日米医学協力を基軸としたHIV/AIDSの研究とアジアとの連携

文献情報

文献番号
201204008A
報告書区分
総括
研究課題名
日米医学協力を基軸としたHIV/AIDSの研究とアジアとの連携
課題番号
H24-国医-指定-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岩本 愛吉(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 満屋 裕明(熊本大学 生命科学研究部)
  • 俣野 哲朗(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 有吉 紅也(長崎大学 熱帯医学研究所)
  • 塩田 達雄(大阪大学 微生物病研究所)
  • 高橋 秀実(日本医科大学 医学部)
  • 松下 修三(熊本大学 エイズ学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,113,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、日米医学協力エイズ専門部会の設置目的を踏まえ、日本の専門家が自身の研究を深めながら、米国の研究者との交流を深め、その成果をアジアに還元することを目的とする。抗HIV薬は著しく進歩したが、その成果がアジアにおいて十分行かされていない。また、HIVに対するワクチンは開発されておらず、HIVに対する免疫応答の研究や動物モデルを用いた研究が極めて重要である。本研究は、分野を異にする日本有数のHIV専門家が個人研究を推進しながら、日米協力関係を基軸として、世界の最先端を行く米国の研究者と情報交換しつつ、アジアにおけるHIVの研究・治療の進歩、感染対策、若手研究者の育成等に協力することが特色であり、他に例を見ない取り組みである。
研究方法
岩本は研究班全体の総括を行いつつ、HIV特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の抗原認識機構とそれからの逃避機構について、蛋白構造解析を中心とした研究を行う。中国の蛋白質構造研究者やHIV感染の多い地域の研究者と共同研究を行う。薬剤耐性ウイルスの分子疫学研究に役立つ技術開発を行う。俣野は、霊長類モデルにより、CTLからの逃避が困難なHIV抗原領域あるいはHIV複製に重要な抗原領域を同定する。松下は、アジアで流行する様々なサブタイプウイルスに対する交差反応性及び交差中和活性を持つ抗体の研究を行う。塩田は、HIV抑制に働く宿主因子TRIM5αの作用機序を明らかにする。また、有吉と協力して、アジアのHIV感染コホートとの共同研究を行う。高橋は、樹状細胞やNKT細胞などHIV感染における自然免疫機構の研究を行う。有吉は、アジアで独自に樹立したコホート研究により、HIVに対する感染抵抗性や病態進行遅延に関する解析を行う。満屋は第2世代プロテアーゼ阻害薬を研究し、耐性発現に抵抗(又は発現を阻止)する新規の抗HIV薬のデザイン・合成・同定を目指す。
結果と考察
日本人を含む東アジア人に多いHLA多型に関連したHIV変異体とそれに対応したCTLのT細胞受容体の複合体の結晶構造を解明した。多数のサブタイプに対応できる重要なHIV薬剤耐性の検出法を開発した(岩本)。SIV感染サルにおけるCTL反応と血漿中ウイルス由来ゲノムの塩基配列解析からCTL逃避変異を同定した(俣野)。アジア地域で感染が拡大しているサブタイプ Cや組換え型ウイルスCRF01_AEに対する中和抗体反応に関して成果を得た。ウイルス表面糖タンパク質を標的とした治療法の開発やワクチン候補の選択に有用な成果である(松下)。HIVの複製を抑制する宿主因子Trim5αとウイルスカプシドの結合について検討し、カプシド内の少なくとも半数が感受性であれば、ウイルスはTrim5αに感受性の表現型を示すことが明らかとなった。タイのHIV感染者コホート研究で抗レトロウイルス薬によるリポアトロフィーの発症がFas遺伝子の多型に関する成果を得た。アジアにおける抗HIV療法の安全性向上に貢献しうる(塩田)。HIVの主要な標的細胞であるCD4陽性T細胞だけでなく、自然免疫担当細胞群に感染しているHIVも、CCR5を副受容体とするウイルスが主要であることを確認した。後者の制御にHIV nef蛋白質やγδT細胞が重要であることを明らかにした(高橋)。北タイのランパン総合病院におけるHIV感染者夫婦コホートにおいて、HIV感染およびウイルス量と相関する宿主遺伝子多型(HLA等)を解析し、HLA多型性と相関したGag領域のアミノ酸変異を明らかにした(有吉)。二量体化に重要とされるHIVプロテアーゼのアミノ酸を置換した変異プロテアーゼを作製し、二量体形成の動的変化を解析し、さらに強力な阻害薬であるダルナビル(DRV)との相互作用を明らかにした(満屋)。
