文献情報
文献番号
199800037A
報告書区分
総括
研究課題名
神経変性疾患におけるグルタミン酸トランスポーターの関与機構の解明
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
田中 光一(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
グルタミン酸作動性神経伝達系の異常はパーキンソン病・アルツハイマー病・ALSなどの慢性的神経変性疾患の発症機構との関連から注目されている。グルタミン酸トランスポーターは脳内のグルタミン酸濃度調節に主要な役割を果たしている機能分子である。本研究では申請者が作成したグルタミン酸トランスポーター欠損マウスを用い、神経変性疾患におけるグルタミン酸トランスポーターの役割を明らかにする。また、グルタミン酸トランスポーター分子の活性を制御する薬物を検索し、新しい作用機作の神経変性疾患治療薬を発見するための基礎研究を行う。
研究方法
(1)急性神経疾患におけるグルタミン酸トランスポーターの役割:外傷のモデルとしてcold-injuryを用いる。この実験は、液体窒素で冷却した金属棒を大脳・小脳に15秒当て、その部位に生じる浮腫性変性領域の大きさをノックアウトマウスと野生型マウスで比較する。また、虚血のモデルとして高眼圧負荷による網膜病変の程度を検討した。この実験は、前眼房に刺入した注射針を通し眼圧を150cmH2Oに60分間保ち網膜の血流を遮断し、1週間後に網膜の厚さを測定し虚血病変の程度を欠損マウスと野生型マウスで比較する。(2)慢性的な興奮毒性におけるグルタミン酸トランスポーターの役割:長期生存した(生後1年)欠損マウスを用いその表現型(運動麻痺・小脳症状など)及び中枢神経系の組織学的解析を行った。GLT1欠損マウスは、致死性のてんかん発作で4カ月以内に死亡してしまうので、抗てんかん薬により生後1年まで生存したGLT1欠損マウスを研究に用いた。(3)グルタミン酸トランスポーター活性化薬物の検索:すでに作成済みのGLASTを安定に発現している細胞株を用い、グルタミン酸の取り込み活性を増加させる薬物を検索した。グルタミン酸の取り込み活性は、3Hラベルしたグルタミン酸を細胞外液に加え、細胞に15分間取り込ませた後洗浄し、SDSで可溶化し、放射能活性を測定した。
結果と考察
(1)急性神経疾患におけるグルタミン酸トランスポーターの役割:外傷のモデルとしてcold injuryに関しては、GLAST欠損マウスでは大脳損傷は変化なかったが、小脳損傷が悪化していた。対照的に、GLT1欠損マウスでは、小脳損傷は変化なかったが、大脳損傷が悪化していた。虚血のモデルとして高眼圧負荷による網膜病変に関しては、GLAST, GLT1欠損マウスとも虚血負荷後の網膜の厚さは、野生型に比べ薄くなったが、その程度はGLAST欠損マウスの方がより大きかった。これらの結果は、GLASTは小脳・網膜において、GLT1は大脳において、神経細胞を急性の興奮毒性から保護するのに重要な役割を果たしていることを示している。(2)慢性的な興奮毒性におけるグルタミン酸トランスポーターの役割:生後1年のGLAST欠損マウスは、生後4週齢で見られる軽度の協調運動障害(1分間に10回回転している棒の上にいる時間に差はないが、1分間に20回回転している棒の上にいる時間は、野生型に比べ短い)以外の明らかな小脳症状(失調歩行・企図振顫)は観察されなかった。また、組織学的解析でも小脳に神経変性像は観察されなかった。抗てんかん薬により生後1年まで生存したGLT1欠損マウスの体重は野生型に比べ小さいが、運動麻痺・筋力低下などの症状は観察されなかった。また、大脳・脊髄において神経細胞変性像は観察されなかった。これらのことは、グリア型グルタミンン酸トランスポーターの機能異常だけでは、様々な慢性神経変性疾患における神経細胞死のメカニズムを説明できないことを示している。しかし、興奮毒性が慢性神経変性疾患における神経細胞死に関与していることを示唆するデーターがあり、これら欠損マウスはそれを実験的に検証するよいモデル動物であり、
今後の課題である。(3)グルタミン酸トランスポーター活性化薬物の検索:GLASTのグルタミン酸の取り込み活性を増加させる薬物として、amino acid alkaloids (ergotamine, bromocriptine, dihydroergotamine) を見つけた。薬理学的解析から、amino acid alkaloidsは、GLASTのグルタミン酸に対するMichaelis constantを減少させることにより、取り込み活性を増強させることがわかった。(1)の結果から、虚血・外傷などの急性神経疾患における細胞死に興奮毒性が関与し、グルタミン酸トランスポーターは興奮毒性から神経細胞を保護するのに重要な役割を果たしている。従って、申請者が見つけたグルタミン酸トランスポーターの活性を促進させる薬物は急性神経疾患に対する新しい神経細胞保護薬になりえる。しかも、グルタミン酸トランスポーターの活性を増強する薬物はスナプス伝達に影響を与えず、副作用の少ない新しい神経細胞保護薬としての可能性を秘めている。本研究により見つけたグルタミン酸トランスポーター活性促進薬amino acid alkaloids (ergotamine, bromocriptine, dihydroergotamine)は新しい神経保護薬開発のプロトタイプになると考えられる。
今後の課題である。(3)グルタミン酸トランスポーター活性化薬物の検索:GLASTのグルタミン酸の取り込み活性を増加させる薬物として、amino acid alkaloids (ergotamine, bromocriptine, dihydroergotamine) を見つけた。薬理学的解析から、amino acid alkaloidsは、GLASTのグルタミン酸に対するMichaelis constantを減少させることにより、取り込み活性を増強させることがわかった。(1)の結果から、虚血・外傷などの急性神経疾患における細胞死に興奮毒性が関与し、グルタミン酸トランスポーターは興奮毒性から神経細胞を保護するのに重要な役割を果たしている。従って、申請者が見つけたグルタミン酸トランスポーターの活性を促進させる薬物は急性神経疾患に対する新しい神経細胞保護薬になりえる。しかも、グルタミン酸トランスポーターの活性を増強する薬物はスナプス伝達に影響を与えず、副作用の少ない新しい神経細胞保護薬としての可能性を秘めている。本研究により見つけたグルタミン酸トランスポーター活性促進薬amino acid alkaloids (ergotamine, bromocriptine, dihydroergotamine)は新しい神経保護薬開発のプロトタイプになると考えられる。
結論
虚血・外傷などの急性神経疾患において、グリア型グルタミン酸トランスポーターは興奮毒性から神経細胞を保護するのに重要な役割を果たしている。GLASTは小脳・網膜において、GLT1は大脳において、重要な役割を果たしている。また、シナプス伝達への影響の少ない、新しい神経細胞保護薬のプロトタイプになるグルタミン酸トランスポーター活性増強薬amino acid alkaloids (ergotamine, bromocriptine, dihydroergotamine)を見つけた。
公開日・更新日
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更新日
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