学物質のうち、12のホルムアルデヒド前駆物質について、LC/MS(/MS)を用いた一斉分析条件及び分析精度の検討を行った。LC-TOF-MSを用いて農薬や生活関連用品等に使用される化学物質を測定し、全自動同定・定量データベースシステム(AIQS-DB)に登録した。65種の農薬については定量値の再現性を調べ、28物質については高感度分析を行うための固相前処理法の検討を行った。33種のアルデヒド前駆物質について同定精度、検量線の直線性、検出限界を確認した。
結果と考察
ホルムアルデヒドの添加回収試験を行った結果、MBTH吸光光度法、アセチルアセトン吸光光度法及びAHMT吸光光度法が、水質基準値レベルのホルムアルデヒドの簡易検査法として有効であることがわかった。一方、河川水等へ混入したホルムアルデヒド前駆物質が塩素処理によって生成したホルムアルデヒドが基準値を超えるかどうかを把握するには、水質(色調、濁度)や残留塩素、その消去剤等の吸光度値への影響をさらに検討する必要があった。ホルムアルデヒド生成能を評価した結果、HMTが最も高く、トリメチルアミン等3級アミン類等も高かった。化学構造からホルムアルデヒド生成能の高い物質をリストアップすることで、水質汚染未然防止のための管理の徹底と監視強化に有用な情報を提供した。LC/MS/MSを用いた一斉分析法は、HMT、N,N-ジメチルアニリンをはじめとする8物質について適用可能であることを示した。LC-TOF-MSを用いることで、23種のアルデヒド前駆物質については10 ppb以下での検出が可能となり、AIQS-DBに登録することで網羅的に解析できることが明らかとなった。これらの分析法は、水質汚染発生時の迅速な原因解明と早急な対策のために利用できると考えられた。
結論
MBTH吸光光度法、アセチルアセトン吸光光度法、及びAHMT吸光光度法は採水現場で簡便かつ短時間にホルムアルデヒドを測定できること、告示法短縮法についても時間制限のある中で多くの結果を出すことが可能であることを示した。ホルムアルデヒド簡易分析法は、水道事業体等が経時的な監視と早急な対応が求められる場合、迅速に状況把握できる手段として、また常時の水質汚染モニタリング法としても有用と考えた。PRTR法指定物質に関しホルムアルデヒド生成能を試験したところ、HMTが最も高く、次いで3級アミン類も高かった。化学構造を基にホルムアルデヒドを多量に生成しやすい物質をリストアップした。本リストは、河川流域での排出抑制の意識を向上させ、水質汚染の未然防止につながると思われた。ホルムアルデヒド前駆物質のLC/MS/MS一斉分析法について検討した結果、ヘキサメチレンテトラミン、N,N-ジメチルアセトアミド等8物質については、良好な分析精度が得られた。また、全自動同定・定量データベースシステムを用いるLC-TOF-MS網羅的分析法を開発した。こうした一斉及び網羅的分析法は、水質汚染発生時の迅速な原因解明と早急な対策のために利用できると考えた。

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201205011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
各種ホルムアルデヒド分析法の検出感度及び再現性を評価し、MBTH吸光光度法、アセチルアセトン吸光光度法、AHMT吸光光度法及び告示法の誘導体化時間短縮法について簡易分析法としての有用性を明らかにした。各種化学物質のホルムアルデヒド生成能を測定し、化学構造からこれを予測可能であることを示した。ホルムアルデヒド前駆物質8種のLC/MS/MS分析法を示した。農薬等、水質汚染事故の原因物質となる可能性のある物質をデータベースシステムに登録し、LC-TOF-MSを用いる網羅的分析法を開発した。
臨床的観点からの成果
水質汚染事故発生時には、経時的な監視と早急な対応が求められる。簡易分析法は、迅速に状況把握できる手段として有用であり、前駆物質の一斉及び網羅的分析法は、水質汚染の原因解明手段として有効であることを示した。
ガイドライン等の開発
厚生労働省が本年3月にとりまとめた「水道水源における消毒副生成物前駆物質汚染対応方策検討会(とりまとめ)」の検討において、浄水施設での対応が困難な物質の抽出や水道原水の監視にかかる分析方法について、本研究の成果が活用された。また、本とりまとめを踏まえ、3月28日厚生労働省課長通知「水道水源における水質事故への対応の強化」が発出され、ホルムアルデヒド前駆物質のリストが示された。
その他行政的観点からの成果
塩素処理によるホルムアルデヒドの生成能の実験結果から、浄水施設での対応が困難な物質で水道に危害が及ぼす恐れのある物質が抽出され、「水道危害項目(仮称)」設定の契機につながった。これにより、今後はこれらの項目の水質管理や検査法の開発が促進され、水質事故の未然防止と、水道管理の向上が期待される。環境省は昨年9月に水質汚濁防止法施行令を一部改正し、指定物質にヘキサメチレンテトラミンを追加しているが、ヘキサメチレンテトラミンの検査マニュアルの作成にあたっては、本研究成果が活用された。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
小林憲弘,杉本直樹,久保田領志,他
利根川水系の浄水場におけるホルムアルデヒド水質汚染の原因物質の特定
水道協会雑誌 , 81 (7) , 63-68  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-05-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201205011Z