2013年3月シンガポールのマンダリン・オリエンタルホテルにおいて、EIDシンポジウムが開催される機会に日米エイズパネル合同会議を開催し、研究成果等に付き研究者が発表・討議し、情報交換を行った。日本側からは、岩本、俣野、松下、高橋等の班員が参加した。米国からは、Alan Shultz博士(NIH/NIAID)、James Mullins教授(ワシントン大学)、Tom Hope教授(ノースウェスタン大学)等の参加を得、アジアからも劉煥亮教授(中山大学)、李洪教授(雲南CDC)や若手研究者、学生等が参加した。
結論
研究分担者の個別研究を進展させたとともに、アジアの研究者を交えて日米のHIV/AIDSの専門家が会して、有意義な情報交換を行った。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201204008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
2013年3月シンガポールにおいて、EIDシンポジウムが開催される機会に日米エイズパネル合同会議を開催し、研究成果等に付き研究者が発表・討議し、情報交換を行った。日本側からは、岩本、俣野、松下、高橋等の班員が参加した。米国からは、Alan Shultz博士(NIH/NIAID)、James Mullins教授(ワシントン大学)、Tom Hope教授(ノースウェスタン大学)等の参加を得、アジアからも劉煥亮教授(中山大学)、李洪教授(雲南CDC)や若手研究者、学生等が参加した。
臨床的観点からの成果
該当無し。
ガイドライン等の開発
該当無し。
その他行政的観点からの成果
該当無し。
その他のインパクト
EIDシンポジウム、エイズ専門部会を通じて、米国及びアジアの研究者と交流し、日米医学協力の目的に貢献した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kikuchi T, Iwatsuki-Horimoto K, Iwamoto A. et al.
Improved neutralizing antibody response in the second season after a single dose of pandemic (H1N1) 2009 influenza vaccine in HIV-1-positive adults.
Vaccine , 30 (26) , 3819-3823  (2012)
原著論文2
Nakayama, K., Nakamura, H., Iwamoto, A., et al.
Imbalanced Production Of Cytokines By T Cells Associates With The Activation/Exhaustion Status Of Memory T Cells In Chronic HIV-1 Infection.
IDS Research and Human Retroviruses , 28 (7) , 702-714  (2012)
原著論文3
Adachi E, Koibuchi T, Iwamoto A, et al.
Favourable outcome of progressive multifocal leukoencephalopathy with mefloquine treatment in combination with antiretroviral therapy in an HIV-infected patient.
Int J STD AIDS , 23 (8) , 603-605  (2012)
原著論文4
Nomura S, Hosoya N, Iwamoto A, et al.
Significant reductions in Gag-protease-mediated HIV-1 replicationcapacity during the course of the epidemic in Japan.
J. Virol. , 87 (3) , 1465-1476  (2013)
doi: 10.1128/JVI.02122-12
原著論文5
Nomura T, Yamamoto H, Matano T. et al.
Significant reductions in Gag-protease-mediated HIV-1 replicationcapacity during the course of the epidemic in Japan.
J. Virol. , 86 , 6481-6490  (2012)
原著論文6
Takahashi N, Nomura T, Matano T. et al.
A novel protective MHC-I haplotype not associated with dominant Gag-specific CD8+ T-cell responses in SIVmac239 infection of Burmese rhesus macaques.
PLoS ONE , 8 , 54300-  (2013)
原著論文7
Yokoyama M, Naganawa S, Matsushita S, et al.
Structural Dynamics of HIV-1 Envelope Gp120 Outer Domain with V3 Loop.
PLoS ONE , 7 (5) , 37530-  (2012)
原著論文8
Ong Y T, Kirby K A, Matsushita S, et al.
Preparation of biological active single-chain variable antibody fragments that target the HIV-1 gp120 v3 loop.
Cellular and molecular biology , 58 , 71-79  (2012)
原著論文9
Harada S., Yoshimura K., Matsushita S., et al.
Impact of antiretroviral pressure on selection of primary HIV-1 envelope sequences in vitro.
J. Gen. Virol.  (2013)
原著論文10
Kuwata T., Takaki K., Matsushita S, et al.
Conformational epitope consisting of the V3 and V4 loops is a target for potent and broad neutralization of simian immunodeficiency viruses.
J. Virol.  (2013)
原著論文11
Sapsutthipas S, Tsuchiya N, Ariyoshi K, et al.
CRF01_AE-specific neutralizing activity observed in plasma derived from HIV-1-infected Thai patients residing in northern Thailand: comparison of neutralizing breadth and potency between plasma derived from rapid and slow progressors.
PLoS One , 8 (1) , 53920-  (2013)
原著論文12
Mori M, Matsuki K, Ariyoshi K, et al.
Development of a novel in silico docking simulation model for the fine HIV-1 cytotoxic T lymphocyte epitope mapping.
PLoS One , 7 (7) , 41703-  (2012)
原著論文13
Sriwanthana B, Mori M, Ariyoshi K, et al.
The effect of HLA polymorphisms on the recognition of Gag epitopes in HIV-1 CRF01_AE infection.
PLoS One , 7 (7) , 41696-  (2012)
原著論文14
Tsuchiya N, Pathipvanich P, Ariyoshi K, et al.
Chronic hepatitis B and C co-infection increased all-cause mortality in HAART-naive HIV patients in northern Thailand.
Epidemiol Infect. , 1 , 1-9  (2012)
原著論文15
Nakagawa, Y., Shimizu, M., Takahashi, H., et al.
Induction of rapid apoptosis for class I MHC molecule-restricted CD8+ HIV-1 gp160-specific murine activated CTLs by free antigenic peptide in vivo.
Int. Immunol. , 25 (1) , 11-24  (2013)
原著論文16
16. Takaku, S., Nakagawa, Y., Takahashi, H., et al.
Induction of apoptosis-resistant and TGF-β-insensitive murine CD8+ CTLs specific for HIV-1 gp160.
Cell. Immunol.  (2013)
原著論文17
Nomaguchi M, Yokoyama M, Shioda T, et al.
Gag-CA Q110D mutation elicits TRIM5-independent enhancement of HIV-1mt replication in macaque cells.
Microbes Infect. , 15 (1) , 56-65  (2013)
原著論文18
Likanonsakul S, Rattanatham T, Shioda T. , et al.
Polymorphisms in Fas gene is associated with HIV-related lipoatrophy in Thai patients.
AIDS Res Hum Retroviruses. , 29 (1) , 142-150  (2013)
原著論文19
Zhang X, Sobue T, Shioda T, et al.
Elicitation of Both Anti HIV-1 Env Humoral and Cellular Immunities by Replicating Vaccinia Prime Sendai Virus Boost Regimen and Boosting by CD40Lm.
PLoS ONE , 7 (12) , 51633-  (2012)
原著論文20
Miyamoto T, Nakayama EE, Shioda T., et al.
The carboxyl-terminus of human immunodeficiency virus type 2 circulating recombinant form 01_AB capsid protein affects sensitivity to human TRIM5α.
PLoS ONE , 7 (10) , 47757-  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201204008Z